生涯現役シリーズ #14
「この仕事を始めたのは75歳から」
東京・豊洲「魚河岸トミーナ」土井スズ子
2022.03.03
text by Kasumi Matsuoka / photographs by Masashi Mitsui
連載:生涯現役シリーズ
世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢化社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。
土井スズ子(どい・すずこ)
御歳92歳 1925年(大正14年)1月25日生まれ
「魚河岸トミーナ」(旧店名:築地魚河岸トミーナ)
東京生まれ。21歳で結婚し、東京・京橋で洋服屋を営む夫を、専業主婦として支える。90年、娘の富山節子さんが「築地魚河岸トミーナ(現・魚河岸トミーナ)」を開店したのに伴い、手伝いとして店に入る。94年頃からピザ担当。市場場内唯一のイタリアンとして、各国から訪れる客も多数。無類の旅好きで、「人の行かないところには、ほとんど行っています」。(注)築地市場移転に伴い、現在は豊洲市場に移転。
(写真)ピザ窯の前に立つ、土井スズ子さん。娘の節子さん曰く、昔から「料理も暮らしも、センスが良い」。
仕事している時が一番楽しい
この仕事を始めたのは、75歳からなの。娘がこの店を開く時に、「人手不足だから手伝って」と言うものだから。料理は好きだったから、じゃあ手伝おうかっていう流れでね。それまでは、ずっと専業主婦でした。
ピザを担当するようになったのは、80歳くらい。入った当初は皿洗いが主だったんだけれど、店の皆も忙しそうだし、「だったら私、焼いてみようかしら」という軽い気持ちで始めてみたの。やってみたら、楽しくてね。それから毎日、焼き続けています。
ピザ生地は、空気が抜け切らないように均一に伸ばすことで、ふんわりした仕上がりになるの。粉も、娘と何枚も焼き比べて、うちの窯に合うものを選びました。築地ならではの新鮮な魚介類をふんだんに使った海鮮ピザを始め、マルゲリータやゴルゴンゾーラなど、常時6種類を用意しています。食材選びは娘が担当。トマト一つとっても、少しでも味が濃くて甘いものを探して仕入れています。
私の料理は、かれこれ60年来の付き合いになるブラジル人女性の影響が強いの。自宅のある青山のビルに、以前はブラジル大使館やブラジル銀行の方が家族で住まわれていてね。よく部屋を行き来しては、一緒に食事していたんです。その奥様方が作る料理が、とにかく珍しくておいしくて。それで「教えてよ」って頼んで、いろんな料理を教わりました。
そんな縁もあってか、旅が好きでね。と言っても、頻繁に行き始めたのは50代の頃から。特に南米や中東、アフリカが大好きで、何度も足を運びました。イタリアをはじめ、ヨーロッパも一通り周って、ピザはもちろん、各地の味を食べ歩いてきました。そうやっているうちに、「こういう味がおいしい」っていう感覚ができてきてね。それが今に生きているのかもしれません。84歳でアフリカのマリに行って以来、旅はしていないけれど、まだ行きたいところがたくさんあるのよ。
今は娘と孫、ひ孫と一緒に、4世代で一緒に住んでいます。家での食事は私が担当。朝は小学生のひ孫が家を出る時間に合わせて、6時半に起きて朝食作り。ご飯に具沢山の味噌汁、浅漬け、しらす、海苔が朝の定番ね。店には娘が運転する車で、11時頃に出勤します。それから閉店の14時半まで、立ちっぱなしでピザ作り。昼食は15時くらいに店で食べます。お昼だけは毎日食べるものが決まっていて、ピザ一切れにサラダ、カフェオレがいつもの定番。これだけは、毎日食べてもなぜか飽きないのよね。
店を出るのは16時頃。娘と一緒に帰宅する時には、髙島屋の地下食品売り場で夕食の買い物をして帰ることが多いわね。夕食は、その日の気分や家族のリクエストに合わせて作ります。基本はシンプルな献立なんだれど、昨夜は私の希望で、久しぶりにすき焼き。たまにはいいでしょ?(笑)
店はいつ辞めてもいいと思っているのよ。と言っても、仕事している時が一番楽しいんだけれどね。毎日、平々凡々に暮らしていけたら、それでいい。
あっ、だけど一つだけ。娘がお給料をくれないの! 次の旅行のためにそろそろ頂戴って、言っとかなきゃ(笑)。
毎日続けているもの「ピザ、サラダ、カフェオレ」
◎魚河岸トミーナ
東京都江東区豊洲6-6-1号 施設管理棟307
☎ 03-6633-0039
9:00~15:00(LO14:30)
日曜、祝日、休市日休
ゆりかもめ市場前駅より徒歩3分
http://www.tsukiji-tomina.com/
※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
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