果実のみずみずしさをエアリーなかき氷で味わう「河内ばんかんのグラニータ」
フルーツを生かす、パティシエの仕事
2024.09.09
photographs by Hiroaki Ishii
コンポート、コンフィチュール、ソテー・・・生以上においしく。旬以外もおいしく。
先人の知恵が生み出した、様々なフルーツ加工術のポイントは、「糖」と「火」です。
フルーツ使いに優れたパティシエに、「糖」と「火」で引き出された果実の持ち味を生かすテクニックを教わります。今回は、グラニータの作り方。
教えてくれた人
東京・祐天寺「アクオリーナ」茂垣綾介さん
2004年に料理人として渡伊。各地で修業する中でジェラートと出会い、帰国。2012年に東京・祐天寺でジェラート専門店「アクオリーナ」をオープン。旬を大切に、素材の個性を引き出すジェラート作りに情熱を注ぐ。
果実感を損ねず、メリハリを出す工夫を
イタリア版かき氷、グラニータ。果物、水、グラニュー糖。材料は基本、これだけ。
シンプルだからこそ「いい材料を使うことがおいしさに直結する。果物選びにつきます」と「アクオリーナ」のオーナーシェフ、茂垣綾介さん。旬の果物を使ったジェラートやシャーベットが多い時には7〜8種類も並ぶ。
茂垣さんが言う“いい果物”とは、そのまま食べておいしい果物とは少し違う。「甘味は足せるんです。でも果物が持つ香り、酸味など個性は足せない」。熟した果物は確かに甘くておいしいが、種類によっては香りや酸味が抜けてしまうことがあり、加工すると風味を十分に出せないという。逆にプラムのように酸味が強くて好みが分かれる果物でも、砂糖を加えることで生のままで食べるよりおいしさが増すものも。まずは果物を味見して、「その果物を使う意味を考えます」。
グラニータ作りは簡単に見えるが、「果物100%のジュースを水と砂糖で薄めていく作業」。果実感を損ねず、メリハリを出す工夫が細部に施されている。「河内ばんかんのグラニータ」ならゼストを加えて香りを強めるが、シロップの温度は低くしてえぐみは出さない。搾った果汁には果肉を残し、さっぱりした中に果実感を残す。「プラムの氷菓」は、果肉を凍らせて粒状にし、シャーベット状にした上にふりかけ、食感の違いを出す。果物の個性を理解するセンス、表現する展開力が生きている。
果物がおいしければ、A級品である必要はないと茂垣さんは強調する。加工するので見た目を問わないからだ。生産者との付き合いは、仕事の中で大きな位置を占める。産地を訪れ、生産状況を知るにつれ、生産者側に寄り添う取引を心がけるように。収穫過多などで行き場のない果物を引き取るような、農家の支援につながる取引もする。店のメニューを固定化しないのは、生産者との交流を通して偶然出会った果物をジェラートにして、さらにおいしくして食べてもらう、自由度を持つためでもあるのだ。
<果実を生かす、グラニータのコツ>
1 フルーツの個性を取り出して強調する
2 果肉はそのまま凍らせて食感に変化をつける
3 多種多様なフルーツで楽しむ
「河内ばんかんのグラニータ」の作り方
[材 料](作りやすい分量)
河内晩柑の果汁・・・300g
水(ミネラルウォーター)・・・140g
グラニュー糖・・・60g
河内晩柑の皮・・・1/2個分
<飾り用>
河内晩柑の果肉・・・適量
[1]皮をすりおろす
河内晩柑は水でよく洗い、おろし金などで皮をすりおろす。
[2]シロップを作る
シロップを作る。鍋に水、グラニュー糖を入れて火にかける。
[3]40~50℃で火からおろし、皮を加える
40~50℃に温めたら火から下ろし、1を加えて常温に冷ます。POINT:シロップは沸かさない。温度が高すぎると柑橘の皮のえぐみが出る。
[4]果汁を搾る
河内晩柑の果汁を搾る。果肉を入れるために果汁を濾さないので、種はスプーンで取り除く。
[5]冷やす
ボウルに分量の果汁と3を入れて混ぜる。ラップして冷凍庫で冷やす。POINT:冷凍庫臭を吸収しないようにラップか蓋をする。
[6]1時間後
約1時間後。外側が凍っているが、中心はまだ水っぽい状態になったら取り出す。POINT:冷凍庫によって冷凍時間が変わる。
[7]ホイッパーで撹拌し、再び冷やす
ホイッパーで潰すように粗めに混ぜ、再び冷凍庫に入れる。POINT:底面が溶けないようにケーキクーラーなどの上で作業する。
[8]30分後、撹拌→冷凍
30 ~ 40分後。まだ少し柔らかい状態。ホイッパーで粗くほぐし、再び冷凍庫に入れる。
[9]30分後、フォークでほぐして完成
30~40分後、フォークを使ってほぐして完成。器にふんわり盛り付け、果肉を添え
る。
“和製グレープフルーツ”とも呼ばれる河内晩柑の皮、果汁で作る、軽やかなイエローで清涼感あふれるグラニータ。ふんわりほぐれた氷は、舌の上で一瞬のうちに溶けてしまい、果実のみずみずしさと、ほんのりほろ苦い余韻を残す。
◎アクオリーナ
☎03-5708-5787
水〜金13:00-22:00 (21:45 LO)
土日祝 13:00-20:00
月火休、不定休
http://www.acquolina.jp/
※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
(雑誌『料理通信』2016年8月号掲載)
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