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PEOPLE / クリエイター・インタビュー

福井利佐(ふくい・りさ) 切り絵作家

Mar 02, 2017

Photograph by Masahiro Goda
『料理通信』2013年9月号掲載

広告や雑誌、多くのメディアやマス向け商品のデザインがCGによって生み出されるこの時代、
手を動かし、カッターで切り出すことでしか描けない世界があります。
暗い? 古臭い? 切り絵に対する先入観をお持ちの方、福井さんの作品を、ぜひ一度、ご覧あれ。

命、宿る。

「切り絵」と聞いて、滝平二郎の作品を頭に浮かべる人は少なくないだろう。『もちもちの木』、『花さき山』(いずれも岩崎書店)、『八郎』(福音館書店)など、数々の名作絵本の挿絵を手掛けた。その生き生きとして力強い線とは相反する、画面全体からにじみ出る優しさ、物悲しさ、それゆえの、美しさ。子供心には、怖いと思った記憶すらある。

福井利佐さんが描く切り絵の世界も、強く、美しく、ちょっと怖い。そしてどこか、艶がある。虎の絵ならば、毛並みの手触りをリアルに感じられるようだし、鯉は、その張り詰めた背中の筋肉、花はやわらかい花びらの質感と共に、血のような赤色に目を奪われる。子供に鳥と狐、能面に魚とタコ足など、背景にある物語を想像させるドラマチックな構図も魅力のひとつだ。

しかし、中でもとりわけ印象的なのは、人の顔を描いた作品である。まるで網のように顔面を覆う、たくさんの細い曲線。それは、顔の陰影を浮き上がらせるものであると同時に、体温を伝える血管のようでもあり、複雑な感情の襞のようにも見える。「私の切り絵は、鉛筆のデッサンそのものなんです。昔、先生に言われました、動物ならば、『毛並みを見ろ。細かい線を追っていれば、そのものになる』と。切り絵でも、線の集合によって人物像を描き出したいという思いがあります」。

写真をもとにデッサンして下絵を作る。下絵の下に一枚紙を重ねて、2枚一緒に切っていく。昔から変わらない、アナログな作業。時間もかかる。「パソコンが苦手なんです。手でひとつ一つ進めていかないと、作っている過程が確認できないと、不安になる」。

黒と白の可能性

実家は、祖母の代からの美容院。「毎日たくさんの髪の毛を捨てるんですけど、色や髪質から、どんな人が来たか、何となく想像できるんです。髪の毛って、DNA鑑定に使われたりもしますが、その人の命が宿っている。黒い線の持つ力のようなものが、いつしか私の脳裏に刷り込まれたのかもしれません」。

運命の出会いは、中学で訪れる。そこには、「切り絵クラブ」なるものがあった。直線の引き方、丸の描き方から、中国の伝統工芸である剪紙の技術まで、基本を一から学んだ。そして、卒業時には、現在にも通じる緻密さと世界観を持った作品を作り上げるまでに上達した。高校時代はバスケに熱中。しばらく切り絵のこともすっかり忘れていた。しかし美大に進み、様々な手法の基礎を学ぶ中で、切り絵の面白さに再び目覚め、本格的に制作活動を再開。切り絵を表現手段に選んだのは、学部でも福井さんただ一人だった。「切り絵でどこまでリアルな表現ができるか、黒と白のバランスをいかに魅せるか、追究していったらのめり込んでしまって」。卒業後は、作家活動を続けながら、子供の造形指導を行う非常勤講師の職に就いた。

名前が広く知られるきっかけになったのは、中島美嘉のサードアルバムだった。そのPRは大々的に行われ、以来、幅広いジャンルから制作の依頼がかかるようになる。自動車の外装&シートデザイン、能装束の図案、ファッション雑誌のコスメページ、松本清張や桐野夏生らの小説の挿絵や装丁等々。作品の持つ色気と陰りが、独特の世界観を醸し出す。

命の輝きを切り現す

個展を目前に控えた、インタビュー当日。工房には、B1サイズ(1030×728ミリ)の大きな顔の切り絵が何枚も広がっていた。笑った顔、驚いたような顔、まっすぐこちらを見据える顔。顔中に張り巡らされた線と線の間から、人柄や感情までも伝わってくるようだ。

顔は、大学時代から取り組んでいる題材だ。「初めは能のお面に興味がありました。室町時代から使われているという重みや、ちょっとした角度で表情が違って見えるのに惹かれて。でも、能面は死の顔なんですね。それを知ったら無性に、今、生きている人間の顔を描きたくなったんです」。

「生」、そしてその隣合わせの「死」は、福井さんの作品に貫かれている重要なテーマだ。最新の作品集の冒頭には、こんな言葉を寄せている。「生きることは、困難で、怖くて、儚い。けれど強く美しい。言葉に表せないけれど、そこに存在している確かなもの。私はそれを切り現したい」。だから描くのは、人、動物、草花、限りある命を精一杯生きるものばかりだ。  

4年前には女の子を出産、現在2人目の子供をお腹に宿している。長女をモデルにした作品も多い。「描いてみたら楽しくて。子供の顔ってどんどん変わるんです。ほっぺたのぷくぷく感なんて、あっという間になくなっちゃって」。今、まさに生きている。日々成長している。漲る生命力がまた、福井さんの創作意欲を刺激する。

福井利佐(ふくい・りさ)
1975年静岡県出身。精緻な観察による描写のきめ細やかさと大胆な構図で、観る者を圧倒させるような生命力のある線の世界を描き出す。Reebokとのコラボレーションスニーカーや、アーティスト中島美嘉のジャケット・ステージ装飾、手塚治虫×福井利佐byUNIQULOでのTシャツデザイン、桐野夏生氏の小説への挿画や装丁など、多方面で活躍中。最近の仕事として、雑誌『婦人画報』表紙への切り絵での参加や、宝生流 和の会のメインビジュアル制作、NHK短編小説集「グッド・バイ」の映像制作、NHK BS「猫のしっぽカエルの手」オープニングタイトル制作などがある。
http://www.risafukui.jp

 

本記事は、「EATING WITH CREATIVITY」をキャッチフレーズとする雑誌『料理通信』において、各界の第一線で活躍するクリエイターを取材した連載「クリエイター・インタビュー」からご紹介しています。テーマは「トップクリエイションには共通するものがある」。

 

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