スピーディな煮込みで軽やかに。「魚のポトフ」
ブルーフード・レシピ
2025.02.20
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photographs by Daisuke Nakajima
連載:ブルーフード・レシピ
海に囲まれ、豊かな漁場を有する日本には魚食文化が根付いています。魚を食べるなかで培われ、受け継がれてきた知恵や知識を継承し、上手に食べることは、多様性豊かな海の保全につながります。日本周辺でとれる水産物(ブルーフード*)の魅力を再発見するレシピを人気店のシェフに教わります。今回は、貝のワイン蒸しを展開した「魚のポトフ」です。ポトフといっても煮込み時間は15分。魚はふっくら仕上がり、個々の野菜のおいしさも楽しめます。
*ブルーフードとは、淡水・海洋環境に由来する植物、動物、藻類など水生生物性食品のこと。食料危機や気候変動などの課題に対応し、健康的で持続可能な食料システム構築への貢献が期待されている。
**日本の海面漁業の漁獲量ランキング(漁獲量/前年比)【農林水産省:令和5年漁業・養殖業生産統計】
全体(282万3,400t/-4.3%):1位マイワシ(68万900t/+6.1%)、2位ホタテガイ(33万600t/-2.8%)、3位サバ類(26万1,100t/-18.3%)、4位カツオ(15万2,600t/-20.0%)、5位スケトウダラ(12万2,900t/-23.4%)、6位カタクチイワシ(11万4,000t/-7.3%)、7位マアジ(9万2,000t/-7.0%)、8位ブリ類(8万1,000t/-12.9%)、9位サケ類(6万t/-31.8%)、10位マダラ(5万4,000t/-6.9%)
目次
教えてくれた人:東京・代官山「アタ」掛川哲司さん
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箱根「オーベルジュ オー・ミラドー」、東京・青山「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ(現・NARISAWA)」などで修業。2013年、代官山にビストロ「Ata」をオープン。その後、恵比寿「グッドラックカリー」、日比谷「Varmen」、広尾「au deco」をオープンし、いずれも人気店に。レストランプロデュースや商品開発など多岐に渡り活動。
中火&短時間の火入れで軽やかに
ポトフは、ゆっくりコトコト、何時間も火にかけるイメージがありますが、これは真逆です。火の入りやすい野菜を選んで、魚の切り身を使い、一気に仕上げます。
味のベースはムール貝の白ワイン蒸しです。貝の味がぼやけないよう、野菜は別鍋で茹でておきます。一度に鍋に入れて、柔らかくなったものから引き上げればいい。
ムール貝のだしをおいしく仕上げるために、白ワインはアルコールをしっかり飛ばしてください。アルコールが飛びきらないうちに水を加えるとアルコール臭いスープになります。水より、白ワインをたっぷり入れたほうがおいしくなるか? なりません。酸味が立ちすぎて味のバランスが崩れます。サフランは使いますが、入れすぎないのがコツです。うっすら色づくくらいが魚介の香りを引き立ててくれます。
貝を一度取り出して、スープの味を決めてから、野菜、魚、貝を戻して、ウイスキー漬けのグァンチャーレをのせます。これは自家製ではなくプロ向けの食材卸から購入したもの。レストランらしい、複雑な香りと味わいになるので、店では欠かせませんが、手に入らなければ身近な豚肉加工品でもおいしいと思います。
最終の火入れは、強火でグツグツ煮込むと乳化が進みすぎて、仕上がりが重たくなるので中火を基本に。魚がふっくら仕上がって、メインにぴったりの一品になるはずです。
魚の煮込みの極意
【1】ゼラチン質の多い魚がベスト
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ホウボウ以外ではハタ、クエなど皮が厚くゼラチン質の多い魚がおすすめ。フグやアンコウ、タラなど冬の魚で挑戦してみよう。
【2】豚肉加工品は身近なもので
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グァンチャーレ(豚ホホ肉のハム)のウイスキー漬けは市販品。「ベーコンやソーセージなど身近な豚肉加工品でも大丈夫です」。
【3】貝の量は臨機応変に
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分量の貝で旨味が十分出ない時は、プロセス5で新しい貝を加えて旨味を補強する。貝の持っている水分はまちまちなので、臨機応変に!
「魚のポトフ」材料と作り方
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[材料]
ホウボウ(3枚におろす)・・・300g
セロリ・・・長さ20cmを1本
カブ(くし切り)・・・1/2個
キャベツ・・・1/12個
ジャガイモ(くし切り)・・・1/2個
ベルギーエシャロット・・・1個
マッシュルーム・・・2個
ポワロー・・・15cm
バター・・・20g
サフラン・・・少量
グァンチャーレのウイスキー漬け・・・薄切り4枚
塩、オリーブ油・・・適量
<スープ>
ムール貝・・・8個
アサリ・・・10個
白ワイン・・・50㎖
水・・・適量
ニンニク(みじん切り)・・・1片
バター・・・20g
サフラン・・・少量
塩、オリーブ油・・・適量
[作り方]
[1]魚に塩をする
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ホウボウの両面全体に薄く塩をして2~3時間おく。魚から水分がたくさん出た時は拭きとる。
[2]野菜を下茹でする
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マッシュルームとポワロー以外の野菜を下茹でする。茹で上がった野菜から、順に引き上げ湯を切る。
[3]貝のスープを作る
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セロリとタマネギを薄切りにして、多めのサラダ油を引いた鍋に入れ、塩をして弱火でゆっくり、野菜の水分を出すように炒める。
[4]口が開いてから2~3分煮る
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貝が顔を出す程度の水を加え、口が完全に開いたら、バターとサフラン、塩を加え、2~3分煮る。
[5]スープの味を決める
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貝を取りだし、バット上に重ねた網に上げておく。塩でスープの味を調える。旨味が足りない時は貝を足す。
[6]野菜を加える
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先に下茹でしておいた野菜とマッシュルーム、ポワロー(3~4cmにカット)を入れる。
[7]魚とグァンチャーレをのせる
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魚を半分に切って野菜の上にのせ、グァンチャーレを魚の上に重ねる。
[8]貝を戻す
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貝を一部は殻ごと、一部は剥き身にして戻し、バットに落ちた貝のスープも鍋に戻す。
[9]弱めの中火で煮込む
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蓋をして弱めの中火で煮込む。魚にふっくらと火が入り、野菜とスープが馴染んだら完成。15分が目安。
[10]盛り付け
セロリは縦4等分に切り、エシャロットは横半分に切る。他の野菜はそのまま。先に野菜を盛り込み、その上に魚とグァンチャーレの順に重ねてスープを流す。店では刻んだシブレットでグリーンを添えている。
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魚の下準備以外、一切仕込みはせず、オーダーが入ったら野菜の皮を剥くところから始める。煮込みとはいえ、魚にも野菜にもフレッシュさが感じられ、たっぷりの量がスーッとお腹に入っていく。
東京・代官山「アタ」の店舗情報
◎Ataアタ
東京都渋谷区猿楽町2-5
☎03-6809-0965
17:00 ~翌2:00
日曜休
東急線代官山駅より徒歩6分
http://ata1789.com/
※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
(雑誌『料理通信』2016年1月号掲載/本文はウェブサイト用に一部調整しています)
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