ホールスパイスに焦げる寸前まで火を入れる。豆と野菜の「豆乳ダル」
プラントベースの始め方23
2022.10.11
text by Hisayo Kisanuki /photographs by Toshihiko Takenaka
連載:プラントベースの始め方
健康や環境への配慮から、植物性の食材を主体とする“プラントベース(Plant Based)”な食事法が注目されています。肉や魚や乳製品に頼らずとも「おいしい」料理を作る知恵は、世界各地に存在します。身近なレシピからおいしくプラントベースを始めるヒントを紹介します。
教えてくれたシェフ
大阪・松屋町「定食堂 金剛石」中尾浩基さん
4種類の豆の滋味あふれる香り高くもまろやかな味わい
屋号に掲げているように、うちは「定食屋」。お出ししているのは、“定食としてのカレー”です。ご飯を中心に、主菜は肉や魚介などを使ったカレー、〝豆腐の味噌汁〞的な汁物・豆乳ダル、副菜は「キャベツポリヤル」や「ヒヨコ豆とブロッコリーのサブジ」など、それぞれ役割があるおかずをひと皿に盛っています。味にメリハリがあり、栄養バランスが良く、混ぜながら食べ進めれば味も変わって、食べ飽きない。毎日このひと皿だけを食べても、食事が成り立つようなイメージで組み立てています。
汁物としての役割を担う豆乳ダルは、メインのカレーや副菜の野菜おかず、ご飯をつなぐ、ほっこりできるまろやかな味わいを目指しています。緑豆、レンズ豆、ヒヨコ豆の3種の豆と、日本らしさとまろやかさが出るよう豆乳=大豆を加えた、計4種の豆を使って旨味を重ねます。
動物性食品不使用、使うのは野菜だけなので、焦げる寸前までしっかりとホールスパイスを加熱して、コクのある香ばしさを出すのが最大のポイント。そのためには油は恐れずたっぷり使ってください。スパイスは、優しくて華やかな香りを持つコリアンダーシードを多めに使っています。ターメリックは豆を煮る鍋に入れて、豆や煮汁に色と香りを染み込ませます。塩を先に入れてしまうと豆はやわらかく煮えないので必ず後から入れること。今回はカボチャとホウレン草を使いますが、旬の野菜なら何でもOK。味噌汁と同じです。
イタリア料理の経験もある僕からすれば、インド料理は本当に不思議です。野菜そのものは炒めたり揚げたりすることもなく、水から煮るだけ。スパイスの力で、野菜だけでもおいしく仕上がるのです。立体的な香りやコクを産み出すスパイス使いのコツをぜひ、マスターし、使いこなしてみてください。
<植物性食材だけでおいしくなるコツ>
1 4種の豆と野菜で重層的な甘味とまろやかさに
2 スパイスを重ねて香りに立体感を出す
3 豆を煮込んでゆるいポタージュ状の濃度に
「豆乳ダル」の作り方
[材 料(約80皿分)]
<はじめのスパイス>
クミンシード・・・10g(大さじ2)
アジョワンシード・・・10g(大さじ2)
ブラウンマスタードシード・・・15g(大さじ3)
赤唐辛子・・・15g(大さじ3)
コリアンダーシード・・・20g(大さじ2)
フェヌグリークシード・・・2g(小さじ1)
ローリエ・・・10枚(小さじ1)
<真ん中で加えるスパイス>
粗挽き唐辛子・・・35g(大さじ7)
コリアンダーパウダー・・・30g(大さじ6)
クミンパウダー・・・20g(大さじ4)
ガラムマサラ・・・20g(大さじ4)
ヒング・・・1g(小さじ1/2)
<豆用スパイス>
ターメリック・・・13g(大さじ3)
[その他の材料]
イエロームングダール(緑豆挽き割り)・・・300g
マスルダール(レンズ豆挽き割り)・・・300g
チャナダール(ひよこ豆挽き割り)・・・300g
水・・・4L
カボチャ・・・1/4個
ホウレン草・・・2束
無調整豆乳・・・ 1L
塩・・・60g
サラダ油・・・180ml
タマネギ・・・2個
ニンニク(すりおろす)・・・50g
トマト水煮・・・400g
[1]豆を洗う
3種の豆をザルに入れ、米を研ぐように洗う。表面の汚れが取れればOK。
[2]豆を水から茹でる
大きめの深鍋に1と水を入れて強火にかける。沸騰したらアクをとる。
[3]茹で汁にスパイスを加える
弱火にして2㎝角に切ったカボチャと2㎝幅に切ったホウレン草とターメリックを加える。
POINT:豆にスパイスを染み込ませる
[4]塩を加える
豆が煮崩れてきたら、塩を加える。豆が水分を吸ってやわらかくなってから塩を入れないと、豆が硬くなるので注意。
[5]豆乳を加える
豆乳を加えて、混ぜ合わせる。まろやかさを出す。
[6]タマネギを粗みじん切りにする
タマネギを粗みじん切りにする。この切り方は加熱することで甘味と香ばしさが出やすい。
[7]ホールスパイスを中火にかける
深めのフライパンにサラダ油と<はじめのスパイス>クミンシード、アジョワンシード、ブラウンマスタードシード、赤唐辛子、コリアンダーシードを入れて中火にかけ、温度が上がれば弱火にする。
[8]焦げる寸前まで火を入れる
赤唐辛子が黒くなり、焦げる寸前まで火を入れる。焦がさないようにしっかり火を入れて香ばしさを出すこと。
POINT:ホールスパイスは焦げる寸前まで加熱し、コクと香ばしさを出す。
[9]タマネギを加える
フェヌグリークとローリエを加え、4、5秒後にさらにタマネギを加える。
[10]さらに加熱する
ヘラで混ぜながら加熱。豆のスープづくりと7~9の作業は並行して行なうとスムーズ。
[11]ヒングを加える
タマネギがキツネ色になってきたらヒングを加える。
POINT:タマネギがこのくらい色づいたらOK
[12]すりおろしニンニクを加える
すりおろしニンニクを加え、さらに10~20秒炒める。
[13]<真ん中で加えるスパイス>を入れる
残りの<真ん中で加えるスパイス>を加えて、混ぜながら加熱。しっかりと油にスパイスの香りを移す。
POINT:油にスパイスの香りを馴染ませる
[14]トマトの水煮を加える
トマトの水煮を加える。トマトに火が入り、赤い油が浮いてきたら、10に移す。
[15]塩で味を調える
よく混ぜて均一になれば、塩(分量外)で味を調え、完成。
豆乳ダル(本日のカレーより)。バスマティライスに、インディアイカ&牛ホルモンと豆乳ダルの合いがけ。キャベツポリヤル、大根のアチャール、ひよこ豆とブロッコリーのサブジ、台湾風煮卵を添えて。
◎定食屋 金剛石
大阪府大阪市中央区瓦町1-8-25
ハイツ松屋町102
☎06-7174-2578
11:30~14:00LO、18:00~21:30LO
火曜11:30~16:00LO
売り切れ仕舞 水曜休
大阪メトロ松屋町駅より徒歩3分
Twitter:@ currykenmiconos
※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため要請に合わせて営業時間が変わることがあります。
(雑誌『料理通信』2019年8月号掲載)
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