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JOURNAL / 世界の食トレンド

インドの郷土料理を知る1冊。南インド・カルナータカ州の食文化を丸ごと紹介

India [Bangalore]

2024.01.29

インドの郷土料理を知る1冊。南インド・カルナータカ州の食文化を丸ごと紹介

text by Akemi Yoshii
(写真)書籍『カルナータカ州・食の旅』より。カルナータカ北部ではモロコシの薄焼きパン、ジョーラダロッティが主食となる。カルナータカ州は古くから雑穀栽培が盛んで、各地に様々な雑穀料理がある。

サロン・デュ・ショコラ

 

国際雑穀年とインド独立75周年が重なった2023年、南インド・カルナータカ州の州都バンガロール(現ベンガルールの旧称)の名門ホテルマネジメント学校IHMバンガロール校(Institute of Hotel Management Bangalore)が、雑穀食や郷土料理の良さを再認識する本を刊行した。

『カルナータカ州・食の旅(A Culinary Jaunt-Karnataka)』というタイトルで、副題は“ingredients. cuisines. eateries. people. recipes(食材、料理、食堂、人々、レシピ)”。内容は地元食材や、各地域・コミュニティの料理、老舗食堂探訪、カルナータカ料理の魅力を伝える人々のインタビュー、伝統料理のレシピなど、一つの州の食文化全体を網羅するこれまでにない本となっている。

インド南西部に位置するカルナータカ州は、西ガーツ山脈を抱え、アラビア海に面し、面積としてはインドで6番目に大きい。農業や漁業も盛んで、地域やコミュニティによって異なる食文化が見られるのが大きな特徴だ。バンガロールはITなどハイテク産業の中心地として知られるが、ダルシニと呼ばれる立ち食いの軽食(ティファン)屋が数多くあり、食べ歩きが楽しい街でもある。日本でも人気があるマサラドーサは、寺院都市ウドゥピが発祥の地といわれる。また、山間部のクールグはインド最大のコーヒー産地であり、カルナータカではチャイでなく南インド式フィルターコーヒーを飲む人も多い。

(写真)食べ歩きの街バンガロールの立ち食い軽食屋ダルシニで、名物ドーサを運ぶ男性。バンガロールのドーサは肉厚でモチモチした食感が特徴。ダルシニは現在市内に3000軒あり、街の重要な文化となっている。

(写真)食べ歩きの街バンガロールの立ち食い軽食屋ダルシニで、名物ドーサを運ぶ男性。バンガロールのドーサは肉厚でモチモチした食感が特徴。ダルシニは現在市内に3000軒あり、街の重要な文化となっている。

本の企画・取材・撮影・調理・レシピ確認・デザインの全工程に学生・卒業生が関わり、制作には約1年半かかった。撮影とデザインを担当した卒業生のアシーム・クマールさんによると、最初は単に郷土料理のレシピを集めた本を作る予定だったという。だが、その枠には収まりきらない魅力を目の当たりにし、また現代の様々な事情から消えつつある食材や料理も多いことから、州の「食の文化遺産」を記録・保存し、次の世代に伝える資料とすることに方向転換した。

(写真)カルナータカでは様々なスパイスが栽培されているが、ハーヴェーリ県ビャーダギ特産のビャーダギチリは、地理的表示(GI)タグが付与されている特別な唐辛子。鮮やかな赤色とマイルドな辛味は郷土料理になくてはならない存在。

(写真)カルナータカでは様々なスパイスが栽培されているが、ハーヴェーリ県ビャーダギ特産のビャーダギチリは、地理的表示(GI)タグが付与されている特別な唐辛子。鮮やかな赤色とマイルドな辛味は郷土料理になくてはならない存在。

学校はインド政府観光省が管轄する独立機関であることから、観光省も本書に協力しており、観光の視点からも食が重要な役割を果たすことを改めて感じさせる内容となっている。

編集を担当したアンジャリ・ゴーパーラクリシュナン先生は、「紹介しきれなかった料理がまだまだたくさんあるのが心残りですが、本書では、これまであまり光が当てられることがなかった街の名物料理や料理名人など、多くの“食のヒーロー”を紹介できたことがよかった」と語る。

現在、第2弾として、カルナータカ州の雑穀料理を紹介する『カルナーカタ州・雑穀料理の旅(A Millet culinary Jaunt-Karnataka)』を制作中。インドの郷土料理ファン達は、他州からも同様の本が出ることを心待ちにしている。

(写真)伝統料理のレシピ50種も写真入りで紹介。「ドンネビリヤーニ」はバンガロール名物で、地元産の香り高いジーラサンバ米を使い、檳榔樹(びんろうじゅ/ヤシ科の植物)の葉皿(ドンネ)に盛られる。

(写真)伝統料理のレシピ50種も写真入りで紹介。「ドンネビリヤーニ」はバンガロール名物で、地元産の香り高いジーラサンバ米を使い、檳榔樹(びんろうじゅ/ヤシ科の植物)の葉皿(ドンネ)に盛られる。

(写真)巻末は、様々な形でカルナータカ料理の普及に貢献している“カリナリーインフルエンサー”のインタビュー集。クールグ文化研究家でライターのカーヴェーリ・ポンナパさんもその1人。

(写真)巻末は、様々な形でカルナータカ料理の普及に貢献している“カリナリーインフルエンサー”のインタビュー集。クールグ文化研究家でライターのカーヴェーリ・ポンナパさんもその1人。

(写真)表紙は、アラビア海に面する港湾都市マンガロールにある「スマティオーガニックファーム」のアドゥゲマネ(カンナダ語で「台所」の意味)。巻頭ページでも紹介。

(写真)表紙は、アラビア海に面する港湾都市マンガロールにある「スマティオーガニックファーム」のアドゥゲマネ(カンナダ語で「台所」の意味)。巻頭ページでも紹介。


◎『A Culinary Jaunt-Karnataka』
Faculty of Institute of Hotel Management Bangalore, An Autonomous Body under Ministry of Tourism, Government of India著
Institute of Hotel Management Bangalore刊
336ページ 2999ルピー
ISBN:978-93-5701-119-8

*1ルピー=1.74円(2023年12月時点)

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