スペインの食とワインを語る
「Spain Food Nation Summit Japan 2026」開催レポート
2026.10.08
text by Noriko Horikoshi / photographs by Taro Terasawa
日本市場におけるスペイン産食品・飲料の認知向上、需要拡大に向けて、スペインの政府機関ICEX(スペイン貿易投資庁)とMAPA(農業漁業食料省)の主導の下、2024年から開催されてきた「Spain Food Nation Summit Japan」。第3回目となるサミットが2026年9月28日、ホテルニューオータニ東京で開催された。食の専門家から選ばれた諮問委員会のメンバーが登壇し、ワインと食品の2部門でのディスカッションを展開。第一線の現場で活躍するプロフェッショナルならではの示唆に富む議論を一部お届けしよう。
目次
- ■中間価格帯でのスペインワインの圧倒的実力
- ■「ノムリエ」に響く、伝統ワイン産国のライフスタイル
- ■“発見”を生む6つの焦点候補
- ■百貨店・ホテル・飲食店から考える“豚肉の次の一手”
- ■太陽と情熱だけではないスペインの多様性
- ■現代の手の届く贅沢「スイーツ」を入口に
- ■「放牧文化」を“手の届く贅沢”へ
中間価格帯でのスペインワインの圧倒的実力
前半に行われたワインラウンドテーブルのテーマは、「コスパからの脱却~プレミアム化への具体戦略」。日本では欧米に比べてスペインワインの実力に対する認知が低く、輸入ワイン市場における金額シェアはわずか7.5%ほど。「安くて濃い赤」のステレオタイプなイメージが定着し、売れ筋が低価格帯に集中していることへの問題提起だ。
リテール(ワイン専門店)、ジャーナリスト、インポーター、ソムリエで構成された諮問委員員会のメンバー4名にとっても、スペインワインの「価格に対する品質、実力の高さ」は、ポジティブな評価軸として一致するところ。
世界各国のワイン事情に精通するジャーナリストの名越康子さんは「特に3000~5000円台の価格帯のバリューが圧倒的。同じEUのフランスやイタリアに比べて、掘り出しものに出会う楽しみが段違いに多い」と肯定しつつ、「足りないのは情報発信と体験。2つが揃えば、スペインワインはもっと盛り上がるのに。もったいないこと」と課題を投げかけた。
「東京ソムリエギルド」の活動を通じて後進の育成にも取り組むソムリエの須藤亜希さんも、「日本のワイン教育はフランス偏重の傾向が残り、ソムリエの間でもスペインワインの実力が十分に知られているとは言えない。体系的なオンライン教育と試飲セミナー、コンクール開催の取り組みなどを進めながら、まずソムリエの知識と体験を蓄積していくことが必要」と、現状の問題点を指摘する。
また、東京ソムリエギルドに所属するミシュラン星付き店等へのアンケートから、高級店ではボトルよりペアリングのニーズが高まっていること、ペアリングには「3000~8000円台の価格帯が使いやすい」という現場の声を共有し、円安で他国ワインが高騰する今、品質と価格のバランスに優れたスペインワインが競争力を発揮する、新たな市場を示唆した。
「ノムリエ」に響く、伝統ワイン産国のライフスタイル
一方、飲み手の関心を刺激し、購買者層を増やしていくために重要と考えられるのが、スペインならではのワインの楽しみ方の提案だ。
「スペインワインの強みは、仲間と料理やお酒をシェアするライフスタイルにある」と話すのは、スペインワインの中でも家族経営のファインワインを多く取り扱うインポーターのカール・ロビンソンさん。輸出産業としてではなく、もともと自分たちが飲むためのワインを造ってきた伝統ワイン産国ならではのリラックスしたワインとの付き合い方が、「ノムリエ(カールさん曰く、テイスティングではなく、食事と共にワインを飲んで楽しむ人々)」の共感を呼び、日本の食文化との親和性も高いと話す。
「顧客の9割がノムリエ」というワインショップ「カーヴ・ド・リラックス」の人見裕介さんは、顧客に向けた試飲イベントやセミナーを多く手掛けてきた実績をもつ。「一般のワイン購買者の中には学習意欲が旺盛で、プロ顔負けの情報発信力をもつ人たちがいる。そんなコア層にとって“発見”の楽しさにつながるような、新しい切り口の情報提供が継続購入の呼び水になる」と説く。
“発見”を生む6つの焦点候補
提供すべき“発見”のトピックとして諮問委員会で導き出されたのが、多様な品種もしくは原産地呼称ワインに焦点を当て、その地域性や栽培特性、味わい方を含めたストーリーとともに伝えていこうとするアプローチだ。
候補に揃ったのは、「スペインが原産であることをもっと声を大にして発信すべき品種、古木を通してオーガニック栽培に適した気候風土も訴求できる」(名越)“ガルナッチャ”、「北部グリーンスペインという新しいトレンドの代表品種」(ロビンソン)“アルバリーニョ”など、スペインらしい土着の個性を秘めた6題のキーワード。ソムリエの須藤さんが「幅広い料理に合わせられる可能性、抜栓後も品質がすぐに落ちない安定性から、個人的にも推していきたいカテゴリー。ソムリエの間での注目度も抜群」と力をこめる酒精強化ワインの“シェリー”。昨年、上位カテゴリーの100%オーガニック化で注目される瓶内二次発酵のスパークリングワイン“カバ”も含まれる。
レストランのソムリエや小売店など、指南役として立つ推薦者と、食とワインに対する探究心の強い消費者と。両者の啓蒙と体験の蓄積が両輪で揃ったとき、日本国内におけるスペインワインの市場は欧米並みの規模にぐっと近づくかもしれない。円安で価値基準の見直しが進む今は、むしろ千載一遇のチャンス到来といえないか。そんな楽しい妄想も膨らむディスカッションだった。
百貨店・ホテル・飲食店から考える“豚肉の次の一手”
第二部の食品ラウンドテーブルのテーマは、「手の届く贅沢~豚肉の次の一手を探る」。スペイン産食品の対日輸出は57%が肉類、特に豚肉に集中していたが、2025年にアフリカ豚熱が確認されて以来、スペイン産豚肉と豚加工品の輸入停止が続いている。主要品目の停滞を危機ではなくむしろ転換点と捉え、スペインの食の“多様性”を訴求していくための有効な手立てはあるのだろうか。その可能性を、リテール(百貨店、オーガニックスーパー)、ラグジュアリーホテル、レストランビジネスに携わる諮問委員会メンバーとともに模索していこうとの試みだ。
太陽と情熱だけではないスペインの多様性
最初にファシリテーターの『料理通信』編集長、曽根清子からスペインの地理と歴史を背景に、海の幸の宝庫である大西洋岸、雨の多い北部海岸は酪農と美食を誇り、乾燥した内陸メセタでは生ハムの熟成文化が育まれ、水田が広がる地中海沿岸はパエリヤ発祥の地など、一国で異なる食の物語が楽しめることを紹介。いっぽう日本人がイメージするスペインの食はパエリヤやアヒージョなど限られたイメージで括られ、「知っているつもり」が多様な食資産へ関心を向きにくくしていることを指摘した。
現代の手の届く贅沢「スイーツ」を入口に
では、スペインの食への関心を高め、「豚肉の次の一手」を育てるには? 諮問委員会で浮上したのが、百貨店催事で巨大な需要が証明されている「スイーツ(菓子)」という入口だ。
三越伊勢丹で数多くの海外催事企画を手掛ける中野健一さんは、老若男女が関心を寄せるお菓子は「現代の手の届く贅沢」であると語り、「百貨店における催事は、お菓子好きの方たちが集まるイベント、フェスみたいなもの。スペインの食への関心を高める入口として、スイーツに着目してみてはどうか」と提案する。
「ビオセボン」でヨーロッパ食品の輸入に携わる向井昭登さんからは、「お菓子に限らずよくあることは、日本人と現地の消費量の違い、そして気候的な違いから、容量やパッケージが大きなネックになってきます。特にお菓子のカテゴリーでは、現地は湿度も低く、1回開けてもなかなか湿気ることがないので大袋に入っていたり、小袋でも湿気が入りやすい素材だったり。異物混入も日本のお客様はすごく細かいところまで気がつくので、現地の品質管理担当者が日本の水準を体験していないと意思疎通の障壁になりやすい」と輸入を実現する上でクリアすべきハードルを提示した。
「放牧文化」を“手の届く贅沢”へ
スペインはEU最大の有機栽培面積を誇るオーガニック大国だが、「オーガニックであることが直接の購入動機にはならない」というのが諮問委員の共通の見解だ。一方で、
「私たちのホテルにはサスティナビリティ部門があり、排出するものすべての報告が義務付けられているとともに、ワインや食材、備品を含むすべての仕入れについて、『なぜそれを採用するのか』を明確にし、お客様に伝えています」と話すのは、沖縄県宮古島でラグジュアリーホテルの購買部長を務める田口朋浩さん。
「かつて高級食材といえばフォワグラやキャビアでしたが、今はお客様のニーズも多様化し、グラスフェッドやグルテンフリーなど個々に対応してストーリーを伝えることが価値を生む、お客様ご自身が“価値”を決めるということですね」と語る。
田口さんの発言を受け、都内でスペイン料理店5軒を営む岡本ビクトル栄さんは、「親戚に会いにマドリードへよく行きますが、列車で20分くらい走るともう牛が放牧されているのが見えますよ。バスクでもそこら中に牛が放牧されています。グラスフェッドもオーガニックの野菜も、僕は当たり前だと思ってきました」と、恵まれた気候と広大な大地をもつスペインの常識を共有。そこからスペインの放牧文化を現代の手の届く贅沢へ、食肉だけでなくチーズの可能性についても議論が発展した。
百貨店、ホテル、飲食店と手法は違えど、「同時の一手」でスペインの食へいかに関心を集めていくかでラウンドテーブルは幕を閉じ、続くRestaurants From Spain & Colmados From Spain認定式では、スペイン料理や食材・ワインの魅力を伝えるレストラン、販売店計4軒が壇上に立ち笑顔を見せた。
午後は日本未輸入も含めたスペインフード&ワインの商談会、著名講師を迎えたマスタークラスも実施され、スペインの今をアップデートする一日だった。
Spain Food Nation Summit Japan 2026
【主催】スペイン貿易投資庁(ICEX )・スペイン大使館経済商務部
【運営】料理通信Spain Food Nation Summit Japan 2026運営事務局
登壇した諮問委員のプロフィールはこちら
https://r-tsushin.com/news/news_20260831/