赤身肉の魅力を知り尽くす「いわて短角牛」肉焼きLIVE ! 開催レポート
2019.12.27
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photographs by Hide Urabe
全国有数の畜産県である岩手県。その雄大な自然の中でのびのびと育てられる「いわて短角牛」は、脂肪分が少なく、旨味のもととなるアミノ酸やグルタミン酸が豊富。噛むほどに牛肉本来の力強い味わいが楽しめる、と注目を集める赤身肉です。
そんな「いわて短角牛」の魅力を発信すべく、主要産地である岩手県久慈市山形町の生産者を訪問した「ダ・オルモ」北村征博シェフと「イタリア料理 樋渡」原耕平シェフ、「いわて短角牛」を知り尽くす株式会社東京宝山・荻澤紀子さんを迎えて、MEETUP「いわて短角牛 肉焼きLIVE!」を11月28日(木)に開催。「いわて短角牛」ならではの個性や特長、肉の扱い方や火入れのコツをレクチャーしながら、その楽しみ方をお伝えしました。
「夏山冬里」で育てる「いわて短角牛」
3部から成るMEETUPの第1部では、北村シェフ、原シェフ、荻澤さんが登壇。視察に訪れた岩手県久慈市山形町の「夏山冬里」と呼ばれる放牧の様子などと共に、それぞれの視点から「いわて短角牛」の魅力を熱く語りました。
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シェフやレストランのホールスタッフをはじめ、百貨店の食品バイヤー、畜産業従事者、料理教室の講師など、食に携わる多くの参加者でにぎわった。
▼「いわて短角牛」の詳細は現地レポートをご覧ください。
シェフたちの「いわて短角牛」「いわて羊」視察ルポ
~自然と人が手を取り合う畜産のかたち~
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久慈市山形町から「柿木畜産」の柿木敏由貴さんが来場。柿木さんは100%国産の飼料にこだわって短角牛の生育を手がける。短角牛がまだあまり知られていない頃から、認知度向上のために尽力してきた「いわて短角牛」のキーパーソンだ。この日提供されたサーロインと経産牛は柿木さんの肥育によるもの。
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久慈市にある「いわて田村牧場」田村英寛さんも来場。初めて短角牛を食べた時、あまりのおいしさに感動。その一方で、生産者が減少している現実を目の当たりにし、「いわて短角牛」の飼育を始めたという。土づくりからこだわった自家飼料で育てている。この日提供された肉(サーロインと経産牛以外)は田村牧場産。
「いわて短角牛」を扱ってきた荻澤さんは、肉質の特徴や、その肉質をより向上させるために行なう「つるし熟成」について解説。「自然の中で草を食べて育つので、短角牛は赤身肉特有の食感と味わいを持っています。その特性を良い方向へ伸ばすため、東京宝山では枝肉の状態で約1カ月吊るします。すると、全身くまなく焼いておいしく食べられる肉になります」と荻澤さん。
「シェフとも連携して、できる限り良い状態で食べてもらうことが短角牛の評価につながり、ひいては、自然と人が手を取り合う畜産のかたちを維持し、北上高地の放牧の光景を守ることになると思います」。
北村シェフ、原シェフからは、ウデやスネといった使いにくいイメージのある部位をちょっとしたコツによっておいしく食べる調理法が伝授されました。
「モモの一部にシンタマと呼ばれる部位がありますが、シンタマはさらにマルカワ、トモサンカク、シンシン、カメノコの4つの部位に分けられて、それぞれ肉質は異なる。各々の特徴が生きるように、細分化して調理すると、おいしさは確実にアップしますね」と北村シェフは語りました。
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シェフたちは部位ごとの特長や調理法を紹介。硬くて繊維が粗い部位の下処理の仕方、適したメニューなど、これまで使いづらかった部分もおいしく調理できることを具体的にわかりやすくレクチャーした。
料理人の期待に応える「いわて短角牛」の肉質
続く第2部では、オープニングで岩手県の達増拓也知事が登場。「澄んだ空気のもと、広大な高原で育てられた『いわて短角牛』は全国から問い合わせも多い、岩手県が誇る赤身肉です。東京オリンピック・パラリンピックが開催され、国内外のゲストが増える2020年は、『いわて短角牛』をアピールする絶好のチャンス。今日はその魅力を目で、耳で、舌で感じて、多くの人に伝えてください」と挨拶しました。
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岩手県・達増拓也知事も駆けつけて挨拶。県を代表する畜産物だけに語る言葉にも力がこもる。
その後、北村シェフ、原シェフによる「肉焼きライブ」へと突入。
まず、北村シェフが担当する部位はシンタマ。第1部で語った「細分化して調理するとおいしさはアップする」を実証すべく、マルカワとトモサンカクを焼き分けます。「マルカワは骨の周りを包み込んでいる肉なので、牛の個性がよく出る。トモサンカクは比較的サシが入りやすい部位ですね」。
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肉焼きの達人として知られる北村シェフの解説は、必須ポイントが押さえられていて、わかりやすい。
▼マルカワ
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マルカワはフライパンとオーブンを併用して加熱する。塩をふって少し置いてから、オリーブオイルを熱したフライパンへ。強火で一気に表面を焼き付ける。
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表面が一通り焼き固められたら、140℃のオーブンへ。肉全体を包み込む熱で5分程度加熱する。
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火入れにかけた時間と同じだけの時間、温かい場所で休ませる。理想は、休ませて肉汁が出ない状態になってからカットする。
▼トモサンカク
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トモサンカクはフライパンのみで火入れする。硬い部分には包丁を入れておく。じっくり加熱して、肉から脂を溶け出させ、その脂で焼き上げるイメージ。
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肉を立てて、包丁を入れた側面をフライパンに押し付けて、肉の脂を引き出しつつ全面をこんがり焼き上げる。
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フライパンに溶け出した肉汁に肉を絡めて、旨味を余すところなくまとわせる。
続いて、原シェフが担当する部位はミスジとマクラ。ミスジは、ウデの中でもサシが入りやすい部位。 真ん中に太いスジがあるので、どこまで残し、どこから外すかがポイントとなります。シェフそれぞれの考え方が出るところ。一方のマクラは前スネの小さな部位で、そこだけ外せば柔らかい肉質なため、ローストとして使えます。
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デモンストレーション中の原シェフの手元を、達増知事が見つめます。
▼ミスジ
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ミスジは、筋を取り除いたら、あえて大きく厚く切って、時間をかけて火を入れていきます。
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肉がぴったり収まるサイズのフライパンを使って、熱も油も効率良く使います。表面を焼き固めたら、140℃のオーブンへ。
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芯の部分はレアに見えますが、十分に火が通った状態。
▼マクラ
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マクラは小さな部位なので、フライパンだけで焼き上げます。脂や筋を焼き切るイメージで火入れ。
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立てて、側面からもしっかり焼き付けます。
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見るからに味わい深そうに焼けている。
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短角牛の肉質食べ比べ。上から時計周りに、赤・シンタマ カメノコ、黄・シンタマ カメノコ以外、緑・ミスジ、青・マクラ、白・肥育サーロイン、黒・ドライエイジング 経産牛ランイチ。
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達増知事が試食。「普段はバーベキューで食べることが多いが、今日の短角牛の焼き方は精密で、これまで体験したことがない異次元の領域」。
試食会は貴重な情報交換の場に
第3部は「いわて短角牛」のほかにも岩手県産食材を使った料理を試食しながらの交流会。肉の品質や調理に関する質問が飛び交い、白熱したディスカッションの場となりました。
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テーブルには短角牛を使ったメニューがずらり。レア感のある料理から煮込みまで「いわて短角牛」を丸ごと味わえる料理が揃った。
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■「いわて短角牛」スネ肉のローストビーフ
ほどよく引き締まったスネ肉は、赤身肉らしい味わいを堪能できる部位。「いわて短角牛」の個性を感じられる一品。
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■「いわて短角牛」のビーフジャーキー スパイス風味
前脚の付け根部分にある胸肉「ブリスケ」をクミン、パプリカ、ブラックペッパー、カイエンヌペッパーなどに漬け込んで干し、燻製をかけた。完成まで1週間~10日ほどかかる力作。
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■「いわて短角牛」のシャルキュトリー
「いわて短角牛」を使ったウインナーやサラミをはじめ、短角牛入りのブラッドソーセージやビアソーセージなど、全8品が並んだ。
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■「いわて短角牛」スネ肉のテリーヌ
「前スネ」と「アキレス」を使い、乾燥しいたけ、マッシュルーム、春菊と共にテリーヌに。春菊のグリーンソースを添えて。
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■「いわて短角牛」のボリートミスト風煮込み
岩手県産のキャベツ、大根、ジャガイモと「ブリスケ」を国産の塩で煮込んだ。ピエモンテ州の郷土料理だが、おでんを思わせる味わい。
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■岩手県産野菜のグリル
ジャンボしいたけ、プティベール、紅くるり(赤大根)、ほうれんそうなどをグリルした一皿。シンプルな調理法なので、素材の味わいがいっそう際立つ。
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料理に合わせた岩手県産ワインも用意。左から、高橋葡萄園「リースリング・リオン」、髙橋葡萄園「ツヴァイゲルトレーベ」。自園自醸ワイン柴波「リースリング樽熟成」。
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「いわて短角牛」の主産地・久慈市より遠藤譲一市長が来場。
会の最後には、久慈市の遠藤譲一市長が登壇。
「寒い冬を牛舎で過ごした牛たちは、春には広々とした牧草地に放牧され、秋までのびのびと過ごします。元気に野山を駆け回る『いわて短角牛』の肉はおいしいだけでなく、健康にも良いと自負しています。安心安全で高品質の『いわて短角牛』を、首都圏でもさらに活用してください」と挨拶。
短角牛の歴史をたどれば、南部牛へとつながります。雄大な北上高地の風景と切っても切れない「夏山冬里」方式の放牧も岩手ならでは。そんな風土が育てた「いわて短角牛」のポテンシャルの高さを実感したイベントとなりました。
◎ 問い合わせ先
岩手県農林水産部流通課
〒020-8570
岩手県盛岡市丸10番1号
☎ 019-629-5733