スーパーだからできること。
虎ノ門「福島屋」併設ベーカリー「埜屋(のや)」オープン!
2024.06.25
魚や肉、生鮮食品が並ぶ冷蔵ケースの隣。以前からあったスーパー内のベーカリーがパン職人・木村 昌之さんの新店「埜屋(のや)」だ。都心の一等地、虎ノ門のスーパー「福島屋」の店内である。
店内には常時20種類ほど。目移りする魅力的な食事パンだ。信州「なつみ農園」の有機小麦やライ麦を使ったカンパーニュや雑穀パン、バゲット、食パン、石臼挽きの全粒粉を加えた長時間発酵のサワードゥのピタパンのほか、ホールから挽いたカルダモンを使ったカルダモンロールや福島屋で仕込む有機小豆のあんぱんなど、甘い菓子パンも並ぶ。
忙しい都市生活者の健康を気遣い、サンドイッチには福島屋の野菜をたっぷり挟み、カンパーニュや食パンは、夕食の買い物の時間に合わせて焼きたてを並べる。
木村さんの本拠地は長野・上田にある。都内の数店舗でシェフを勤め、6年前に地元へ。信頼する小麦生産者の近くで自家製粉してパンを焼く卸専門の「木村製パン」を開いた。製粉も製造も、パンの原料である“麦”にとってよりよい循環を生むために、できることは自分でやってきた。だがここにきて、あえて東京へUターン出店を果たしたのには、理由がある。
「この先を考えたんです。一人でいくらたくさん働いても、世の中への貢献度は低い。僕は東京で多くの先輩に技術を教わりました。おかげで今は自然に囲まれてパンを焼いている。でも都心で働く後輩たちにこの技術を伝えていかなくていいのかって」。コンサル業もいくつかこなしてはみたものの、教えれば教えるほど、店もスタッフも自分の手から離れていくように感じた。職人として、麦を突き詰めて長野に至ったが、ともすると度を越えて一人でやり過ぎてきたのではとも振り返る。
そんな中、懇意にしていたオーガニックスーパー「福島屋」の会長から、店舗内ベーカリーのリニューアルのお手伝いの声がかかる。「コンサルよりも、経営から携わりたい」と意向を伝え、併設ベーカリーをまるごと引き受けることになった。厨房機器はほぼ福島屋が運営していた当時のままだ。「何もかも違う(笑)」という機材に囲まれ、スタッフを指導しながら、木村さんが理想とするパンを焼き上げる。 約3カ月間東京に住み、レシピとスタッフ育成に努めた。ここでは一人ではなく、チームでパンを焼く。
スーパーという立地には可能性がある、と木村さん。「生活の一部であるスーパーは、パン好きが集う路面のベーカリーとは客層が異なります。いわばアウェイの環境。でもこの場所だからこそ、自分が焼くナチュラルなパンを伝えることに意義があり、価値がある」。素材はオーガニックを選び、余計なものは加えない。パンとは、麦に寄り添うことで生まれる健やかな食料であるべき、というのが、木村さんを貫いてきた姿勢だ。
店名に込めたのは「ありのまま」「そのまま」という意味。長野で培ってきた、敬意をもつ生産者の大切な麦を「ありのまま」で味わえるパンを、都心の東京のスーパーで展開する。
◎埜屋(のや)
東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー B1F
☎03-6273-3978
instagram:@noyanopan
(「料理通信」のNewsコーナーでは、食に関する新商品やサービス、イベント情報をお届けします)
関連リンク