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「パルマハムの扱い&切り方の極意」実践セミナー 

日本唯一のパルマハム職人 多田昌豊さん直伝 おいしいパルマハムの極意

2015.10.22

イタリア・パルマで修業し、日本人で唯一「パルマハム職人」と認められた多田昌豊さんから、パルマハムの扱い方を学ぶ少人数制のセミナーを開催。参加したイタリアンのシェフたちも目から鱗の「おいしいパルマハムの極意」を実況中継します!

多田昌豊さん
1971 年東京生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科で「食肉加工学」を専攻し、卒業論文のテーマは「非加熱長期熟成食肉加工製品(パルマハム・サンダニエレハムの化学的微生物学的安全性)」。その製法に大変な興味を持ち、パルマハム職人となることを決意する。2000年渡伊、パルマハム会社に就職し、9 年間職人として働く。帰国後、日本の豚でパルマの製法で生ハムを造るべく、岐阜に株式会社BON DABONを設立。

本当においしいパルマハムを知っていますか?

口の中に入れた瞬間、舌の上でとろけて鼻から抜ける香りが余韻になる。これがおいしいパルマハムの条件です。そしてパルマハムは、製法を知り、正しい取り扱い方を学ぶことで、お客様に「よりおいしく」提供することができます。今日はその方法をお伝えできればと思います。生産地では、ほとんどの家庭にスライサーがあります。「骨付きが一番おいしい」から、お母さんたちは原木を買い、自分で骨を抜くんです。後でこの骨抜きの作業をお見せします。

パルマハムの基本

まずは基本から。パルマハムの生産地域として定められているのは、北イタリアに位置するエミリア=ロマーニャ州パルマ県南部の丘陵地帯。この限られたエリアに、リグーリア海からアペニン山脈を越えておりてくる程よく乾燥した海風が、パルマハムの自然乾燥に欠かせません。またパルマハムの原料となる豚は、イタリア中北部の認定養豚所で9カ月間かけて150kg以上になるまで肥育。この豚のもも肉と天然塩、空気、そして最低12 カ月以上の歳月をかける職人の根気強い手仕事が、最高品質のパルマハムを生み出すのです。

※パルマハムは原産地パルマの気候風土が作り上げる作品として、EUの品質認証システム導入当初よりDOP(原産地呼称保護)製品に認定されています。

匂いのチェックがとても重要

パルマハムは、豚もも肉を塩漬けにして乾燥させ、自然の風が入る部屋で熟成させた後、貯蔵庫での最終熟成を経て製品になります。最終熟成の前にスーニャ(基本的に豚の脂と米粉、塩とコショウで作るパテ)を塗るのですが、これは急速な乾燥を抑えつつ、水分の蒸発を促し、ゆっくりと熟成させるためのものです。パルマハムの熟成に欠かせないスーニャですが、これには独特の臭いがあり(嗅いで、覚えてください)、カビが付きやすい。原木を仕入れた際は、臭いがないかチェックすることが重要です。ハムそのものが劣化している時は、おいしいパルマハムとは違う臭いがしますので、これも気を付けたいです。

肉は鮮やかなピンクか赤、脂は白か乳白色。これがおいしいパルマハムの色なので、覚えておいてください。赤身が強すぎる、脂が黄色いのは劣化の合図です。

僕が日本のレストランで生ハムを食べて残念に思うのが、カビ臭さ、スーニャの臭い、脂が酸化した臭いを感じた時です。常にこれらの香りがないかチェックすることが、おいしいパルマハムを提供する上で最も重要なこと。カビが生えやすいのは筋肉の結合部分。とくにレガート(骨付きパルマハムの骨を抜き、紐で縛って骨を抜いた部分を結着させたもの)は水分を多く含み結着も浅いので、割れ目から臭いが出やすいです。

切る前に脂が酸化しているところがないか、断面にカビと思われる黒い点がないかなど、必ず都度チェックしてください。湿度の高い日本では、パルマハムは「カビが生えやすい食品」であり、切った瞬間から「酸化」という劣化との戦いも始まります。そういうものだと認識し、気になる部分は潔く取り除くことがおいしく提供する最良の方法です。

トリミングの極意①「黄色く酸化した脂や筋を丁寧に取り除く」
真空パックから取り出したらまず、表面に浮いた酸化した脂をきれいに拭き取る。続いて黄色く変色した脂や乾燥した肉の表面を切り取り、血管の残り、カビが入っている箇所や硬い筋を丁寧に取り除く(パルマハムの乾燥熟成の途中で血管の周りなどにカビが入る場合がある)。

トリミングの極意②「スライスする分だけ皮を剥く」
皮はパルマハムを酸化から守る大切なパーツだが、間違ってスライスしないよう必ず皮を剥いてからスライサーに。

薄ければ薄いほどおいしい

そしてパルマハムは「薄ければ薄いほどおいしい」と言われています。たっぷり味わいたいならフグ刺しのように重ねて口に運べばいい(笑)。口の中でとろける感覚は、薄くないと味わえません。薄く切る技術があれば、お客様の要望に応じて厚く切ることもできます。

そこで質問なのですが、皆さん店でどんなスライサーを使っていますか? 手動か電動か、縦刃か斜刃か。スライサーによってハムの切り方は変わってきます。斜刃のものは重力がかかるので、力を入れずとも楽に切れます。ただ上下どちらかに偏って力がかかり、ハムの断面が斜めになってくるので、途中で表裏を変えるなど工夫が必要です。縦刃のものは中指、人指し指、親指の3点でハムを刃に押し付けながら、同時に前に動かし切っていきます。お好みで自分の使いやすいスライサーを選んでください。いずれにしても「おいしいパルマハムを出したい」と本気で考えている人には、僕は刃の直径が30センチ以上あるスライサーを使うことをおすすめします。ハムを分割せず、丸ごと1本のままスライスできるからです。

スライサー使いの極意① <斜刃のスライサー>
断面と刃が密着する角度にパルマハムを支えながらスライス。斜刃は重力がかかるので力をかけずにスライスできるが、断面が斜めに削れやすい。

スライサー使いの極意② <縦刃のスライサー>
親指、人差し指、中指の3点で押し付けるようにスライス。縦刃のスライサーは、断面を均等に押し付けることで並行にスライスできる。

スライサー使いの極意③
人差し指、中指、小指で受け取る。薄くスライスしたパルマハムはなるべく指で触らぬよう、3点で支えるようにして皿に移す。

では、なぜ分割は好ましくないのか。ひとつは、例えば4分割したら、それぞれの部位で食感や風味がまったく異なるからです。お尻側は脂が多くて甘く、スネは赤身の特徴が強く、味も濃厚です。分割して使っている人は、そのことをきちんと知っていたほうがよいと思います。

もうひとつ、分割すると切断面が増え、より酸化が進みやすくなります。お客様に提供する時は空気に触れている表面を切り落とすのが鉄則です。歩留まりが悪くなるのは覚悟しないといけません。

目盛りに頼らず、手で感覚を確かめながら「向こうが透けて見える薄さ」を目指してください。

次に、パルマハムの原木の種類と、骨付きハムがレガート(骨付きパルマハムの骨を抜き、紐で縛って骨を抜いた部分を結着させたもの)になるまでの工程をご紹介します。

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