葉っぱで守りながら、美肌自慢の柑橘に 小夏
[高知]未来に届けたい日本の食材 #27
2023.04.06
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
気候温暖な高知では、柑橘類の栽培が盛んです。小夏もそんな高知名産の一つ。宮崎の日向夏、愛媛のニューサマーオレンジと同種ではありますが、小さく甘く作るのが特徴。つるんとした黄色の美しい肌と、柔らかな果肉が魅力です。小夏の栽培を始めて12年になるという、川澤昇さん、広子さん夫妻を土佐市に訪ねました。
定年前から人生、先細りには絶対なりとうないと思っとったけど、ある時、小夏作りの名人の方がうちの土地を見て、「ここにハウスを建てたら、土佐市一の小夏ができる」と言うんよ。偶然、家内も同じことを言われた。それで、私の定年を機に、二人してやってみるか、となったわけです。とはいえ、簡単にはいかんわね。苗も買わんといけんし、ハウスも建てなきゃだし、冷蔵庫の倉庫に選果機もいる・・・と、最初は物入りだった。
でも、やってみてわからんことは、五感を活用すれば何とかなる。人に聞いて教えてもらったことは必ず実行した。聞くだけではダメ。聞いた相手にも失礼や。大事なことは人づきあいも同じ。とにかく、お金を目的にして成功した例はない。とことん好きになって、誠心誠意やる。その結果が、このハウスの小夏です。
ここら辺りは柑橘の栽培に好適かというとそうでもなく、かつてはしょっちゅう川が氾濫していた地域でね。だから、畑には山土を盛って上げてあります。横から見るとわかるでしょ。作業性は悪いけど木も高畝にして植えてます。この地のいいところは1日中、太陽が当たっている点。日照時間が長いんです。
このハウス、気温がマイナスに下がった時に実が凍らないように加湿し、雨に当たるのを防いで病気を減らすためのもの。凍ると果実に「ス」が入るし、雨に当たると病気になりやすい上、糖度が下がる。脇のほうは網になっとるでしょ。とくに寒い日でない限り、ビニールの一部は朝8時から夕方まで開放して、夕方には閉めます。
高知で小夏の品種として登録されているのは、室戸、宿毛、西内の3種。それと在来種なんやけど、うちのは宿毛小夏。早生種だから減酸が早いのが特徴。3月末から4月上旬までに収穫、冷蔵庫に入れて味をのせてから徐々に出荷して、6月上旬まで出荷します。
小夏の木、スカートめくりじゃないけど、葉っぱの下から覗いてみてください。実がいっぱいあるでしょ。いかに葉に隠れるように実をたくさん成らすか、それが剪定のテクニック。葉で覆うことで果皮を日焼けしないように守るんです。日焼けするとつるつるのきめの細かい美肌にならず、ニキビ面みたいに表面がブツブツになってしまう。
気がつけば退職して12年。小夏のおかげで、収入もずっと右肩上がり。人生、まだまだこれから。違う世界でも羽ばたいてみたいと思っているところです。
◎新需要開拓マーケティング協議会
事務局:高知県農業振興部産地・流通支援課
☎088-821-4806 Email: 160701@ken.pref.kochi.lg.jp
(雑誌『料理通信』2018年5月号掲載)
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