古澤千恵さん(ふるさわ・ちえ) アンティークコーディネーター
第3話「“好き”から“仕事”へ」(全5話)
2016.02.01
買えない、なら売ればいい
古物の世界は知るほどに面白く、一気にのめり込んでいった古澤さん。贅沢はできない中でも、気に入った物を少しずつ買い集めていました。
しかしある時、やはり出会ってしまったのです。
絶対に欲しい、でも買えない値段の物に。
そこで古澤さんは発想の転換をしました。「それなら売ればいい」と。
一つの古物を買う。それを売ることで、さらに良いものに出会える、手に入る。
また、実際に使ってみると理にかなったデザイン、使いやすさを実感し、より多くの日本の人に知ってほしいというモノとの出会いもありました。
たとえば、オリーブの木でできた器や道具、あるいは古い糸で織られたリネン。
「日本で売ったら売れるだろうな」と。
個人的な蒐集は、徐々に販売を見込んだ仕入れへと舵を切っていきました。
しかしある時、やはり出会ってしまったのです。
絶対に欲しい、でも買えない値段の物に。
そこで古澤さんは発想の転換をしました。「それなら売ればいい」と。
一つの古物を買う。それを売ることで、さらに良いものに出会える、手に入る。
また、実際に使ってみると理にかなったデザイン、使いやすさを実感し、より多くの日本の人に知ってほしいというモノとの出会いもありました。
たとえば、オリーブの木でできた器や道具、あるいは古い糸で織られたリネン。
「日本で売ったら売れるだろうな」と。
個人的な蒐集は、徐々に販売を見込んだ仕入れへと舵を切っていきました。
口コミの力
イタリアに渡って2年後の2002年には、鎌倉の実家で知人を招いた小さな販売会を開くようになります。はじめは、祖母や母の友人たちを集めて。次回は、彼らがまた別の古物好きを連れてきて。
古澤さんが選んだイタリアのアンティークは、当時まだ珍しかったこともあり、目の肥えた人たちの心をガッチリ捉え、評判はすぐに口コミで広がりました。
数カ月のうちにアンティークショップから卸しの依頼がありました。05年には、鎌倉の雑貨&アンティークショップで、大理石のテーブルなど家具を含む数百点の展示即売会を開催。06年には7店舗と卸しの契約を結ぶまでになりました。
古澤さんが選んだイタリアのアンティークは、当時まだ珍しかったこともあり、目の肥えた人たちの心をガッチリ捉え、評判はすぐに口コミで広がりました。
数カ月のうちにアンティークショップから卸しの依頼がありました。05年には、鎌倉の雑貨&アンティークショップで、大理石のテーブルなど家具を含む数百点の展示即売会を開催。06年には7店舗と卸しの契約を結ぶまでになりました。
古物が呼んでいる
ここで再び質問。
Q. 最初の頃、「これは売れないかもしれない」という不安はありませんでしたか?
A. そういう物は買いませんでした。使われている状況が手に取るように想像できる物だけを買うんです。「安いし、買っておけばいいか」というような買い方は昔も今もしませんね。
Q. 蒐集から仕入れに変わり、行く場所は変わりましたか?
A. 基本的には変わりません。エンリコおじさんのところにも行きますし、市場やアンティークショップをひたすら見て回っています。ただ、店舗の内装などまとまったリクエストをいただいた時は、現地の古物商の仕入れに同行させてもらうこともあります。古いお屋敷などで使われていない物があると聞いて、連れて行ってもらったり。
Q. 市場ではどんな風に物を探すのですか?
A. 探すというより、古物の方から目に飛び込んでくる感じです。私、市場ではすごく歩くのが早いんです。でも求めている物は目に留まる。光を放っているというか。色みや質感で瞬間的に判断しているんでしょうね。
Q. お気に入りのアンティークショップはありますか?
A. 今はもう閉まってしまいましたが、「マガジーノ・トスカーノ」というお店です。“トスカーナの倉庫”という意味ですが、トスカーナの食卓を彩る、センスがよくて上質なものを揃えたセレクトショップです。今思えば、「オルトレヴィーノ」はこのお店によく似ている。ワインや食品と一緒に、特別な工芸品を売っていて。それを現代的なセンスで見せている、とても素敵なお店です。夜は造り手を呼んでワインの試飲会もしていたので、夫と頻繁に通っていました。
Q. 最初の頃、「これは売れないかもしれない」という不安はありませんでしたか?
A. そういう物は買いませんでした。使われている状況が手に取るように想像できる物だけを買うんです。「安いし、買っておけばいいか」というような買い方は昔も今もしませんね。
Q. 蒐集から仕入れに変わり、行く場所は変わりましたか?
A. 基本的には変わりません。エンリコおじさんのところにも行きますし、市場やアンティークショップをひたすら見て回っています。ただ、店舗の内装などまとまったリクエストをいただいた時は、現地の古物商の仕入れに同行させてもらうこともあります。古いお屋敷などで使われていない物があると聞いて、連れて行ってもらったり。
Q. 市場ではどんな風に物を探すのですか?
A. 探すというより、古物の方から目に飛び込んでくる感じです。私、市場ではすごく歩くのが早いんです。でも求めている物は目に留まる。光を放っているというか。色みや質感で瞬間的に判断しているんでしょうね。
Q. お気に入りのアンティークショップはありますか?
A. 今はもう閉まってしまいましたが、「マガジーノ・トスカーノ」というお店です。“トスカーナの倉庫”という意味ですが、トスカーナの食卓を彩る、センスがよくて上質なものを揃えたセレクトショップです。今思えば、「オルトレヴィーノ」はこのお店によく似ている。ワインや食品と一緒に、特別な工芸品を売っていて。それを現代的なセンスで見せている、とても素敵なお店です。夜は造り手を呼んでワインの試飲会もしていたので、夫と頻繁に通っていました。
暮らしの中に本物がある
03年には、トスカーナの田舎にある一軒家に引っ越しをしました。古澤夫妻は1階に、2階に大家さん一家が住んでいました。
庭の周りはぐるりとオリーブ畑が広がり、ハーブや野菜が植わっていて、大家のおじいちゃんと一緒にカゴを編んだり、秋になれば自家消費用のオリーブオイルを収穫したり、ポルチーニを採りに山に入る。近所のマンマにパスタや料理を教わることも。
ここに来てはじめて、“暮らす”感覚が芽生えたと古澤さんは言います。
庭の周りはぐるりとオリーブ畑が広がり、ハーブや野菜が植わっていて、大家のおじいちゃんと一緒にカゴを編んだり、秋になれば自家消費用のオリーブオイルを収穫したり、ポルチーニを採りに山に入る。近所のマンマにパスタや料理を教わることも。
ここに来てはじめて、“暮らす”感覚が芽生えたと古澤さんは言います。
地域に根を張り、季節の移ろいと共に生きる。
70歳、80歳のおじいちゃんやおばあちゃんは、今も昔も変わらない暮らしをしているし、イタリア人の暮らしには、これでいいよね、と思わせるシンプルさがあり、そして全てが「本物」でした。 「もっと面白い“何か”があるはず」。
探し続けていた“何か”、古物の世界に見え始めていた“何か”は、ここでの暮らしの中にもあちこちに転がっていました。
「イタリアって、わかりにくい国だと思うんです」、古澤さんは言います。
その面白さは、人々の暮らしの中にひっそり潜んでいる。
だから、時間をかけないと見えてこない。
「イタリアに10年住んで、今も年に何度か行きますが、その度に発見がたくさんあります」。
70歳、80歳のおじいちゃんやおばあちゃんは、今も昔も変わらない暮らしをしているし、イタリア人の暮らしには、これでいいよね、と思わせるシンプルさがあり、そして全てが「本物」でした。 「もっと面白い“何か”があるはず」。
探し続けていた“何か”、古物の世界に見え始めていた“何か”は、ここでの暮らしの中にもあちこちに転がっていました。
「イタリアって、わかりにくい国だと思うんです」、古澤さんは言います。
その面白さは、人々の暮らしの中にひっそり潜んでいる。
だから、時間をかけないと見えてこない。
「イタリアに10年住んで、今も年に何度か行きますが、その度に発見がたくさんあります」。
古澤千恵というフィルター
2012年には、はじめての著書を出版しました。
『とっておきのフィレンツェ/トスカーナ おいしいものと素敵なところ』(筑摩書房)。
旅をテーマに、古澤さんが10年間のイタリア暮らしで見つけた、この国の面白さや魅力が味わえるお店やスポット、人や物を紹介しています。
今年の秋には、2冊目の本が出る予定です。次はトスカーナ料理のレシピと、イタリアのアンティークの器がテーマ。
いずれも古物の本ではないのです(本の中で触れられてはいますが)。
『とっておきのフィレンツェ/トスカーナ おいしいものと素敵なところ』(筑摩書房)。
旅をテーマに、古澤さんが10年間のイタリア暮らしで見つけた、この国の面白さや魅力が味わえるお店やスポット、人や物を紹介しています。
今年の秋には、2冊目の本が出る予定です。次はトスカーナ料理のレシピと、イタリアのアンティークの器がテーマ。
いずれも古物の本ではないのです(本の中で触れられてはいますが)。
古澤さんは、古物のプロフェッショナルです。
しかし今、彼女に注目している人たちは、もはや古物に限らず、古澤さんの物の見方、見せ方のセンスに惚れ込んでいるのです。
古澤千恵というフィルターを通して見ると、これまでとまるで違ったイタリアが見えてくるから。
(次の記事へ)
しかし今、彼女に注目している人たちは、もはや古物に限らず、古澤さんの物の見方、見せ方のセンスに惚れ込んでいるのです。
古澤千恵というフィルターを通して見ると、これまでとまるで違ったイタリアが見えてくるから。
(次の記事へ)