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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

生涯現役シリーズ #16

82歳。「弟妹を食べさせるために、無我夢中でやってきた」

東京・春日「ゑちごや」太田泰

2022.05.02

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Masashi Mitsui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


太田泰(おおた・ゆたか)
御歳82歳 1936年(昭和11 年)8 月11 日生まれ
「ゑちごや」

東京都生まれ。祖父の代から続く「ゑちごや」三代目店主。高校を卒業した後、父の死をきっかけに、20歳から母と店を切り盛り。31歳で結婚し、現在まで妻と二人三脚で店を続ける。本郷のラーメン屋など、他店での修業も重ねながら、徐々にメニュー数を増やす。現在、息子夫婦と3人の孫と同居中。店が不定休なのは、病院の予約に合わせて休みを取るため。孫の運動会も定休日とし、応援に繰り出す。

(写真)「ゑちごや」店主の太田泰さん。アイスクリームを始め、団子などの和菓子から、定食各種やカレーライス、ラーメン(各550 円)など、何でもお手の物。


立ち仕事ができるうちは頑張らないと

うちはね、90年前からアイスクリームを作り続けてきたんです。今年(2019年)は5月頃から暑くなったから、例年より早い時期からアイスが出るね。明治10年に祖父が八百屋として始めた店だけど、父の代になってから、甘味を出すようになりました。私の代になってから、甘味と合わせて、定食やご飯ものも出すようになったんです。

アイスクリーム作りは、父の作り方を見よう見真似で覚えました。主な材料は、砂糖、コンデンスミルク、エバミルク、卵。これらを煮立てて、機械で撹拌します。小豆アイスは、これに北海道産の大納言を茹でて混ぜ込みます。これを、熱の伝導性がよいアルミ缶に入れ、零下20℃で25分間、冷やすんです。冷やすための寒材は、塩化カルシウムと氷。1回(1缶分)で作る量は、約30キロです。私は8年前に病気をしてから、重いものが持ち上げられなくなってしまったので、今は一緒に住んでいる息子に、持ち運びを手伝ってもらっています。

私がこの店を継いだのは、20歳の時。高校を卒業してすぐ父が病気で亡くなり、31歳で結婚するまで、お袋と一緒に店を切り盛りしていました。結婚してからは妻と2人、二人三脚で。私はね、9人兄弟の長男で、下の弟妹を食べさせなきゃいけなかった。だからとにかく食べるために必死でした。60年間の店人生を振り返って思うこと? それはもう、無我夢中でやってきたということに尽きるかなあ。

しかし、この辺り(文京区西片周辺)も随分変わりましたよ。昔は学生の下宿や、修学旅行の宿屋なんかが多かったんだけれど、今は見渡せばマンションばかりになっちゃって。以前だと、この辺りに住んでいた若者が夕食を食べに来ることも多くて、夜10時まで営業していましたが、今は夕方5時半には店を閉めます。

朝は5時前に起床し、開店前に店頭で販売する餅や団子、赤飯などの仕込みをまとめてします。団子や餅をついて、のしもちを切って並べて・・・これに料理の下ごしらえなんかもしていたら、あっという間に開店時間。朝食は、仕込みをしながら、昨日の残り物をおかずにご飯を食べます。

店が一番忙しくなるのは昼時。昼食は2時過ぎに妻と交代で、ささっと食べることが多いかな。その日の気分に合わせて、店で出しているメニューから選んで食べます。ずっと立ちっぱなしですが、客が途絶えたら、椅子に座って新聞を読んだりして休憩。5時半に営業を終えたら、6時頃から自宅で、妻が作った夕食を食べます。風呂に入ってゆっくりしたら、8時には寝ますよ。

現在の我が家は、7人家族。私と妻、息子夫婦、それから孫3人と一緒に、店の裏にある自宅で暮らしています。息子夫婦は共働きで、7人家族のご飯の支度は、ほとんどおばあちゃん(妻)が担当。だから家でも結構忙しくしてます。小学生の孫と一緒の暮らしは、にぎやかを通り越してやかましいけど(笑)、こうやって年をとっても家族が一緒に過ごせるのは幸せなことですね。医者からも「まだ(店を)やってるの?」と言われますが、立ち仕事ができるうちは頑張らないと。

アヅキアイス(280円)。このほかに、ミルク味、コーヒー味がある。

アヅキアイス(280円)。このほかに、ミルク味、コーヒー味がある。



毎日続けているもの「アイスクリーム」

◎ゑちごや
東京都文京区本郷4-28-9
☎03-3812-7490
10:30~17:30
不定休都営線春日駅より徒歩5分

※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2019年8月号掲載)
※年齢等は取材時・掲載時点のものです

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