Norway [Kautokeino] トナカイの血のパンケーキ、心臓の鍋料理。丸ごと使い切る先住民族の知恵をSNSで発信
2022.09.20
text by Asaki Abumi / photograph by Per Thomas Oskal(Instagram @reindeerlife_photo)
ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの北部には先住民族サーミ人が暮らしている。同化政策と抑圧の歴史は今もサーミ人にネガティブな影響を与えており、若い世代の中には、サーミ文化や歴史を残そうとする熱心な活動家が増えている。
26歳のエッレ・サーヴェ・ヨハンスドッティル・ガウプさんは、インスタグラムでサーミ料理の紹介を始めた。サーミ文化を伝えるSNSアカウントはあったが、意外なことに、料理に特化したものはなかった。ガウプさんは若い世代をターゲットに、トナカイやベリーなど現地の素材を使った簡単なレシピをサーミ語とノルウェー語で発信している。
ガウプさんは、トナカイ放牧で暮らす家庭で育った。
「サーミ人にとってトナカイ業は、ただの仕事ではなくライフスタイルそのもの。朝から夜までトナカイと天気のことを考え、放牧中もトナカイたちの関係性に気を配っています。どうしたらトナカイが最高の生涯を送れるかを考え、トナカイと自然に常に敬意を払っているのです」
トナカイは今、国内外からの需要に供給が追い付いていないという。理由は、トナカイ肉はミネラル、オメガ3など栄養素を豊富に含み、なによりおいしいからだ。「トナカイ肉には化学薬品がほぼ使われておらず、牧草を食べているので自然の味がします」とガウプさんも話す。しかしノルウェー食品安全保障庁の規制が厳しく、「同庁の許可を得て市場に卸せるのは肉だけ。血、頭、内臓などの許可には、複雑な要求を満たさないといけません」。
サーミ人にとって、トナカイ全てを使い切ることが先祖代々伝わる基本である。
「だから私はサーミの食文化が忘れられないように発信をして、トナカイの肉だけではなく、血、内臓、頭、心臓、だしなど全てを使い切り、食品ロスを出さないサステナブルなアプローチであることを伝えたいんです」
食品ロス問題が叫ばれているノルウェーで、先住民族の知恵は、今こそ必要とされているのかもしれない。
(写真トップ)ノルウェー北部のカウトケイノに住む、夏のワンピース(民族衣装)を着たガウプさん。サーミ人の多くはトナカイ業だけでは生計が立てられないため副業をもつ。彼女も家業の放牧を手伝いながら、石油プラットフォームで料理人として働いている。
(写真2枚目)ノルウェー北部、トロムソのトナカイ。放牧数は政府によって管理されている。「持続可能なトナカイ業をサーミ人が続けるためには良い規制」とガウプさん。
関連リンク