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JOURNAL / 世界の食トレンド

ロンドンに広がる、“和酒”カルチャーの新潮流とは?

England [London]

2025.11.13

ロンドンに広がる、“和酒”カルチャーの新潮流とは?

text by Yuka Hasegawa
2025年10月に開催された日本の飲料展「ドリンク・ジャパン」では、「iichiko彩天」や黒麹を使用した焼酎、スパークリングの日本酒、サントリーのクラフトジンなど、和酒を使ったカクテルを振る舞うブースも立ち、人気を集めていた。写真は英国内で和酒をプロモーションを手掛ける、サミュエル・デヴィッド・ボルトン氏。photograph by Drink Japan

ロンドンの10月といえば、毎年恒例のカクテルウィークを筆頭に、街の至るところでお酒をテーマにしたイベントが開催される季節だ。

中でも、今年のカクテルウィークでひときわ注目を集めたのが、日本の焼酎ブランド「いいちこ」が、五ツ星ホテル「ノーマッド・ロンドン」の地階のバーで開催した、一夜限りのイベント「ワン・イブニング テン・バーテンダーズ(One Evening, Ten Bartenders)」。世界各国から10人のトップバーテンダーが集い、いいちこの新商品「iichiko SAITEN(彩天)」、「iichiko WASHIN(和心)」などを使ったカクテルを披露した。「iichiko 彩天」は、米国市場向けに開発された、アルコール度数43度のカクテル専用焼酎。同国では2019年に先行販売されていたが、2025年9月に英国市場で正式ローンチした。

いいちこ3商品
イベント「ワン・イブニング テン・バーテンダーズ」では、日本文化の繊細さを表現した、滑らかな味わいと柔らかな麹の香りが特長の「iichiko心和」(左)、「世界(天)に新たな彩りを加える本格焼酎」という想いを込めて名付けられたという「iichiko彩天」(中央)、ワンランク上のいいちこ「いいちこシルエット」の3商品をフィーチャーしたカクテルが振る舞われた。
「ワン・イブニング テン・バーテンダーズ」の告知看板
ロンドンの中心街、コベントガーデンの高級ホテル「ノーマッド・ロンドン」の地下「コモン・ディーセンシー(Common Decency)」の入り口に配された「ワン・イブニング テン・バーテンダーズ」の告知看板。コモン・ディーセンシーは、1920年代の華やぎと隠れ家的な雰囲気が魅惑的なバーとロンドナーに広く知られている。
バーテンダーのジュリア百瀬氏
カクテルをサーブするのは、アメリカ、日本、シンガポールから招聘された10人のバーテンダーのひとり、ジュリア百瀬氏。シカゴのバー「Kumiko」のオーナーバーテンダーで、世界的な評価を受けている。そのほか、ニューヨークから、「Katana Kitten」の漆戸正浩氏など錚々たるバーテンダーが競演した。

英高級スピリッツ専門の輸入会社「スペシャリティ・ブランド(Speciality Brands)」で、いいちこのアンバサダーを務めるマイケル・ペンダガスト氏は、
「彩天は豊かで高い香りと、しっかりとしたボディと深みを持っています。多くのスピリッツが、インフュージョンやフレーバーを加えて奥行きを出そうとするのに対し、彩天の力強くパンチのある味わいは、麹や発酵、蒸溜といった自然のプロセスから生まれる。西洋のスピリッツにはない、独特で圧倒的な個性がバーテンダーを魅了している」と語る。

10月には、日本酒や焼酎、ウイスキー、ビールなど約200銘柄が一堂に会するイベント「ドリンク・ジャパン(Drink Japan)」も開催された。ロンドン市内ビクトリアの展示会場には飲食関係者やインポーター、一般客など約2000人が来場。英国における“和酒”ムーブメントの勢いを実感させる2日間となった。

「ドリンク・ジャパン」の様子
ロンドン市内の会場で開催され、大盛況に終わった「ドリンク・ジャパン」。日本酒の蔵元「獺祭」や「浦霞」 をはじめ、アサヒビールやニッカウヰスキー、サントリーウィスキー、さらには英国で日本酒を醸す新興メーカーまで、多彩な出展者と熱っぽく話す来場者たちの姿が至る所で見られた。photograph by Drink Japan

イベントを共同主催した、「酒サムライ」英国代表の吉武理恵氏は「英国市場は決して大きくはないが、発信の場としては非常に重要。裾野を広げることが目的」と語る。実際、今年で2回目となる同イベントの来場者の7~8割は英国人を中心とする非日本人で、若いビジネスエリート層やインテリ層の姿が目立った。昨年に比べて、日本酒や焼酎を単に試飲するというより、もっと“学びたい“という人々が多く訪れたという。

「酒サムライ」英国代表の吉武理恵氏、写真左は、共同主催者のクリス・アシュトン氏、中央は在英日本国大使の鈴木浩氏
「ドリンク・ジャパン」の共同主催者であり、日英ビジネスコンサルタント、また「酒サムライ」英国代表 などとして活躍する吉武理恵氏(写真右)は、「昨今、若年層の飲酒離れや健康志向の高まりという逆風のなかで、日本の酒が注目されている。”飲まない”のではなく、“良いものを、少なく、丁寧に味わう”時代が来ているのだと思う。日本酒や焼酎は、発酵や麹という自然な製法、そしてストーリー性のあるブランドとして、ヘルシーでプレミアムな選択肢になっている」と語る。写真左は、共同主催者のクリス・アシュトン氏、中央は在英日本国大使の鈴木浩氏。photograph by Drink Japan

「日本への関心が高く、行ったことがある人、これから行きたい人が多く見られました。このイベントは今や“日本を愛する人々”が自然と集まる“ミーティングプレイス”になりつつあります」と吉武氏。2年目にして既に“コミュニティースピリット”を醸成しているという日本のお酒の祭典は、まさに同イベントの成功を象徴していると言えるだろう。

“麹”をはじめとする日本独自の発酵文化は、健康志向の流れのなかで評価されてきた。英国における“和酒”の存在は、もはや一過性のトレンドではなくなりつつある。


Drink Japan
https://drinkjapan.uk

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