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JOURNAL / 世界の食トレンド

アジアンフード業界に変革の兆し。ヨーロッパで広がる“本物の”アジア料理

Italy [Torino]

2025.02.17

アジアンフード業界に変革の兆し。ヨーロッパで広がる“本物の”アジア料理

text & photographs by Sayaka Miyamoto
マレーシア料理店「ロ・ストラニエーロ」のランチセット「ナシチャンプル(Nasi Campur)」。ジャスミンライスに5種類のおかずが付いて1人前15ユーロ。手軽な価格も人気の秘密だ。

世界中のあちこちで、同じようなメニュー、同じような味を提供するチャイニーズレストラン。日本のそれとは全く別物のSUSHIを提供するジャパニーズレストラン――イタリアでは今、そんなアジアンフード界の状況に変化の兆しが見え始めている。

2024年8月、トリノの住宅街の一角に「ロ・ストラニエーロ(Lo Straniero)」がオープンした。センスのいい店内スペースで食べる“本物の”マレーシア料理は、あっという間にトリノで話題となった。

オーナーのジャスティン・イップさんは、ピエモンテの食科学大学に留学後、自分の故郷で普段食べていたものをイタリアで提供したいと、オート三輪「アペ」を購入し、マレーシアやインドネシア一帯でポピュラーなサテの移動販売を始めた。あっという間に人気を博し、毎日長蛇の列ができる店となったが、3年後に新型コロナウイルスの感染が拡大。街はロックダウンとなり、移動販売は終了するしかなくなった。

「イタリアに住むマレーシア人は少ないし、マレーシア料理もあまり知られていない、だからマレーシアの味が受け入れられるか試してみたかったんです。移動販売の成功でイケる、とわかったので」とレストランをオープンすることを決意。

オーナーのジャスティン・イップさん
「移動販売でサテを買ってくれていた学生たちは社会人になり、僕は移動販売を卒業してレストランオーナーに。少しお金ができた彼らが、僕の店にまた食べに来てくれて、とても嬉しい」とオーナーのジャスティン・イップさん。

約3年の準備期間を経てオープンすると、看板もない、宣伝もしていない店に、続々と客がやってきた。マレーシアの市場で人気の屋台に弟子入りして学んだサテの他、伝統的なマレーシア、インドネシア料理を中心に彼の家庭のレシピも並ぶ。

単品料理は「サテ」10ユーロ、「レンダン(インドネシアの少数民族ミナンカバウ人の伝統牛肉料理)」18ユーロなど。
複数名でランチセットを頼むと、人数分のおかずを皿に盛って供される。取り分けて食べるのは、イタリア人にとっては新しいスタイル。食材の廃棄もグッと少なくなった。単品料理は「サテ」10ユーロ、「レンダン(インドネシアの少数民族ミナンカバウ人の伝統牛肉料理)」18ユーロなど。
柿のピュレとマスカルポーネ、ココナッツミルクを合わせた季節限定の人気デザート「カキとココナッツクリーム」8ユーロ。
柿のピュレとマスカルポーネ、ココナッツミルクを合わせた季節限定の人気デザート「カキとココナッツクリーム」8ユーロ。

屋台に近い業態から本格レストランへと成長を遂げ、大成功を収めているアジア料理店は、ロ・ストラニエーロが初めてではない。2017年に、トリノの若者が集う地区にオープンした「オー!クリスパ」は、いわゆる中国料理店らしさを完全に排した内装、ほぼ立ち食い状態の小さな店だが、オーダーを受けてから包む小籠包が爆発的な人気を博し、常に若者たちでごった返していた。同オーナーは2023年夏に本格中国料理店「ラオ」をオープン。北欧風の建築に中国アンティークがマッチした店内で、上質な中華料理を落ち着いて味わえる店として注目を浴びた。

欧米人が頭の中で作り上げてきた、コテコテのチャイニーズやジャパニーズのイメージと、クオリティの低い料理を低価格で提供するというビジネススタイルはもはや飽和状態。自由に旅をして、SNSで世界中の情報を即時キャッチするようになった人々は、偽物や、値段に見合わないクオリティでは妥協しなくなってきたのではないだろうか。そしてイタリア料理店であればもはや当然の、環境へ配慮し、文化や伝統を守るという姿勢は、アジアンレストランでも例外なく求められる、そんな時代が始まっているようだ。

イタリアのアンティークとアジアンテイストをミックスした店内
イタリアのアンティークとアジアンテイストをミックスした店内。内装は全てスタッフ友人総出で手作りした。日本の技術を採り入れ、ポー川の砂と藁を混ぜ合わせて作った土壁は、将来、破棄された時には土へ還る。環境への配慮を表現したものだ。

Lo Straniero
Via Giuseppe Maria Bonzanigo 2, Torino, Italy 10144
12:00〜15:00、19:00〜24:00
日曜休
https://www.instagram.com/lostranierotorino/

*1ユーロ=160円(2025年2月時点)

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