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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

95歳。「まだまだ、珈琲店を開きたい人が来るのよ。そのお手伝いがしたくてたまらない」

生涯現役|群馬「珈琲倶楽部 沼田店」加藤広安

2023.06.08

text by Michiko Watanabe / photographs by Masashi Mitsui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


加藤広安(かとう・ひろやす)
御歳95歳 1927年( 昭和2年)9月15日生まれ
「珈琲倶楽部 沼田店」

京都の友禅染めを営む家の11人兄弟の4男。戦争中は海軍航空隊に入隊し、航空魚雷の整備などを担当。戦後は大阪で暮らす。山口・萩の妹の家に遊びに行った帰りに「UCC宣伝カー募集」の告知を見つけ、応募。以降UCC上島珈琲で営業などを担い、1991年、退職後、新潟市内に自家焙煎コーヒー店「珈琲倶楽部」を開店。同じ仕事をしたいという希望者が続出し、フランチャイズ事業を展開。2021年、会社を後進に任せ、2022年、「珈琲倶楽部沼田店」を開店。

(写真)
珈琲を焙煎する加藤広安さん。豆は注文が入ってから焙煎。オリジナルで開発した小型の焙煎器は販売せず、レンタルのみで対応。「だから加藤は商売がヘタなんだ」と知人にいわれるものの、「初期費用に金かけたら、運転資金が減るやろ」と譲らない。現在も焙煎器のレンタル受付中。


ともかく走り回っていたい。
珈琲店を作りたい人の、役に立ちたいんです。

戦後割とすぐから、「UCC上島珈琲」に勤めましてね。55歳で定年後、嘱託で九州の工場へ。そしたら、会長から「北陸の業績が上がってるから工場を作るぞ。今すぐ新潟に来てくれ」って言われて、もうハイしかありませんわな。すぐに飛んでって、工場の立ち上げから工場長として関わってきました。営業もやってましたから、得意先にも顔を出す、売上が伸びない店舗を抱える営業マンの相談にも乗る、そんなふうに新潟で過ごすうち、1991年、64歳のときに工場が閉鎖されることになって、やっとお役御免に。

さて、これから何をするか。喫茶でもやろかって、新潟で店を開くことにしました。店名は「珈琲倶楽部」。喫茶いうても、他と同じことやっても仕方がない。工場に来たお客さんが、「工場で飲むコーヒーは味が違う。おいしい」と言っていたのをヒントに、目の前で豆を煎って出すことにしたんです。大型の焙煎機ではなく、扱いやすい小型の焙煎機を開発してね。ええ、自分で作った。後に特許もとりました。当時、そんな店はなかったから、大変な反響でしたよ。

工場に出入りする業者らと昵懇になってましたから、支払いは月賦でどうや、とムリを聞いてもらいました。最初、大型スーパーの道を隔てた反対側やったんやけど、その前の道が広すぎて渡るのが大変で。そしたら、店が入ってるマンションを改築することになって、スーパーの駐車場に移転したんですよ。これがよかった。そこで1年余り。マンションは完成したけど、もう前の場所には帰らなかった。スーパーの裏に新幹線の高架が通ってましてね、下が店舗になっている。それを、これまた、知り合いに頼んで3マス借りてね。

コーヒーを飲みに来るお客さんばかりじゃなくて、私も商売してみたいという人が次々やって来た。その人の望む物件を見て、人柄を見て、焙煎機を貸して、経営のノウハウを伝える。そうやってフランチャイズにしていった。希望者がどんどん増えてきたんで、1995年には「珈琲倶楽部」を会社に。結局、30店舗まで増えました。

私は日々、飛び回り、ゴルフもし、充実した日々を送っていましたが、年も年やから、会社は人に任せて、娘が住む群馬県に移住したんです。毎年、法師温泉につかりに来てたんやけど、あるとき、喫茶店にいい物件を見つけてね、娘にやらせることにしたんです。それが20年ぐらい前かなぁ。長いこと、任せっきりやったから負い目があるしね、少しでも役に立ちたいと思って。ところが、親子っちゅうのはあきませんね。なんかいうたら、すぐケンカ。窮屈でね。それで、あちこち店を探して、この店に行き着いた。この物件、もう15年ぐらい空いてたみたいです。

今は毎朝6時に起きて、黒にんにくとバナナ1本食べて、店に出てパンとコーヒー。昼は食べてるヒマがなく、夜は5時頃、肉好きやから肉とそこらへんにあるもので雑炊を作って食べる。就寝時間はテレビ番組次第で(笑)8時から11時の間かな。

店を開いたのが去年(2022年)の6月。豆だけ売ることにしたんやけど、すでにフランチャイズの希望があって、前橋に2軒、川口に1軒オープンさせてはいるの。さらに、桐生と高崎にもまとまりそうな案件がある。でも、まだまだ、店を開きたい人が来るのよ。そのお手伝いがしたくてたまらない。
誰か、この店を手伝ってくれる人、いませんかね。ともかく、じっとしているのがイヤでイヤで。走り回りたいんだから。

倶楽部ブレンド(¥390)。深いコクとすっきりとキレのいい苦味。同じく焙煎したての鮮豆で“点てた”コーヒーを瞬間冷却したアイスコーヒー(¥390)も。アイスは1.5Lボトル(¥700)でも販売。加藤さんは、コーヒーを“淹れる”ではなく、“点てる”と言う。

倶楽部ブレンド(¥390)。深いコクとすっきりとキレのいい苦味。同じく焙煎したての鮮豆で“点てた”コーヒーを瞬間冷却したアイスコーヒー(¥390)も。アイスは1.5Lボトル(¥700)でも販売。加藤さんは、コーヒーを“淹れる”ではなく、“点てる”と言う。



毎日続けているもの「コーヒー」1日5、6杯。

◎珈琲倶楽部 沼田店
群馬県沼田市下川田町249
☎ 0278-25-9019
10:00 ~17:00
水曜休
沼田駅から車で約7分

※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

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