チーズは、もっともっと“日常”になる
フロマジェ 村瀬美幸
2024.02.13
2013 年6月、日本人が「世界最優秀フロマジェコンクール」で優勝したというニュースが飛び込んできた。
決勝戦、世界中で予選を勝ち抜いた 10 人、特にフランスやベルギーの強豪を抑えての快挙を勝ち取ったのは村瀬美幸さん。1カ月前にチーズ教室「ザ・チーズルーム」を東京・京橋に開校したばかりだった。
国際的なチーズコンクール「カゼウス・アワード」は、09 年までボキューズ・ドールやクープ・ド・モンドと同じく行われていた。が、以降は資金不足により大会が中止。「世界最優秀フロマジェ・コンクール」は 07 年カゼウス・アワード優勝者のロドルフ・ル・ムニエ氏が、チーズ生産者の見本市の一環として主催した、久しぶりの国際大会だった。
「フランスで開かれたチーズコンテストで、日本人が優勝」というニュースは、欧州のメディアにも驚きをもって伝えられた。
この大会で「優勝を意識していた」と村瀬さん。09 年の世界大会で2位になったとき、ワインの師でもあるソムリエの田崎真也さんに「よく頑張ったけれど、やはり1位でないと意味がないよ」とのメッセージをもらったからだ。村瀬さんが田崎さんのワインレッスンに通い始めたのは 94 年のこと。その1年後、田崎さんは世界最優秀ソムリエコンクールで優勝したのだった。
「田崎さんの優勝を契機に、ワインが飛躍的に普及するのを目の当たりにしました。田崎さんが提案していた和食とのマリアージュも認知され、今では居酒屋でもワインがあります。チーズもそのポテンシャルが、十分にある。その裾野を広げるために、まず世界一をというのが夢でした」
チーズが「点」を「線」にする
小さな頃の夢はスチュワーデス。高校時代は米ウィスコンシン州に留学して語学力を磨き、短大卒業後に客室乗務員の職につく。時代はワインブーム。ファーストクラスではグラスをずらりと並べテイスティングする乗客の姿もあった。
食に興味を持ち、懐石料理やシュガークラフトなどの教室に通っていた村瀬さんはやがて、ワインをもっと知りたいと思うように。田崎真也さんのサロンでソムリエの資格をとってからも、その後早期退職してからは週に3回以上サロンに通った。
ワインといえばチーズ。前職の先輩が受け持つチーズ講座を手伝ううち、チーズに魅せられた。フランスのロックフォール村を訪ね生産者の思いを聞き、チーズが熟成する洞窟に立った時に「2千年も前からこうして作られていたことや、伝統が残されていることにロマンを感じた」と言う。
「季節ごとだけでなく、365 日違うコンディションのチーズがある。熟成のスピードもそれぞれ。土地ならではの食べ合わせも面白かった。今まで得てきた料理やワインの知識が点の集合としたら、チーズはそれらを線にし、面につなげてくれるものに感じたのです」
サロンでは田崎さんをはじめ、名だたるコンクールのタイトルを持つ人が講師陣としていた。その中で自分の持ち味を考えた時、チーズの資格を持ち、誰よりもチーズに詳しい自分を発見した。「ならばチーズを極めよう」と年に3〜4回渡欧し生産者を回り、フランスの乳製品専門学校の集中講義やチーズ店での研修を重ねた。経験を生かされ、サロンでもチーズ産地ツアーの企画を任されるように。ノルマンディー、ロワール、ラングドック、コルシカ、バスク・・・。山奥の生産者にも会いに行き、現地の食を楽しむツアーは人気を博した。
楽しい世界へ、ようこそ!
09 年、万全の態勢で臨んだつもりだった国際カゼウス・アワードだったが、結果は2位。「私はチーズ店での経験がないからだという自責の念がありました」
その後、チーズ専門店「フェルミエ」代表の本間るみ子氏に誘われて同店店長に。毎日チーズに触れ、パーティなどのチーズディスプレイをするなどしながら、いつ大会が再会されても出場できるように、チーズの取り扱いから作業時の立ち振る舞いまでを意識した。「フェルミエでの経験は糧になりました。その上で私はやっぱり、チーズを教えていたい」と独立。ワインやチーズを楽しめる空間を作りたいと考えていた、総合デザイン事業を営む「ハルノデザイン」代表の金子敏春さんのもと、チーズ教室を開校した。
「チーズは子どもから大人まで楽しめるもの。教室事業を通じてチーズの伝統の良さを伝えるのはもちろん、純粋に『おいしい』という味覚からのアプローチもしたいですね。さらに今後飲食事業を展開し、間口を広げて、『楽しい世界へようこそ!』と伝えていきたいです」
◎The Cheese Room
☎03-6264-1540
https://www.the-cheeseroom.com/
◎一般社団法人日本チーズアートフロマジェ協会
☎03-6264-0530
(雑誌『料理通信』2014 年3月号掲載)
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