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RECIPE

だしがらも肉みそや納豆炒めに!

「ふーみん」の10分でとれる挽き肉だし

レスキューレシピ【豚肉編】

2022.08.12

text by Michiko Watanabe / photographs by Atsushi Kondo

連載:レスキューレシピ

日本の食品ロス量は年間570万トン*と言われています。生鮮食品においても、豊作で余ったり、規格外、傷、スレがあって売り物にならず、行き場のない食品が日々廃棄されているのです。生産者が丹精込めて作った食材を無駄にしないための活用レシピ、今回のテーマは「豚肉」です。挽き肉を使ってクイックにとれる“挽き肉だし”と、残った“だしがら”もおいしく食べ切るアイデアを教わります。
*農林水産省「日本の食品ロスの状況(令和元年度)」

目次






教えてくれたシェフ:東京・南青山「ふーみん」斉風瑞(さいふうみ)さん

「ねぎワンタン」や「納豆チャーハン」など名物メニューで知られる「中華風家庭料理 ふーみん」オーナー。25歳で、台湾人の両親の味をベースにした家庭料理「ふーみん」を東京・神宮前に開店。その後、現在の店舗に移転。70歳を機に厨房を離れ、料理研究家として活動を続けている。著書に『青山「ふーみん」の和食材でつくる絶品台湾料理』(小学館)がある。


挽き肉だし誕生秘話

ある日の営業中、「あれ、スープがない」。ガーンとなったのは、「ふーみん」店主・斉風瑞さんだ。どうしよう。いつもは、卵を産まなくなった老鶏(斉さんは「ババ鶏」と呼ぶ)と豚骨でとるスープが十分にあるのに、今日はどうしたことか。一瞬あせったが、ピコンとひらめいた。挽き肉なら簡単にだしがとれるんじゃないか。必要は発明の母とはよく言ったものだ。すぐさま熱湯の中に挽き肉を入れてみたところ、すぐに味は出るわ、さっぱり味ながら旨味は十分にあるわ、でうまくいった。ただ、この時は、挽き肉は「だしがら」だからと、きれいさっぱり捨ててしまった。

「ふーみん」は1971年、斉さんが神宮前に開いた中華風家庭料理の店だ。今は骨董通りに店を構え、そろそろ開店52年を迎える。台湾人の両親を持つ斉さんの料理は、食べると気持ちがほっこり和む温かい味が身上だ。納豆チャーハンやねぎワンタンや、ピンク色が美しいたらこ豆腐など、名物料理も数知れず。「台湾の家庭では、日本のおだしみたいにわざわざスープをとるってことはほとんどないんです」。素材そのものから出る味を生かす。それが台湾流だ。

機転を利かせて生まれた挽き肉だしは、コクはいつものスープには及ばないものの、味の邪魔をしない、クセのないいいだしだったことから、改良を重ねながら今も使い続けている。短時間でいいだしがとれるから活躍しているのだ。たとえば、「コースの〆にお出しするハマグリを入れた一口麺も挽き肉だしを使っています」。初めて挽き肉でだしをとった時、捨てちゃった挽き肉も、考えてみればいろいろ使えるではないかと、今ではおかずにも展開している。

挽き肉だしは何にでも使えるよう、また、だしがら活用のことも考えて、あえて薬味を入れない。煮る時間はトータルで10分程度。だしに肉の旨味を引き出し、かつ、その旨味が全部流れ出てしまわない頃合が、その時間だった。大事なのは丁寧にアクを取ること。多少の脂は旨味のうちだから、取りすぎない。だしがらは、熱いうちに軽く下味をつけておく。こうすることで、だしもだしがらも、中華だけでなく、和にも洋にも活用できる。肉味噌にしても、甘辛そぼろにして三色弁当にしてもよし、納豆炒めや納豆チャーハンにしても、ミートソースにしてもよし。活用範囲は広い。

素材もだしもおいしくいただく

それから、驚きだが、内臓でもだしがとれると斉さん。「レバーでもいいんだけと、私はハツでよくやります。ビタミンやミネラルが豊富で、薬膳の世界でもハツを食べなさいってよく言います」。ハツとはハート。心臓である。「薬膳では『心』と書くように、心臓の働きだけでなく、精神面のことも含みます。心が弱って不安定にならないよう助けてもらうんです」

当然、ハツは鮮度が重要だ。水に香味野菜を入れて火にかけ、沸騰したら野菜を取り出し、ハツを入れる。再沸騰する直前に素早くアクを取り、1分くらいで火が通るので、すぐ皿にとる。「ハツは歯応えが大事。火を入れすぎると、ボソボソになるから気をつけて」。熱々のうちにポン酢や牡蠣醤油をかけ、針ショウガを添える。「ハツにはやさしい甘味があるの。私は1パック、ペロリと食べちゃう」

だしのほうはいってみれば茹で汁。でも、香味野菜の香りをつけているから、内臓のイヤな臭いがない。ちゃんと素材の旨味が生きただしになる。スープをとらなくても、素材もだしもおいしくいただける。台湾家庭流だしの極意ってこんな簡単なことだったのか。


「挽き肉だし」材料と作り方

[材料]
豚挽き肉・・・200g
鶏挽き肉(モモ)・・・200g
水・・・2L
湯(約60℃)・・・1L

[作り方] 
[1] 鍋に水を入れ、沸かし始める。

[2] 挽き肉と湯をボウルに入れ、箸でほぐす
の湯が沸くタイミングに合わせて、挽き肉をボウル入れ、60℃の湯を加えて箸でよくほぐす。

[3] 箸4、5本でほぐし、固まるのを防ぐ
グラグラ沸いたの鍋にの挽き肉を湯ごと加えて、すぐに箸4、5本でほぐし、固まるのを防ぐ

[4]アクを丁寧にとる。
挽き肉がドーナツ状になり、真ん中にアクが浮いたら、火を弱め、5分程アクを丁寧にとる。

[5] 挽き肉を引き上げる
挽き肉を引き上げて、弱火で5分煮る。


火を止めてしばらく置くと、だしが澄んでくる。ネギやショウガを入れないので、洋食などいろんな料理に使える。

POINT:挽き肉を湯でほぐしてから、沸いた鍋の中へ

熱い湯に挽き肉を入れたらすぐに固まるので、最初に60℃の湯で挽き肉をほぐしながら温めて、温度差を縮めておく。冷めたら意味がないので、鍋の湯が沸くタイミングに合わせてやること。挽き肉がバラバラと広がり、一粒一粒から旨味が引き出せる。


挽き肉だし活用レシピ

「ハマグリスープ」材料と作り方

[材料](すべて適量)
挽き肉だし
ハマグリ

山椒の粉
菜の花

[作り方] 
[1]挽き肉だしを沸かし、ハマグリを入れて口が開いたら器に移す。
[2]塩でスープの味を調え、山椒の粉を好みで加える。
[3]ハマグリの器にスープをはり、別に茹でておいた菜の花をのせる。


無駄なくおいしく食べ切る “だしがら”活用レシピ

挽き肉を引き上げたら、すぐに味噌か醤油を加えてよく混ぜておく。冷めてから味を入れようとしても、物足りない味になってしまう。少しでも下味をつけておくと、他の料理に展開した時に味が決まりやすくて、調味料を使いすぎない。肉味噌はご飯やジャージャー麺に、納豆炒めは葉野菜に包んで食べる。

だしがら活用レシピ①「肉味噌」

[材料]
挽き肉のだしがら・・・400g
マッシュルーム(粗みじん切り)・・・200g
水・・・2L
シイタケ(粗みじん切り)・・・2枚
セロリ(粗みじん切り)・・・1/3本
酒・・・大さじ2
砂糖・・・大さじ2
醤油・・・大さじ3
ニンニク(みじん切り)・・・適量
油・・・小さじ1

[作り方] 
[1] フライパンに油を熱し、ニンニクを炒める。ニンニクの量はお好みで。
[2] ニンニクが色づき始めたら、マッシュルーム、シイタケ、セロリを加えて炒め、油がまわったら、酒、砂糖、醤油、挽き肉のだしがらを加える。
[3] フライパンの底に水分がなくなるまで煮詰める。

だしがら活用レシピ②「納豆炒め」

[材料]
挽き肉のだしがら・・・300g
納豆・・・2パック
長ネギ・・・1/2本
酒・・・大さじ2
青ネギ・・・5本
醤油・・・大さじ1.5
コショウ・・・適量
おろしショウガ・・・適量

[作り方] 
[1]長ネギと青ネギは小口切りにする。青ネギはバットに敷き、上にパックから出した納豆をのせておく。
[2] フライパンに油を引き、挽き肉を炒める。途中で長ネギを加えて炒める。
[3] 青ネギと納豆を加えて炒め合わせ、仕上げに鍋肌から醤油を回しかけ、コショウを振る。
[4]器に盛り、上におろしショウガをのせる。



◎ふーみん
東京都港区南青山5-7-17
小原流会館B1
☎03-3498-4466
11:30~15:30LO
18:00~21:00LO
第1月曜、日曜、祝日休
東京メトロ表参道駅より徒歩5分
https://fuumin.gorp.jp/

※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2020年5月号掲載)

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