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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

97歳。「作るたびに喜びを味わえるメニューは、職業がくれた宝物」

生涯現役|松崎淳子

2023.07.06

97歳。「作るたびに喜びを味わえるメニューは、職業がくれた宝物」生涯現役|松崎淳子

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


松崎淳子(まつざき・あつこ)
御歳97歳 1926年(大正15年)4月28日生まれ

高知県大津生まれ。女学校(現・中学校)3年生の時に大東亜戦争が起き、数え年の二十歳で終戦を迎える。その後、専門学校を卒業し、新制大学の助手として教職の道へ。高知県立大学の名誉教授として、長年、調理学や栄養学を研究。土佐伝統食研究会会長。よい食生活をすすめるネットワーク会長。土佐学協会副会長。こうち男女共同参画ポレール代表。現在も土佐郷土料理の豊かさを伝え続けている。著書に『伝えたい!昭和の食卓 高知の味』『まっことめでたい96歳』(ともに飛鳥出版室)。

(写真)長年使い込んだ道具が揃う自宅の台所で寿司を作る松崎淳子さん。慣れた手つきで寿司をこしらえていく。キッチンはアメリカ製で、「うんと使い勝手がえい」。


時代の境目に巡り合い、家事の教えを「学」にする責任ができた

私は魚の寿司を作るのが大好き。今も台所仕事は椅子に座りもってやるけんど、特に寿司を作る時は全く疲れん。自分で長いこと研究して作ってきた寿司やき、体に染み込んでしもうちゅうがね。この歳になっても作るたびに喜びを味わえるメニューを持てるのは、職業がくれた宝物の一つやと思う。

「土佐の料理はお酢ぜめ」とも言われるぐらい、高知は酢が好きな県で、酢みかん文化も浸透しちゅう。寿司を「こりゃあ、よう酢がきいちゅう」と褒めるし、「あいつは酢がきいちゅう」というのも高知の褒め言葉。酢は暑い夏にも食欲を増進させるし、料理の保存性も良くするき、気温が高い高知で昔から受け継がれてきた知恵でもあるがよ。

今日作ったのは、私の魚寿司の代表でもある鯖寿司。塩じめした鯖を、柚子100%のゆず酢に1時間浸して、皮を剥いて骨を除いて、身を切り開いた後にもう20分ばあ浸す。これにすし飯を乗せて棒状に仕上げて、ゆっくり熟れていく味を楽しむのが私流。鯖は、振り塩でキリッと身が締まる「すわり」と呼ばれる状態にするのが大事で、これには鮮度が欠かせん。だから馴染みの魚屋から「えい鯖が入ったで」と電話があったら、少しでも早く「すわり」状態にしたいき、「捌いて塩しちょいて!」ってお願いするが。

土佐ジローの卵寿司も私の定番。甘めに味付けした分厚い卵焼きの巻き寿司で、子どもから大人までよう食べてくれる。すし飯に大葉をたっぷり入れると爽やかな風味になっておいしいよ。

「調理を学に」が私の仕事で、65歳まで43年間、大学で家政学を教えてきた。姉たちは女学校(現・中学校)止まりやったけど、私は終戦後に専門学校に行けたの。卒業後に、母校の専門学校が新制大学になって、助手に採用された時から、私の職業人生が始まった。時代の境目に巡り合ったおかげやね。それまでは家事の方法を教えるだけやったのを、「学」にするという責任ができたわけ。だから結婚して子供を3人産んでも、姑の介護が加わっても仕事を続けてきた。辞めたら学問もそこで終わると思ったき必死やったね。

今は朝4時半頃に目が覚めて、新聞を読んでから少し横になる。毎日2回、血圧と体温を測って、睡眠時間やトイレの回数もきっちり記録しゆうけど、こういうことが苦にならんのは、教員の習性が抜けんのやろうね。食事は毎日三食必ず。朝食は7時半頃。冷蔵庫には普段のおかずメニューが何かしらあって、それというのも毎日、夕食を4〜5人分ずつ作って残りを冷蔵するがね。これらをチンして取り合わせて並べると、朝食や昼食に良いの。今は娘と二人暮らしで、娘もおかずを詰めた弁当を持って行くからちょうど良い。たんぱく質が足らんと思ったら卵かけご飯にしたり、緑黄色野菜が足りんと思ったら漬物を足したり、バランスには気をつけゆうね。買い物は娘の担当で、娘が買ってきたものを見てレシピを考えるのがいつもの流れ。

97歳になった今も、いろんな会の活動が毎月あるき元気におれる。どれだけ時代が変わっても、食べることは大事。だから生きちゅううちは、食卓を通じた文化や伝統を次の世代に伝えていきたいね。

松崎さんお手製の鯖寿司と卵寿司。鯖を浸したゆず酢は、魚肉成分が溶け出して酸味がまろやかになる。松崎さんは、これを濾して冷蔵し、すし飯や酢の物などに再利用。ゆず酢100%を使ったすし飯は、強い酸味を程よくするため、砂糖の量を増やして調整。おいしいすし飯のコツは、熱いご飯にゆず酢をまんべんなく混ぜ、扇風機でパーっと冷やすこと。熱いご飯が冷める時に酢を吸い、その後表面の水を風で飛ばすと、ゆずの風味がほのかに香る口当たりの良いご飯になる。

松崎さんお手製の鯖寿司と卵寿司。鯖を浸したゆず酢は、魚肉成分が溶け出して酸味がまろやかになる。松崎さんは、これを濾して冷蔵し、すし飯や酢の物などに再利用。ゆず酢100%を使ったすし飯は、強い酸味を程よくするため、砂糖の量を増やして調整。おいしいすし飯のコツは、熱いご飯にゆず酢をまんべんなく混ぜ、扇風機でパーっと冷やすこと。熱いご飯が冷める時に酢を吸い、その後表面の水を風で飛ばすと、ゆずの風味がほのかに香る口当たりの良いご飯になる。

レシピや日々の出来事などを書き留めるのが習慣で、「書き残すことも仕事のうち」。A4サイズの日記帳「覚え書きノート」を10年以上続けている。このノートが元となった著書も2022年出版。

レシピや日々の出来事などを書き留めるのが習慣で、「書き残すことも仕事のうち」。A4サイズの日記帳「覚え書きノート」を10年以上続けている。このノートが元となった著書も2022年出版。



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