そよ風のような甘さ、ハーバルな余韻 “沖縄黒糖”のポテンシャルを探る。
12/14(木)~沖縄黒糖®フェア開始!
2023.12.14

【PROMOTION】text by Rieko Seto / photographs by Shigehisa Uesugi, Ayumi Okubo
高温多湿、年間気温20℃以上という沖縄の気候を生かし、太陽の恵みをたっぷり浴びたサトウキビから作られる「沖縄黒糖」。東京・赤坂のフランス料理店「アマラントス」宮﨑慎太郎シェフと、東京・代々木八幡のベーカリー「365日」杉窪章匡シェフが、そのポテンシャルを探ります。
目次
- ■島ごとに味が異なる「沖縄黒糖」
- ■どこをとっても循環型。黒糖作りは、離島経済の要
-
■<フレンチシェフが探る沖縄黒糖の生かし方>
随所に黒糖の味と香りを重ねて、繊細な風味を表現
__「アマラントス」宮﨑慎太郎シェフ -
■<ベーカリーシェフが探る沖縄黒糖の生かし方>
黒糖は、言わば全粒粉。雑味を個性と捉え、舌にダイレクトに伝える
__「365日」「ジュウニブンベーカリー」杉窪章匡シェフ - ■防空壕で生き延びた伊江島の伝統小麦「江島神力」
- ■新鮮なサトウキビの搾り汁で造る地酒「イエラム」
島ごとに味が異なる「沖縄黒糖」

『さとうきび畑』(寺島直彦作詞・作曲)の歌詞そのままに、「ざわわ、ざわわ」と緑の波のように葉を揺らすサトウキビ畑は、沖縄を象徴する景色のひとつだ。中でも正式に「沖縄黒糖®」と呼べるのは、8つの島(伊平屋島、伊江島、粟国島、多良間島、小浜島、西表島、波照間島、与那国島)のサトウキビから作られた黒糖のみ。島ごとの気候風土がそのまま凝縮され、異なる味わいが楽しめる。
2023年9月、フランス料理店「アマラントス」宮﨑慎太郎シェフとともに向かったのは、沖縄本島北部の先に浮かぶ周囲23kmののどかな島、伊江島。
沖縄本島の本部港からフェリーで渡ること約30分。沖縄本島北部にある人気の観光スポット「沖縄美ら海水族館」の対岸に位置し、タッチューと呼ばれる城山(ぐすくやま)を中心に広がる自然豊かな島として知られている。

まず訪れたのは知念和幸さんが育てるサトウキビの畑だ。畑の広さは合わせて1万坪あまり。家族で畑を管理し、サトウキビと島ラッキョウとの輪作を行う。
「サトウキビで大事なのは、いかに糖度を高く育てるか。そのためにはよい土づくりをして、雑草を生やさない体系づくりが必要」と、知念さん。
知念さんの畑では、契約する畜産農家から運ばれた牛糞を堆肥にしてたっぷり撒くとともに、1.4メートルほどの間隔をあけてサトウキビを植え、トラクタで土を耕して雑草を抑えている。
「沖縄の気候ならサトウキビは放っておいても育つけれど、怠けないでよく面倒をみてやると、味のいいサトウキビができるよ」と、胸を張る。
伊江島のサトウキビを100%使用した黒糖は、比較的白っぽく、繊細な口当たり。コク深くバランスの良い味わいで、酸味があり、ハーブのようなボタニカルな香りが特徴的だ。
「程よい塩味もあって、後味がすっきり。軽やかでサクサク食べられちゃいますね」と、宮﨑シェフ。

高い光合成能力を持つサトウキビは、日差しが強い沖縄に適した作物だ。台風で倒されても、また上へ上へと力強く伸びてくる。知念さんによれば、本来、粘り気のある土質のほうがサトウキビには合うが、サンゴ礁が隆起して生まれた伊江島は、非常に水はけのよい土壌。糖度がのりやすく、海からの潮風とも相まってミネラル豊富なサトウキビに育つというメリットがある。
「昔のおじいちゃんは黒糖をなめながらお茶を飲んでいたからね。サトウキビの汁だけでつくる純粋なものだし、長寿の秘訣だね」。そのまま食べるほか、「オブシャ」と呼ばれる蒸しパンに練りこむこともあるという。

サトウキビは寒さが訪れると糖度が上がり、収穫期は12月から翌2月。半分は機械を使い、残り半分は手刈りして葉を落とし、工場へと運ばれる。
「重労働だけど、体を動かしたほうが健康にはいいよ」と、おおらかに笑う知念さん。鎌を片手に畑からサトウキビを1本刈り取り、「収穫の途中によく、こうやって食べるよ」と皮の剥き方を教えてくれた。採れたてのサトウキビから優しい甘味が溢れ出す。



どこをとっても循環型。黒糖作りは、離島経済の要
次に訪れたのは、伊江港近くに位置する伊江製糖工場だ。伊江島ではサトウキビの生産量が1983年をピークに大きく落ち込み、製糖工場も閉鎖されていた。しかし、島の産業を守ろうと、2011年に村が新たに処理能力50トンの製糖工場を建設。JAおきなわが運営を担って黒糖作りが始動した。
「無精製で栄養分がそのまま閉じ込められ、味に複雑味もあって、近年、人気が広がってきています」と語るのは、JAおきなわ農業振興本部マーケティング戦略室・副室長の栢野英理子さん。
伊江製糖工場は年々増産傾向にあり、昨年は800トンの黒糖を生産。刈り取られたサトウキビは、鮮度を損なうことなくすぐに工場へと運び込まれ、手作業での選別ののちに圧搾、沈殿・濾過、段階的な濃縮を経て、自然の風味あふれる黒糖へと姿を変えていく。

黒糖は加工度の低い砂糖であることに加えて、サトウキビは高い光合成能力を発揮するC4植物であり、CO2の吸収力も高い。黒糖製造過程で出たバガス(サトウキビの搾りかす)は燃料としてボイラーに運ばれ、これによって工場が稼働するため、重油使用量はゼロ。さらに、燃え残りの灰や、沈殿による不純物は回収され、肥料として畑に戻し、冷えた蒸気のドレイン水は掃除などに使用。廃棄されるゴミもほとんどない。
これには宮﨑シェフも、「ここまで循環型なのは、すごいですね」と感心しきり。サトウキビは台風で倒れてもまた伸びて全滅することはなく、黒糖に加工すれば日持ちし、船便が少ない離島でも安定した産物になる。
黒糖の生産は、離島の経済を維持しながら、製糖の歴史を守り継いでいる。



<フレンチシェフが探る沖縄黒糖の生かし方>
随所に黒糖の味と香りを重ねて、繊細な風味を表現
__「アマラントス」宮﨑慎太郎シェフ

伊江島での旅の記憶を胸に、帰京した宮﨑シェフが生み出したのは、伊江島産黒糖をさまざまな形で生かしたメイン、デザート、シフォン・サレの3品だ。
これまで黒糖を意識して使ったことはなかったという宮﨑シェフ。伊江島産黒糖を試食して最初に感じたのは、「甘さというよりも調味料だな」という印象だった。スパイスやハーブ、コクを出すブイヨンのような立ち位置で黒糖を捉えると、料理の中での使い道はぐっと広がる。そして肉を伊江島産黒糖でマリネしてから焼き上げることを思いついた。
選んだのは、蝦夷鹿のシンタマだ。「脂があって甘味の感じる肉よりも、赤身に合わせると肉のコクが増しておいしいのではないか、と。伊江島産黒糖は甘すぎず、香り高くてスパイス感がある。それが鹿や鳩といった土っぽく血やレバーのような香りをもつ肉によく合います」

まずは蝦夷鹿肉を伊江島産黒糖で軽くマリネし、溶けたところで塩、コショウをまぶしてオーブンでロースト。バターをたっぷり熱したフライパンでアロゼしながら表面を焼き付け、香ばしさを出す。仕上げは、キャラメル状にした黒糖に蝦夷鹿のジュとホワイトバルサミコ、コショウを合わせて加え、肉にまとわせる。
ソースは赤ワインとポルト酒を煮詰め、蝦夷鹿のだしと合わせた。
「非常にバランスが取れた黒糖なので、キャラメルにしてそのまま肉にまとわせていくイメージです。甘味が突出せず、素材から自然に出る甘さに感じる。風味やクセが強すぎないので、スパイスとしても使いやすいですね」
2品目はデザート。主役となるのは、伊江島産黒糖と柚子だ。
まず驚かされるのは、全体を覆う極薄メレンゲの繊細さ。「伊江島産黒糖を使ったフレンチメレンゲを薄くのばし、セルクルで形作って低温で乾燥させながら焼き上げています」。ナイフを当てればはかなく割れ、軽やかにほろっと口の中で溶けて、伊江島産黒糖のハーバルでスパイシーなやさしい香りがふわり。


中には伊江島産黒糖を使ったカスタードベースの軽やかなムースと、カカオ分70%のビターチョコレートのガナッシュが隠れ、中には、柚子果汁に伊江島産のラム酒「イエラム サンタマリア ゴールド」と伊江島産黒糖を加えた、さらりとしたソースが。さらに香り高いプラリネと伊江島産黒糖のエスプーマも現れ、多彩な食感が入り混じりながら、清々しく力強い酸味とやわらかなコク、おだやかなスパイシーさがひとつになる。
「レストランデザートとして食事の後に召し上がっていただくことを前提に、メレンゲ、ムース、エスプーマなど随所に伊江島産黒糖の味と香りを重ねながら、繊細な風味を表現しました」
そして3品目は、伊江島産黒糖と伊江島で古くから受け継がれる小麦「江島神力」の全粒粉を使ったシフォン・サレだ。全粒粉にキャラメル色に炒めたタマネギや塩、黒糖メレンゲ、ベーコンとグリュイエールチーズを混ぜ込み、オーブンへ。

「江島神力は中力粉なので薄力粉で作るより伸びのある生地に仕上がりました。全粒粉でもクセが強すぎず、ほどよい穀物感です。黒糖と全粒粉によって縁はサクッと、中はしっとりコク深く、香ばしさの感じられるシフォン・サレに仕上がったと思います。黒糖らしい甘味がじんわり広がるのもいいですね」

◎アマラントス
東京都港区赤坂2-18-5 FUN ART AKASAKA 2F
☎03-5797-8585
18:00~24:00(土曜、日曜、祝日は 18:30~)
土曜、日曜、祝日ランチ 12:00~13:00LO
不定休
amarantos2021.com
◎沖縄黒糖フェア
2023年12月14日(木)~12月28日(木)の期間中、「蝦夷鹿ロースト 伊江島産黒糖キャラメリゼ イエラムレーズン添え」「伊江島産黒糖のメレンゲ 柚子ソース」「江島神力と伊江島産黒糖のシフォン・サレ」の3品をコース(¥19,800・税込み)内で提供
<ベーカリーシェフが探る沖縄黒糖の生かし方>
黒糖は、言わば全粒粉。雑味を個性と捉え、舌にダイレクトに伝える
__「365日」「ジュウニブンベーカリー」杉窪章匡シェフ

ベーカリーとして、伊江島産黒糖の繊細でいて深みある味わいを生かしたパンを作ってくれたのは、東京・代々木八幡「365日」や、三軒茶屋「ジュウニブンベーカリー」のオーナーシェフを務める杉窪章匡シェフだ。安心・安全な国産の小麦や食材にこだわり、独自の哲学やメソッドを反映させた、ときに常識破りともいえるオリジナリティ豊かなパンが人気を集める。
初めて伊江島産黒糖を口にし、「きれいな味わいですよね。黒糖らしい風味は感じられつつ、軽やかでえぐみやくどさがない。日本人好みの黒糖だと思います」と、杉窪シェフ。その風味をストレートに生かしたいと考え、まず頭に浮かんだのが「伊江島産黒糖のクロフィン」だ。

ハチミツとバターを加えてよくこねた生地で、バターを包んで折りこみ、クロワッサン生地に。食べた時に食感のコントラストが楽しめるよう、折りこみは3つ折りを2回に止め、バターの厚みをしっかり残すのがポイントだ。これをくるりと巻いてマフィン型に詰め、オーブンで焼き上げ、伊江島産黒糖をまわりにたっぷりとまぶす。

「クロワッサン生地をマフィン形にして焼くクロフィンは、通常のクロワッサンよりも生地感がしっかりしているので、より咀嚼しなければいけません。噛むたびにまわりにまぶした黒糖が舌に触れて一体となり、バランスのいい味わいになる。一般的な黒糖では味の主張が激しいですが、伊江島産黒糖はスパイス感がありつつ繊細な風味なので、舌にダイレクトに粒子が当たる使い方でも魅力が発揮されると思います」と、杉窪シェフ。
ザクッ、ふっくらとした生地と伊江島産黒糖のハーバルでおだやかなスパイス感が混じり合い、心地よい余韻が広がっていく。
逆に、伊江島産黒糖を溶かして風味を引き立たせたのが、「伊江島黒糖のリース」だ。いわゆるベラベッカ(発酵生地にドライフルーツの洋酒漬けやナッツ、スパイスを混ぜて焼くフランス・アルザス地方伝統のクリスマスの菓子)をリース形に仕立てたものだが、「使用する発酵生地の量は、通常のベラベッカの10分の1くらい」。

「アイデアの源となったのは、琉球菓子の冬瓜漬けや橘餅(きっぱん)です。果実などが詰まった砂糖菓子をイメージしてつくりました。伊江島産黒糖そのものにスパイスのようなニュアンスがあるので、スパイスは加えずに、黒糖らしさとドライフルーツの味わいを掛け合わせるべく、たっぷり染み込ませました」と、杉窪さん。
口に入れると驚くほどジューシーで、さまざまな果実味と食感、発酵の香りと伊江島産黒糖のクリアで複雑味のある香りが現れて一体となる。「小麦粉に例えるならば、黒糖は全粒粉。その雑味がおいしさであり、作られる島ごとに味わいが違うというのも面白いところですね」


◎365日
東京都渋谷区富ヶ谷1-2-8
☎03-6804-7357
営業時間7:00~19:00
無休(2月29日を除く)
instagram:@365_nichi
◎ジュウニブン ベーカリー 三軒茶屋本店
東京都世田谷区三軒茶屋1-30-9 三軒茶屋ターミナルビル1階
☎03-6450-9660
不定休
instagram:@junibun_bakery
◎沖縄黒糖フェア
2023年12月12日(火)~冬期期間中、「365日」にて「伊江島黒糖のリース」(¥389・税込)を、2023年12月14日(木)~29日(金)までの間、「ジュウニブンベーカリー 三軒茶屋本店」にて「伊江島黒糖のクロフィン」(¥497・税込)を販売。
防空壕で生き延びた伊江島の伝統小麦「江島神力」

伊江島の魅力あふれる食材は、黒糖だけに止まらない。伊江島産の黒糖の魅力を引き立てる素材として、宮﨑シェフと訪ねたのは、伊江島ならではの小麦の生産や加工を手掛ける「いえじま家族」だ。
そもそも伊江島は小麦栽培に適した土壌と気候を持ち、琉球王朝時代から小麦の一大産地だったと伝えられる。戦後は一時的に減少したものの、その価値を再び見直そうと、2011年に農家が集って伊江島小麦生産事業組合が立ち上げられ、小麦生産を復活させるプロジェクトがスタート。そこに尽力したのが、現在のいえじま家族。主を務める玉城堅徳(たましろ・けんとく)さんだ。
「農薬も化学肥料も使わず小麦を育てたいと、まず、堆肥と枯れ葉を混ぜた腐葉土づくりから始めました。土を元気にして育てた小麦で、菓子や沖縄そば、パンなどを作り、島の特産物として販売したいと考えたのです」。農家が互いに協力して改良を重ね、3トンほどの収量から、2年目には約34トンまで収穫。以来、安定的な生産が行なわれている。
注目したいのが、伊江島で受け継がれてきた品種である「江島神力」だ。香り高く滋味豊かな風味と粘りが特徴で、戦前から伊江島では家庭での消費用として栽培されていた。「戦争の際に部落のおばあちゃんが防空壕にこの小麦を隠し、戦争が終わってから15年ほど後に探しに行ったところ、それが見つかって再び植え始めた、と聞きました」。江島神力は、粉としての販売数は少量ながら、料理人やパティシエからも高い評価を得ているという。
畑では昔ながらの麦踏みやEM菌散布が行われ、農薬は不使用。植え付けを終えたばかりの江島神力の畑を訪ねると、「この時期の麦は踏めば踏むほど株が出てよいと言われているので、どうぞ畑に入ってたくさん踏んでください」と、玉城さん。




続いて案内された製粉場では、「元気いっぱいに育った小麦なので、ミネラルや栄養が豊富なフスマを捨ててしまうのはもったいない。多くても15%までしか精麦の際に取り除かず、すべて全粒粉として製粉しています」と玉城さん。「製粉用の機械はもちろん、お菓子やパンを作るための機器が整った厨房も併設されていて、設備がすごいですね! フスマももったいないな。何かに使えそう」と、宮﨑シェフも感心した様子で玉城さんの言葉に耳を傾けていた。




◎いえじま家族
沖縄県国頭郡伊江村字川平200番地
☎0980-49-5980
https://iejimakazoku.jp/
新鮮なサトウキビの搾り汁で造る地酒「イエラム」
伊江島の若い力が生み出した新たな特産品が、伊江島で収穫されたサトウキビだけを原料としたラム酒、「イエラム サンタマリア」だ。
川がなく、昔から水不足に悩まされてきた伊江島は、多量の水を要する酒造りには適さない環境だが、ラム酒造りに使われるのは、サトウキビの搾り汁。そこで、2011年までこの島で行われていたバイオエタノールの実証実験事業が終わるのを機に、その跡地を利用したラム酒作りのプロジェクトがスタート。島の特産品であるサトウキビから造られる、本当の意味での地酒造りが始まった。
世界中で生産されているラム酒のほとんどは、サトウキビから砂糖をつくった後に残る糖蜜(モラセス)を原料としているが、ここで行われているのは、フレッシュなサトウキビの搾り汁をそのまま原料とする、贅沢なアグリコール製法を一歩進めた「ハイテストモラセス製法」。
「サトウキビの搾り汁はすぐに腐るか発酵してしまいますが、ここには濃縮して保存する技術と設備があったので、安定的なラム酒造りができています」と語るのは、伊江島物産センター 伊江島蒸留所の浅香真さん。モラセスでつくるラム酒に比べ、手間もコストもかかるが、あまり火にかけない分、サトウキビ本来の風味が楽しめるという。
製造工程に沿って浅香さんの説明を受けながら工場内を見学。まずは、濃縮還元したサトウキビの搾り汁に酵母を入れ、アルコール度数9%になるまでタンクに入れて発酵させる。そのもろみを蒸留機に入れ、ボイラーの蒸気を当てて沸騰させてから冷却機で冷やしてタンクへ。
「使用しているのは、ポットスチルと呼ばれる単式蒸留器です。無色透明ですが、原料由来の味や香りをアルコールが引っ張ってくるんです」。これを水で薄め、アルコール度数を調整してからステンレスタンクまたは木の樽に詰めて熟成させる。「さあ、どうぞ」と扉を開けた貯蔵庫の中に入ると、そこはラム酒の華やかな香りでいっぱい。

木樽は、ウイスキーやシェリー、ブランデー、ワインなどの熟成に使われていたもの。室内に空調は入れず、伊江島の自然な気候で熟成されていく。特別に4年ほど熟成させたラム酒(アルコール度数は60度以上)を樽から取り出して試飲させてもらい、「すごいアルコール感! でも後からふわーっと華やかな香りが広がります」と、宮﨑シェフ。
2~3年熟成するとアルコールのとげとげしさは消え、割り水やブレンドを経てアルコール度数は約37度に調整されて瓶に詰められる。「この島で造られるラム酒は、ちょっと塩味や磯っぽい香りがするんです」と、浅香さん。伊江島ならではの味わいが、造り手たちの情熱によって育まれていく。




◎伊江島蒸留所
沖縄県国頭郡伊江村東江前1627−3
0980-49-2885
https://ierum.ie-mono.com/
人生初の沖縄、そして伊江島への旅を終え、「島の伝統や暮らしを守り、子どものように愛情を注いで栽培や加工を手掛ける生産者の方々の思いが心に残りました」と語った、宮﨑シェフ。実際に料理して感じたのは、「素材自体に非常にポテンシャルがある」ということ。
「まだ広くは知られていないかもしれませんが、使い方次第でさらなる発見があると思います」。沖縄黒糖のポテンシャルが、さまざまな人の手によって豊かに花開いていく。これからが楽しみだ。
