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RECIPE

70回の “肉のマッサージ”でイタリアの味に

「骨付き鶏モモ肉のキャンティ風煮込み」

スローレシピ02

2021.12.23

70回の “肉のマッサージ”でイタリアの味に 「骨付き鶏モモ肉のキャンティ風煮込み」 スローレシピ02

photographs by Sai Santo

連載:スローレシピ

材料をイチから用意し、時間をかけて、料理すること自体をゆっくりと楽しむ。それが“スローなレシピ”。下拵えの工程を丁寧にすることで、普段の食材で作る料理が、いつもとは違う味になります。丁寧に、根気よく、時間をかけて、おいしく仕上げる。今回はパーティにもピッタリなイタリアの鶏の煮込みです。一番のポイントは “肉のマッサージ”! 

教えてくれたシェフ
神奈川・鎌倉「オルトレヴィーノ」古澤一記さん

古澤一記さん

2000年渡伊。トスカーナ、プーリア等で7年料理修業し、うち2年はシェフを務める。フィレンツェ「エノテカ・ピンキオーリ」でソムリエを務め、08年から2年間、ワイナリーで栽培・醸造を経験。2010年、現店開店。


イタリアが匂う解像度の高いレシピ

豊かさの力点が、非日常=ハレの場から日常へシフトしつつあった2010年、10年過ごしたイタリアから帰国した古澤一記シェフと妻の千恵さんが鎌倉に開いたのは、リストランテではなくワインと惣菜の店、イタリア語でいう「エノガストロノミア」だった。提供されるのは日本でもよく知られたイタリア料理なのだけれど、古澤シェフの作る味は何かが違う。その理由を知りたくて、教えてもらったのが「骨付き鶏モモ肉のキャンティ風煮込み」だ。
トスカーナのデザートワイン、ヴィンサントで煮込むからキャンティ風。あらかじめ肉をマリネして味を染み込ませてから煮込む、「オルトレヴィーノ」の定番メニューだ。

マリネ=マッサージ。丁寧に揉み込むことで、やさしい味が中まで浸透。

イタリアで働いている時、古澤シェフはエミリア=ロマーニャ州ボローニャ近郊のトラットリアで、あるおばあちゃんシェフの郷土料理に出合う。一見何気ないけれど、食べると他の店とは明らかに違う。シンプルなのに、なぜこんなにおいしいのか? 理由を知りたくて、その店「ダ・アメリーゴ」で1年働くうちに気づいた。
「シェフのアンナおばあちゃんと毎日厨房に立つうちに、すべての動作が“丁寧”なんだと気がつきました。塩の打ち方ひとつ、煮込みの混ぜ方ひとつとっても、仕事で料理していない。まるで自分の家族に食べさせるような向き合い方でした」。

そこで学んだことのひとつが、肉のマリネの仕方。アンナおばあちゃんは鶏肉をハーブと白ワインでマリネする時も、肉をマッサージするように丁寧に味を染み込ませていた。
「鶏をマッサージするように70~80回揉み込みます。丁寧に揉み込むことで、やさしい味が中まで浸透し、肉も軟らかくなります。イタリアで"マリネ"と言えば"マッサジャーレ(マッサージ)"が欠かせません」

そんな風にイタリア人にとっての当たり前。レシピにならないようなところからイタリアの匂いは滲み出ると知った古澤シェフのレシピは、一つひとつの工程の解像度が高い。だから、いつもの食材で作っても、いつもと違う味になり、繰り返し作るうちに、それが自分の料理習慣となって、いつの間にか料理が上達している。力のあるレシピだ。


スローなレシピの極意

●マリネ=マッサージすること 肉をマリネする際、マッサージするように70~80回丁寧に揉み込む。気の遠くなるような手のかかる作業も、食べる人を思ってこそ。

●マリネ=マッサージすること
肉をマリネする際、マッサージするように70~80回丁寧に揉み込む。気の遠くなるような手のかかる作業も、食べる人を思ってこそ。

 

フレッシュのハーブを3段階(1.マリネする時、2.刻んで煮込む、3.ブーケガルニにして煮込む)に分けて加えることで、香りに奥行きが出る。

●ハーブの香りを幾層にも重ねる
フレッシュのハーブを3段階(1.マリネする時、2.刻んで煮込む、3.ブーケガルニにして煮込む)に分けて加えることで、香りに奥行きが出る。


「骨付き鶏モモ肉のキャンティ風煮込み」材料と作り方

【材料】(6人分)
骨付き鶏モモ肉・・・6本

<マリネ液>
塩(シチリア産細粒)・・・適量
黒コショウ・・・適量
生ハーブ(ローズマリー10㎝、セージ5枚、タイム10㎝、ローリエ2枚、イタリアンパセリ2枝)
ニンニク(みじん切り)・・・1片
白ワイン・・・適量

タマネギ(スライス)・・・1/2個
E.V.オリーブ油・・・適量
ヴィンサント(トスカーナのデザートワイン)・・・200ml
黒オリーブ・・・25粒
生ハーブ(ローズマリー10㎝、セージ5枚、タイム10㎝、ローリエ2枚、イタリアンパセリ2枝)
ブーケガルニ(ローズマリー、タイム、セージ、ローリエ、タイムを糸で括ったもの)・・・1束
野菜のブロード(ニンジン、タマネギ、セロリ、イタリアンパセリで薄く取っただし)
赤ワインビネガー・・・各適量

【1】下味をつける
鶏モモ肉の表面の水分をペーパータオルで拭き取り、均等に塩、コショウをふる。
<POINT>この時点でほぼ味を決めるよう、しっかりめに塩をする。

【2】マッサージする
ボウルに鶏肉と刻んだ生ハーブ、ニンニク、白ワインをたっぷり、ふた回しほど加え、鶏モモ肉をマッサージするように70~80回揉み込む。

【3】一晩寝かせる
ボウルに水分がなくなり味が中まで浸透したら(鶏肉が水分をすべて吸ったら)、真空、もしくはビニール袋に入れて空気を抜き、一晩冷蔵庫でマリネする。

【4】タマネギの甘味を引き出す
蓋付き鍋にオリーブ油をひき、タマネギを入れて弱火で色付かないようにゆっくり炒め、甘味を引き出す。
<POINT>肉がちょうど収まるサイズの鍋を使う。

【5】肉の表面を焼く
フライパンに2の鶏肉を皮目を下にして並べ、強火で表面だけ焼き固める。フライパンに出た余分な脂を捨てる。

【6】肉にタマネギの甘味を吸わせる
4のタマネギの上に鶏肉の皮目を下にして並べ、弱火にかける(蓋はしない)。しばらくしたら表裏を返す。
<POINT>鶏肉の両面にタマネギの甘味を吸わせる。

【7】香りをつける
ヴィンサントと黒オリーブを加え、ゆっくり水分を飛ばす。

【8】水分を飛ばす
刻んだ生ハーブとブーケガルニ、レードル1杯の野菜のブロード(または水)を加え、ゆっくり水分を飛ばす。

【9】肉を乾かさず蒸し煮

煮汁にとろみがついてきたら蓋をして弱火で蒸し煮する。煮汁がトロッとした状態をキープするようブロードを少しずつ足しながら、時々煮汁をスプーンで回しかけ、肉が乾かないようにする。 鶏肉の皮がはがれないよう、表裏は返さない。

煮汁にとろみがついてきたら蓋をして弱火で蒸し煮する。煮汁がトロッとした状態をキープするようブロードを少しずつ足しながら、時々煮汁をスプーンで回しかけ、肉が乾かないようにする。
<POINT>鶏肉の皮がはがれないよう、表裏は返さない。

【10】酸味を加える
1時間ほど煮て、肉に火が通り、煮汁が煮詰まったら、赤ワインビネガーを全体にふり入れる。鍋を回して酸を飛ばす。
<POINT>酸味を飛ばして、風味は残す。

【完成】

鶏肉はふっくらやわらか。ハーブが豊かに香る。オリーブやビネガー、ワインの甘味や酸味、旨味が混然一体となって、滋味深い味わいに。

鶏肉はふっくらやわらか。ハーブが豊かに香る。オリーブやビネガー、ワインの甘味や酸味、旨味が混然一体となって、滋味深い味わいに。



◎オルトレヴィーノ
神奈川県鎌倉市長谷 2-5-40
☎0467-33-4872
イートイン:12:00~21:30(L.O 18:00)
テイクアウト:12:00~18:00 
水曜 木曜休み
http;//www.oltrevino.com

※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2010年11月号2020年7・8月合併号掲載)

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