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PEOPLE / 生産者・伴走者

EUが支援する持続可能な農業と若きオーガニック生産者たち【クロアチア編】

2022.11.24

クロアチア最古の有機農場を引き継ぐ、若き生産者インタビュー

【PROMOTION】
text by Yuki Kobayashi / photographs by Zrno.

連載:EUが支援する持続可能な農業と若きオーガニック生産者たち

サステナビリティとビジネスは両立する?
そんな疑問に答えるようなアワードが2022年9月、ブリュッセルで開催されました。
EUが提唱する「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略のもと、これからの農業を実践する若き生産者を訪ねます。

4億5千万人が進むべき道のカギを握るのは「土壌」

欧州圏内人口、約4億4720万人(*1)。欧州連合(EU)は27カ国705議席からなる立法府である欧州議会において、その巨大な人口の進むべき生き方を常に示してきた。議会が2019年から取り組んでいる「欧州グリーンディール政策」は、ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長の言葉を借りれば、「EUの新しい成長戦略であり、雇用を創出しながら、CO2排出量の削減を促進する」ための戦略だ。

この政策の目標である2050年の気候中立(温室効果ガス排出量ゼロ)を実現するためには、エネルギーを始め様々な産業でのリサイクルシステムの促進、よりクリーンな流通・移動手段の選択など、多岐に渡る施策と実践が必要だが、中でも「土壌の改善」は気候中立、循環型経済、砂漠化対策、生物多様性の回復等に欠かすことはできないと強調する。

欧州グリーンディール政策の中核である「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略では、「2030年までに化学農薬、有害性の高い殺虫剤の使用量を50%削減する」「土壌の肥沃度を低下させずに養分損失を少なくとも50%削減する」など、具体的な数値目標を掲げ、持続可能な農法への転換が急務であることを呼びかける。

戦略の一環として、今年初めて設定された「EUオーガニックアワード(EU organic Awards 2022)」は、EU圏内の優秀な有機農業実践者を表彰するためのコンクールだ。欧州委員会、欧州経済社会評議会、欧州地域委員会、欧州農業組織委員会、欧州農業協同組合委員会、国際有機農業運動連盟、欧州議会及び欧州連合理事会が審査に当たる。

EU圏内在住で有機栽培

EU圏内在住で有機栽培のバリューチェーンに参加し、価値あるプロジェクトを実現している事業者なら、欧州圏内の公式言語を使い誰でも応募できる。初回になる今年は200件近い応募があり、そこから8部門8名が最優秀賞として選ばれ、去る9月23日EUオーガニックデーに授賞式が行われた。

最優秀賞の選考基準は、実際の利益を上げ、環境や地域社会によいインパクトを与えていること。革新的なプロジェクトであること。環境的、社会的、経済的持続性があることなどが考慮されている。第一回の受賞者の例を見てみよう。


クロアチア最古の有機農場を引き継ぐ、もと映像制作者

農業従事者というより、寡黙な文学者のような印象を与えるクロアチアのダビッド・ペジックが率いる農業事業体「ズルノ(Zrno)」が今回、有機栽培男性事業者最優秀賞に選ばれた。彼の経歴はこの業界には珍しいかもしれない。

Q.なぜ有機農場のオーナーに?

Q.なぜ有機農場のオーナーに?

私の両親は80年代にアメリカでマクロビオティックに感化され、自国に戻りこの食事療法の熱心な実践者兼指導者となりました。その頃、クロアチアではマクロビオティックはまだ認知されていませんでしたが、果敢にも関連ビジネスを開始。講義や出版、マクロビオティック製品の輸入や販売などを手掛けていました。

2010年、両親が自己資金でもともと有機農場だった土地を購入し農園を始めた時、私は21歳で、NYで映像制作の勉強をしていました。アメリカはなんでも極端な国です。本当に体に悪い食品がある反面、有機栽培の面では世界トップクラスの製品やビジネスが存在する。そんな社会を観察し、両親の事業やその思想に価値があることを認識しながら海外生活を続けていました。

米国で短編映画の制作などに参加した後は、英国のケンブリッジ大学に進み、哲学の修士号を取得しました。専攻したドイツ観念論のホリスティックな世界観は少なからず今の農業経営に影響し、映像制作の経験は、農業でも絶対に必要なスキルである視覚化やマーケティングに役立っています。

Q.資金はどう調達した?

25歳で両親の農業を継ぐ決心をし、市町村レベルでの補助金やEUからの補助金を受けながら事業を拡大してきました。今年は敷地内の複合施設の建設、再エネ施設を設置する際に経費の90%ほどをEUの補助金でカバーできる計算です。有機栽培への投資は将来性があると信じているので、自己資金の投資も惜しまずにやってきました。

Q.現在の事業内容、主な収入源は?

Q.現在の事業内容、主な収入源は?

「ズルノ」では、22ヘクタールで60種類の野菜の有機栽培を行い、その作物の卸売りのほか、小売販売店舗を国内22店経営しています。農場敷地内には、自家栽培・自家製粉の小麦で52種類のパンを焼き上げるベーカリーを併設。畑で獲れる豆や野菜を使って、豆腐やピクルスなど18種の食品加工も手掛け、自社店舗で販売しています。首都ザクレブには、直営のビストロを1軒経営。従業員は40名。うち29名が農園に、11名がレストランに所属しています。

あちこちから「もっとビストロを増やしてくれ」と言われますが、店で使う素材は私達の農園からの作物や自社加工食品。トマトの収穫が少ないからと別から買い付けることはしません。顧客が自家農園の作物を信頼するからこそのビストロなのです。サステナブルな農業とは耕作地を拡大するのではなく、その質を上げてゆくこと。だから、やみくもにレストランを増やすことは考えていません。

この経営スタイルでは、自家農園で育つ作物はすべて自社製品や店舗で吸収され、ロスも最小限に抑えられます。複数の業種を持つことで、どこかで収入が落ちても他方で補える。事業の中では、飲食業が最も難しいですが、収入面で突出しているのはビストロとベーカリーの売上です。「ズルノ」全体では、年商120万ユーロ(約1億7300万円 1ユーロ=144円換算)を売り上げます。


Q.農業はどこで学んだ?どんな農法を実践している?

農業についての知識は両親からはもちろん、本から学んだことが多く、YouTubeなどネットの情報も参考になります。私たちの農場は、地域で最大の「不耕起栽培(農地を耕さずに作物を栽培する)」を実践しています。種付けは土壌に直接行いますが、土壌をコンポストやウッドチップで覆うことで乾燥を防ぎ、微生物の活動を促します。DCM(Deep Compost Mulch)と呼ばれるこの農法では作物が育つ密度が高く、収穫増につながるのが魅力です。

今年は欧州のどこも干ばつ被害に遭っていますが、私たちの農園では厳しい干ばつでも最悪の事態は免れました。これは以前、灌漑の効率を上げるため貯水施設に投資をしたことに加え、そもそも不耕起栽培では自然の土壌構造が保存されて土壌内のすきまが残るため、水の流出を抑え、土壌の圧縮もない。結果、灌漑に必要な水の量が少なくてすむのです。

Q.有機農業は経済的にも持続可能?

Q.有機農業は経済的にも持続可能?

クロアチアでも有機作物は、慣行農業で育てられた作物より高く取引されます。また、今年はことにウクライナ戦争からくる政情不安、それに伴うエネルギー問題、様々な要素が食材の値段に跳ね返りました。その中で有機作物の値段上昇幅は、従来農法の作物ほど顕著ではなかったのです。それは有機作物には例えば、耕すためのトラクターのガソリンや成長を早めるための化学肥料などの要素の介入が少ないから、急激な価格高騰がおこりにくい。

EUが掲げるFarm to Fork戦略は当然の流れです。若い世代の教育、啓蒙、育成も最優先事項だと考えます。私たちの農園では学校からの訪問や、大学機関とのコラボレーションや講演会、公的機関の視察などを多く受け入れています。ゆくゆくは宿泊施設を作ることで、有機栽培を体験、実感してもらえたらと考えています。

現在は人材探しに苦労していますが、地域社会から継承者が出るよう地道に活動を続けることで、若い世代の意識を高め、将来の「土壌」を作る。地域の人の手と土地で、持続可能な農業を目指したいと思っています。

成長産業

有機栽培はこれからの成長産業

パンデミック後はことに、欧州では有機作物への需要が増加している。需要増は農家に有機栽培への転換を促し、価格抑制につながることも期待される。

今回の選考のために多くの欧州委員たちが圏内の有機栽培事業者を訪ね歩き、視察を重ねた。委員の一人は言う。「どの有機農業者を訪ねても、みな自身の経済については楽観的だということが一番印象に残っています」

有機栽培はこれからの成長産業であるという認識と、確かな利益が農業従事者たちの参加をますます活発化させている。2030年にEU圏内全農地の少なくとも25%を有機栽培にするという、野心的とさえ言われているこの戦略も、今回の受賞者たちの経験と自信を通じて、到達可能だと実感した。

EU圏内の共通農業政策「CAP(Common Agriculture Policy)」では、すでに2023〜27年のプランがEU議会と加盟各国との間で協議されており、農業従事者をより公正に支援し、環境に配慮した農業への「真の移行の始まり」が期待されている。

新たな合意内容が施行される23年以降には、各加盟国のCAP予算の中で3%以上を40歳までの青年農家への直接支払いや、就農支援などへ向けるという割り当てが決まっているほか、エコロジーゼーション(Ecologization)と呼ばれる、エコ化を促進する農家への支援も始まる。これは耕作物に多様性を求め、耕作地の5%を生物多様性の促進にあてる農家を対象に行われるかたちだ。
グリーンディール政策で進むべき思想を示し、こうした詳細な活動プランを立て、確実に実施してゆく。これから急激にEU圏内27カ国内で、サステナブルな農業の実践は加速してゆくに違いない。

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