Denmark [Copenhagen]誰かとの食事が孤独を減らす。デンマークに広がるコミュニティ・キッチン
2023.03.13
text & photographs by Asaki Abumi
デンマークでは今、「フェッレスピースニン(fællesspisning)」に注目が集まっている。日本語に訳すなら“市民食堂”“コミュニティ・キッチン”、英語では“コミュニティ・ダイニング”“コミュニティ・ディナー”とも言われている。公民館、文化施設、飲食店などで、人と集まり手頃な価格で食事をするトレンドだ。
家族や友達だけのテーブルもあれば、知らない人同士で座るテーブルもある。メニューは当日まで秘密だったり、廃棄予定の食材で作ったり、ヴィーガンだったり。支払う金額を参加者が決めたり、調理段階から参加したりと、主催者によって仕組みも雰囲気も異なる。
代表的なのは民間の文化施設「アブサロン(Absalon)」で開催されるフェッレスピースニンだ。会場に到着すると、スタッフが座席表にペンで印をつけて「ここに座って」と指示をする。テーブルには知らない人ばかり。セルフサービスとなっていて、テーブル内で誰が料理を取りに行くか、片付けるかなどを決めるために、必然的に他者と会話をしなければいけない。場を盛り上げる司会者もおり、現場にはまるで合宿所のような活気が溢れていた。
参加者の多くが「孤独対策にもなる」と口を揃える。北欧の長く暗い冬、家族の在り方の変化や独身の増加など背景は様々だ。観光客もいれば、お金がないという学生、離婚して夕飯を一緒に食べる相手がいないという人、友達同士で来ている人もいる。デンマーク語がわからない人がいれば、会話はすぐに英語に切り替わる。
高等教育機関ユニバーシティカレッジ・コペンハーゲンで、給食など食文化の研究をするミッケル・ヤコブセン教授は、「毎晩誰かと食事をする必要はないけれど、たまには誰かと時間を過ごしたい。フェッレスピースニンは独り暮らしをする人が多い大都市でこそ必要とされ、間違いなく今トレンドになっている」と語る。
気軽に出入りできて、おいしい料理をリーズナブルに食べることのできる新しい食空間。コミュニティ・キッチンはこれからさらに拡大し、食文化に新しい風を吹き込むだろう。
(写真トップ)毎日満席となっているアブサロンのフェッレスピースニン。2015年の開始当初は空席があったが、今はあまりの人気で、1週間前には200席のチケットが完売する。基本的にフェッレスピースニンはNGOが運営しており、アブサロンの場合はスタッフに給料が支払われている。
◎Folkehuset Absalon
Sønder Blvd. 73, 1720 København V
アブサロンでのフェッレスピースニン 毎日18:00~
日曜~木曜 50デンマーク・クローネ
金曜、土曜 100デンマーク・クローネ(デザート付き)
問い合わせ:info@absaloncph.dk
*デンマーク現地でフェッレスピースニンの開催場所を見つけたい場合は、「fællesspisning」でネット検索がおすすめ
*1デンマーク・クローネ=19.3円(2023年2月時点)
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