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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

唐澤頼充さん(からさわ・よりみつ)

編集者、ライター、百姓見習い

Jan 15, 2021

「半農半筆」と呼びたいところだけれど、本人は謙虚に「農作業は趣味」と言う。
日曜日の朝ごはんと週末農業のコミュニティ「まきどき村」のメンバーと共に、1600㎡の田んぼで稲作に取り組み始めたのが3年前。
道具も知識も経験もない中で、無農薬、無化学肥料の米づくりに勤しみ、2020年は3000㎡に拡張。
昔ながらの稲作をしていると「田んぼでは誰もが役立つ」ことに気付く。
唐澤頼充さんにとって、田んぼとは人と社会のあり方を学ぶ教材でもある。

text by Sawako Kimijima / photograph by Madoka Hasegawa



米づくりとコミュニティ


新潟市西蒲区福井地区に、毎週日曜朝6時頃から、畑仕事と朝ごはんを作って食べる集まり「まきどき村」がある。
250年以上前に建てられた写真の古民家、庄屋・佐藤家がその拠点。取り壊されそうになった際、「福井旧庄屋佐藤家保存会」が発足し、有志によって維持されてきた。文化財指定を受けているわけでない。補助金が出ているわけでもない。残したいから自分たちで守る。そんな活動だ。「みんなで年会費を払ったり、周囲に寄付をお願いしたり、運営は自力です」と唐澤頼充さん。
唐澤さんが「まきどき村」に参加するようになったのは6、7年前だが、「まきどき村」自体は約20年前から続いている。毎週日曜日の朝ごはんは、この建物を暮らしの中で生かし続ける手段でもある。
誰もが体験したほうがいい
一昨年の春、「まきどき村」メンバーに、近隣の農家から「耕作放棄地になりそうな田んぼで米づくりをしないか」という話が持ちかけられた。1反6畝(約1600㎡)とけっこうな広さ。機械も知識も経験もない唐澤さんたちはいったん断ったものの、指導者が現れて、チャレンジすることに。
田起こし、畦塗り、代掻き、田植え、草取り、カメムシ防除、ヒエ取り、畦草取り、稲刈り、はざかけ、脱穀、乾燥……機械を持たないから、ほぼすべての作業を人力で行なった。

「収穫を終えた時、『こんな大変なことはもうやりたくない』と思いました。でも、1カ月ほど経った頃、『誰もが一度は1年を通して米づくりをしたほうがいい』と思うようになった」
なぜなら、「生きること、社会の始まり、自然との関係、そのすべてを米づくりの中で体験できる」からだ。
田仕事の包容力
唐澤さんは新潟大学農学部で農業経済を専攻。卒業後、マーティング会社に入り、農家の6次産業化の支援業務に携わった。しかし、数々のブランディングを手掛けるうちに疑問を抱き始める。
「たとえばイチゴの高級ブランドが成立するのは、安いイチゴを作る人がいるからですよね。ブランディングって、独自性を打ち出す手法に見えて、比較の上に価値付けする手法でもある。ヒエラルキーも生み出すし、みんなが等しく幸せになる方法じゃない」

他者に取って代わることで社会における存在を獲得していこうとする経済の仕組みに矛盾を感じ、仕事を頑張れなくなって、会社を辞めた。
思いがけず取り組むことになった米づくりには、人が人に取って代わられない社会の雛形があるように思えた。唐澤さんは、米作りの体験を綴って出版した冊子『TANEMAKI』のあとがきに次のように記す。

……昔ながらの農法で取り組む稲作は、稲刈りや田植えのベテランでも、素人の3倍も作業ができるとは言えません。素人が3人いればプロに近い仕事ができます。それは一人の存在価値がとても大きいということ。みんなで稲作をしていた時代は、地域に住む誰もが貴重な戦力であり、お互いに大切に思い合っていたのだろうと感じました。

20年、3回目の米作りに取り組んだが、これまでは田植えも稲刈りもイベント化することで人を集めて作業できたのに対し、新型ウイルスのせいでそれができない。
「周囲の人たちが何かと助けてくれて、つながりが深まった。3歳半の息子が稲藁を拾い集めてくれることすらもありがたい。そんな経験を通して、田んぼとは誰もがそこにいることに価値を見出せる場所だ、多様性を許容する場所だと実感しました」

トラクター、田植え機、コンバインなどによって作業効率や生産性は向上した。ワンオペも可能にしてきた。その進化を否定する気はさらさらないが、昔ながらの稲作がすべての人を包容する場となる発見は、ブランディングへの疑念を抱いてマーケティングの仕事を捨てた唐澤さんにとって、ひとつの啓示だった。
「集落の暮らしには面倒くさくて非効率的な仕事が山ほどあります。村の神社に奉納するしめ縄づくりや、農業用水路の泥上げ、夏場の草刈り、春秋の祭り普請など、毎月何かしらある。その都度、みんなが集まって作業することになる」

それらを丸ごとどこかへ託してしまったほうが合理的かもしれない。マンションの運営を専門の管理会社に委託するように。
「でも、それをやったら、人と人のつながりが切れてしまうでしょう。手を動かす仕事って、人と話をするのが苦手な口下手でもできる。誰もが参加できる、みんなにとって身の置き所のある場なんです」
つながりが切れれば、孤独死は増え、災害時の連携は取れず、集落としての機能は失われるに違いない。 「稲作や集落の共同作業は、コミュニケーションデザインとして優れていると思う」
公助・共助より互助
「面倒くさいことを考えるのが好きなんです(笑)」。それは小学校時代に端を発しているらしい。
長野県の伊那小学校。公立ながら昭和31年から通知票を廃止し、総合学習を教育の中心に据えてきたことで知られる。
「クラスのみんなでその年の学習テーマを決めるんです。牛を飼う、馬を飼う、蕎麦を栽培して蕎麦打ちをする、など。牛を飼う場合は、種付けをして、出産を見守るし、エサ代も稼ぎます」

大切なのは通知票が5であることより、5である理由なのに、理由よりも5という数字に意識が集中しがちだ。通知票のない伊那小では、学期末の度に教師と親子が懇談して評価と課題に向き合う。
“個人が個人として存在し得る社会のあり方”に唐澤さんがこだわるのは、高度成長期の生産効率主義に抗った教育の影響なのかもしれない。

今、興味あるのは「互助」だという。
「公助や共助って、社会のシステムですよね。それはものすごく重要。ただ、どんなにシステムが整ってもすくい切れないものもある。それは案外、昔ながらの互助がすくい上げるのではないかと思うようになりました。人とのつながりの中に、『いていいんだよ』と許される空気があれば、もっと誰もが生きやすくはならないか?」
たぶん答えは出ない。でも、彼は小さな営みの中で模索し続ける。

◎まきどき村
https://makidoki.localinfo.jp/
https://www.facebook.com/makidokimura/
*2020年作の米、間もなく販売します。

唐澤頼充(からさわ・よりみつ)
1985年、長野県生まれ。2004年、新潟大学農学部進学を機に新潟へ移住。マーケティングの仕事を経験した後、2012年よりフリーランス。2013年、ウェブマガジン「にいがたレポ」を立ち上げる。2015年よりNPO法人市民協働ネットワーク長岡に所属しつつ、地域支援活動を展開。現在、新潟市西蒲区福井集落に住み、同地区で20年以上続く週末農業を楽しむコミュニティ「まきどき村」に参加。「土筆舎」の名称で「農ある日常を届ける。まきどき村の生活誌 TANEMAKI 」を編集・刊行。



























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