家庭料理は大切な家宝。“レシピ記録ツール”で家族の物語をつなぐ
India [New Delhi]
2025.10.09

text by Akemi Yoshi
家族の味と記憶を未来へつなぐためのレシピ記録ツール。経年劣化の少ない無酸性紙を使用した『レガシー・コレクション』は、豪華な装丁でギフトにもぴったり。温かみのあるキッチンのイラストも印象的だ。
日々の食卓に並ぶ家庭料理。 それはただの料理ではなく、家族の手つきや言葉、台所の音や匂いと共にある“記憶”である。今インドでは、“家庭の味=家族の記憶”を未来へと手渡そうとする動きが広がっている。
そのひとつが、シュルティ・タネージャさんが2020年に立ち上げたレシピ記録ツール「ニヴァーラ(Nivaala)」だ。ヒンディー語で「一口の食べ物」を意味するこの名前には、あたたかな思いが込められている。
「母を亡くした時、彼女と共に、たくさんのレシピが失われてしまいました」
ニヴァーラは、シュルティさんの喪失体験から生まれた。家族を象徴するレシピの多くが消えてしまったことで、シュルティさんは気づいたのだ。レシピはサーリー(インドの民族衣装)や装飾品と同じように受け継ぐべき大切な家宝であり、記憶とアイデンティティが詰まっているものであると。

ニヴァーラでは、手書きのレシピジャーナル、子ども向けのレシピブック、レシピを音声録音できるスマホアプリなど、レシピを単なる手順としてではなく、愛情や暮らしの積み重ねの記録として継承していくための様々な記録ツールを展開している。

彼女にとってレシピとは「分量を正確に計ることと同じくらい大切で、想いが込められているものであり、だからこそ守り続けたいと思う気持ちにさせるもの。ストーリーのあるレシピは家族の一員にもなる」特別なものなのだ。
レシピを記録し、人をつなげる活動は広がり続けている。人気ニュースレター「ザ・アリポール・ポスト」との共同プロジェクトとして始まった「レシピ・ポストカード・エクスチェンジ」は、世界中からキッチン・ストーリーが寄せられ、100以上の物語を収録した『一皿の思い出 (Memories on a Plate)』という一冊の本になった。

さらに現在は、レストランやシェフだけでなく一般家庭のレシピを集めて構築する、“生きたインド料理地図”フードアトラス(文末にリンクあり)も進行中。インド全土の4000の都市や村の、地域に根ざした家庭料理のレシピと物語を保存し、デジタル化する。未来の読者に向けた児童書シリーズも準備中だとのこと。
「レシピが生き続けるためには、記憶と伝統とテクノロジーの橋渡しが必要だと思います」
日常に根ざしたレシピたちを、いかに暮らしの中で残していけるか、シュルティさんの問いかけは、インドだけでなく、私たちにも向けられている。


◎Nivaala
Legacy Collection 3,445ルピー
Cook & Keep 1,499ルピー
Memories on a Plate: Stories from 100 Indian Kitchens 1,499ルピー
https://www.nivaala.co/
*1ルピー=1.68円(2025年9月時点)
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