JOURNAL / 世界の食トレンド

日本料理への関心が高まるベトナム。決め手は“Omakase”と“ウニ”

Vietnam [Ho Chi Minh City]

2025.02.20

text by Rie Suzuki
ホーチミン「鮨励（Sushi Rei）」料理長の澤口友洋氏。愛知県岡崎市「日本料理重の家」で料理人としてのキャリアをスタート。同店からの出向でインド・デリーへ赴く。その後、日本料理、日本文化を学び直したいと、名古屋市「日本料理芳彩」で働き、再び同グループのマレーシア・クアラルンプール店へ。ベトナム在住の日本人から、ベトナム初のおまかせすし店を出したいという相談を受け2015年、ベトナムへ拠点を移して現在に至る。

近年、ホーチミンやハノイで日本料理の人気が高まっている。日本料理店は今や、ベトナム全土で1620店（2023年時点）に上り*、ASEAN（東南アジア諸国連合）ではタイ、インドネシア、マレーシアに次ぐ出店の多さだ。

地元客に人気の日本料理店は、写真付きでわかりやすいメニューブックを用意し、すしや刺身以外にも天ぷらや焼き鳥、お好み焼き、麺料理などメニューを充実させている。すしに用いる魚介の多くはベトナム産だが、イクラ、ホタテ、牡蠣、トラウトなどの人気魚介は日本産が多く、各店の売りになっている

「鮨励（Sushi Rei）」は、2015年にオープンした地元富裕層に人気の高級すし店。ベトナムで初めて“Omakase（オマカセ）”を提供した店だ。Omakaseの魅力がお客に理解されるのには、数年かかったと話す料理長の澤口友洋氏。四季折々の日本の魚文化を客に伝えることを自身の使命とし、新鮮な魚介で構成したOmakaseは、今ではすっかり浸透した。

Omakaseは日替わりで３種類（300万、400万、520万ドン／料理６品、刺身３種、すし７貫～）。写真は料理の一例。

客の多くはウニを目的に来店するため、すべてのコースに日本産ウニは不可欠だ。ウニはベトナムでも馴染みがある食材だが、現地では生食せず、香草と煮込んで粥料理にしたり、丸ごと葱油で揚げて提供することが多いという。

多種多様な魚介の中でも、唯一無二の味わいや食感を持つウニ。澤口氏はその味わいを存分に伝えたいと、すしや刺身だけでなく、「ウニを最大限に活かせる料理に挑戦していきたい。たとえば、ソースにして海老と和えたり、燻製にしたりと、ポテンシャルが高いウニを様々な調理法で提供している」と話す。シグネチャーディッシュ「ツナドック」では、マグロの脳天とウニをホットドック風に仕立てている。

鮨励の「ツナドッグ」。日本で本物のすしを味わい、ベトナムでも日本と同じようにウニを味わえることに喜びを感じているお客が多いそうだ。

日本酒への注目も高まっている。鮨励では日本酒の魅力を伝えるべく「日本酒飲み比べ」（３種／各30ml、30万ドン）を用意する。ベトナム人にとって日本酒は温めるものというイメージが強かったが、冷酒で飲み比べることで香りや口当たりの違いをより感じるようになり、中でも冷酒の純米大吟醸が好まれているという。

現在、ベトナムの平均年齢は32歳。人口はASEANにおいて、インドネシア、フィリピンに次ぐ第３位である。2024年には１人当たりGDP 4700ドルを超えたとされる。生産拠点から消費市場へ移行中と考えられ、飲食の消費も今後、十分に期待できる。
「高級すし店の需要の伸びは十分にある。ベトナムにはまだ正統派すし店が多くはないので、日本にいる若手のすし職人や料理人にも、ぜひとも出店してほしい」と澤口氏は語る。

＊農林水産省「海外における日本食レストランの国・地域別概数」（2023年10月13日）より