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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

生涯現役シリーズ #08

83歳の居酒屋看板娘。「店しとってよかったなと思います」

三重・伊勢「一月家」森田礼子(もりた・れいこ)

Sep 02, 2021

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Masashi Mitsui

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢化社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


森田礼子(もりた・れいこ)

御歳83歳 1935年(昭和10年)3月19日生まれ
「一月家」(いちげつや)

三重県生まれ。「一月家」二代目の娘。高校時代から店を手伝い始め、60年に渡って店に明るさをもたらす看板娘。よく通る声に、チャーミングな笑顔がトレードマーク。常連客いわく、そろばん勘定の腕もピカイチで「間違えたのを見たことがない」とか。好き嫌いはないが、酒は飲まない。

(写真)「一月家」の看板娘、礼子さん。くしゃっと笑う笑顔が可愛らしい。会計は今も、そろばんで。「電卓は信用でけへん。押し間違えたらあかんし」(礼子さん)。

高校時代から今まで、ずうっと店を手伝ってきました。

うちは1914年(大正3年)創業で、私ら夫婦が三代目。今は、四代目になる息子と一緒に店を切り盛りしてます。伊勢では立ち飲みできる酒屋を「たちきゅう」って言うんです。昔のうちは、たちきゅうに椅子があって、料理屋と酒屋の間くらいの店でした。

私はここの娘で、高校時代から今まで、ずうっと店を手伝ってきました。若い頃は、酒飲みが相手の商売って嫌やなと思ったこともありますよ。今でこそ居酒屋ブームとかって言われますけど、昔はこういう店って年寄りばっかりやったからね。私の若い頃は、近くの漁師や農家の人とか、地元の50~70代の人が昼間っから飲むところやったんです。

それが最近は、他県からだけじゃなくて、外国の方もいらっしゃるようになりました。この辺りの人の流れが変わってきたんは、2013年の伊勢神宮の式年遷宮(20年に一度お宮を新たに建て替える神宮最大の祭り)あたりからかな。伊勢にたくさん観光客が来て、お参り帰りに、ちらほら寄ってくださるようになったんですわ。太田和彦さん(居酒屋探訪家)なんかが、うちのことを本に書いてくださったことも大きいですね。何も目立ったとこがない店ですけど、そうやっていろんな人が来てくださるのはありがたいことですねえ。

朝は9時頃に起きて、10時頃に朝食。ご飯に味噌汁、こういう商売やから、前日の残り物なんかもおかずに食べます。それから片付けして、11時頃から昼まで、掃除したり、店の開店準備。家は店の隣やから、気軽に行き来できるんですよ。昼からは少し休憩して、3~4時くらいから店に出ます。開店時は息子に任せて、自由気ままに出勤させてもろてますね。お昼は食べないけど、夕方頃に小腹がすいておやつをちょっとつまむかな。夕食は、9~10時くらいに、交代でまかないを食べます。店が終わって片付けして、10時半くらいまでは立ちっぱなしですね。注文取ったり、お酒や料理運んだり、お客さんの相手してたら、あっという間に時間は経ちますよ。

お酒? 私は飲みません。味は好きやけど、すぐ酔っぱらうから、もう飲まないことにしてる(笑)。主人もね、75歳までは毎日飲んでたんやけど、75歳を機に一滴も飲んでない。聞いたことないけど、たぶん体調のためやないかな。そういうとこは意思固いなあと思います。

だし醤油で食べる、名物の「湯豆腐」(350円・税込)。じっくり温められた豆腐の上には、鰹節とネギがたっぷり。酒が進む、染み渡るおいしさ。食べ終わっても皿や徳利は下げず、最後に数えてそろばん会計するのがここの流儀。

うちの看板メニュー言うたら、80℃くらいのお湯でじっくり温めた湯豆腐。店に来るお客さんの半分は注文します。湯豆腐は熱すぎるとおいしくない。お湯はたっぷりで、塩を少し入れるんがコツ。豆腐がゆらっとしてきた時が、おいしい頃合いやね。

毎日いろんな人と接することができて、店しとってよかったなと思います。家に閉じこもってると、他の人と接することないでしょう。古い常連の人になると、親子三世代にわたって来てくれてる人もいます。新しいお客さんもいろんな方がいて、楽しいですよ。こうやって毎日店に出て、いろんな人と会うのが、一番の健康の秘訣。息子も頑張ってくれとるから、私らももうちょっとお手伝いしないと、と思うてます。


毎日続けているもの「湯豆腐」

◎一月家(いちげつや)
三重県伊勢市曽祢2-4-4
☎0596-24-3446
14:00~22:00
水曜休
近鉄山田線宮町駅より徒歩7分

雑誌『料理通信』2019年1月号 掲載)
※年齢等は取材時・掲載時点のものです

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