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JOURNAL / 世界の食トレンド

給食を入口に“政治のおしゃべり”をしよう!若者の政治参加を後押しする北欧の食政策とは?

Norway [Oslo]

2024.05.27

食を入口に“政治のおしゃべり”をしよう!若者の政治参加を後押しする北欧の食政策とは?

text &photographs by Asaki Abumi
(写真)国会議員が小学生に各政党の食政策を反映した“政党ごはん”を提供し、自分たちの政策をアピール。身近な話題は政治への参加を促す役割を果たしている。

日本で選挙が話題に上ると、「雇用」「景気」「外交」などにフォーカスが当たるが、北欧では加えて「学校政策(School politics)」が同じくらいに大事な争点として持ち上がる。教育を受ける小学生から大学院生までの“子どもや若者が必要とする政策”だ。北欧の例を挙げると、保健士の増加、メンタルヘルス、学生寮の増設、公共交通機関のチケット料金、奨学金制度など。日本なら塾、受験、校則、就活なども入るだろう。

北欧では子どもや若者が、政治や選挙に積極的に参加する。特に小学生から参加しやすいテーマが「給食」だ。自分たちに関わりのある争点は、政治に関して語ること=“政治のおしゃべり”の敷居を低くする効果がある。中でも給食はホットなテーマ。肉を減らしベジタリアン食やヴィーガン食の選択肢を増やすか、果物や野菜を朝食やおやつとして無償提供するかなど、子どもや若者にとっては重要な課題だ。

自治体ごとに方針が異なる統一地方選挙では、学校政策は重要視される。
ノルウェーの首都オスロでは、2023年の統一地方選挙で政権交代が起き、中道右派が権力の座に返り咲いた。その結果は2024年に入り、子どもたちの学校での食生活に目に見える変化をもたらしている。これまで中道左派が進めていた果物の無料提供や野菜中心の給食が、次々と廃止となっているのだ。一方で他の自治体からは「フィンランドのように給食は無料であるべき」「自治体ではなく国・政府が責任を持って費用を負担すべき」などの声も出ている。子どもたちは選挙の結果を直に体験し、メディアはその現場を報道する。

選挙が近づくと首都オスロのカール・ヨハン通りには「選挙小屋」と呼ばれる各政党のスタンドが設置される。

(写真)選挙が近づくと首都オスロのカール・ヨハン通りには「選挙小屋」と呼ばれる各政党のスタンドが設置される。小学生から高校生は、社会科の課題として選挙小屋を訪問。質問の中には給食やこれからの食政策に関するものが必ずある。

選挙がある年になると、初めて投票する有権者がいる北欧の高校では「学校選挙」「子ども選挙」とも呼ばれる模擬選挙が盛んだ(ノルウェーでは18歳から有権者)。各政党からは若者中心で成り立つ青年部の代表が招かれ、学校で各政党の政策を議論する。給食やこれからの国が目指すべき食生活が人気のテーマとなる。「CO2排出量を減らすために、肉や牛乳中心の食生活に転換を起こすべき」とは、若者の現実的な環境・気候対策でもある。


高校で各政党の青年部の代表が学校政策を議論

(写真)高校で各政党の青年部の代表が学校政策を議論。高校生は討論を聞いて、自分の考えに最も近い政党を選ぶ。

首相をはじめ、各政党の党首も学校政策について議論するのが当たり前。北欧では給食が、こんなにも政治的であり、子どもの政治参加を促す役割を担っていることにカルチャーショックを受ける。子どもや若者が何を口にするのか、国の食政策はこれからどうあるべきか。日本でも、食政策を一部の大人だけで決めるのではなく、幅広い世代を交えて考えてみてはどうだろう。

(写真)ノルウェーの各大学キャンパスには大学生による選挙で選ばれた「学生議会」「福祉議会」がある。学生議会の代表らは統一地方選挙で食政策を変えるための選挙活動も行い、市議会の政治家とも議論するのが当たり前だ。学生による議会の声で、食堂のメニューに野菜が増えたり、食品ロス対策食堂ができる。学生同士の交流を手伝う食イベントなども開催される。



◎Utdannings Direktratet(ノルウェー教育局)
学校選挙について
https://www.udir.no/skolevalg

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