「日本発ガストロノミー×サントリー日本ワイン」 2015 vol.2
アンダーズ 東京×サントリー日本ワイン コラボディナー
2015.12.16
photographs by Tsunenori Yamashita
日本のトップホテルのシェフとソムリエが山梨の登美の丘ワイナリーを訪ね、ワインづくりの現場で受けたインスピレーションを料理として表現するこのシリーズ。
今回の舞台は東京・虎ノ門「アンダーズ 東京」です。
総料理長にして料飲部長のゲハード・パスルガーさんとホテルソムリエ兼料飲部副部長の浅田資継さんが山梨の登美の丘ワイナリーを訪れたのは、収穫が始まったばかりの8月下旬のことでした。
以来、温め続けたクリエイションを、2015年11月25日、アンダーズ 東京51階「シェフズスタジオ」でのディナーイベントで披露。登美の丘から赴いた渡辺直樹ワイナリー長と共に、登美の丘のワインの魅力、そして、料理とのマリアージュが描き出されました。
大切にするものが同じ同士
「主役は“土地”です」。
登美の丘ワイナリーの渡辺直樹ワイナリー長は、いつもそう語ります。
ワインづくりに携わるようになって25年余り。開園から百年を超える登美の丘の歴史を土台として、途中、3年にわたるボルドーでの学びを糧として、登美の丘の環境と向き合い続けてきました。
「経験を重ねるほどに、ワインに表れるのは“土地”であり、どうすれば“土地”をより良く表現できるのだろうか、と思うのです」。
けっして濃く強いワインができる土地ではない。むしろ、優しさやエレガントさに持ち味がある――向き合い続けたからこそ見えてきた個性をより引き出すことに心を砕きます。
そんなワインにシェフがどんな料理を合わせるのか。お客様はどう受け止めるのか。「一番楽しみにしているのは、私かもしれませんね(笑)」と渡辺さん。
奇しくも、立脚する土地に寄り添うことで個性を出し、土地の文化を色濃く反映させるのが「アンダーズ 東京」のコンセプト。グローバルホテルでありながら、国ごとに都市ごとに、すべて異なる個性を持っています。
総料理長のゲハードシェフは、ヨーロッパ、オーストラリア、アジアでの経験を経て、2014年の「アンダーズ 東京」開業時に着任しました。グローバルに腕をふるうからこそ、ローカルの大切さやその土地の個性を見極められる国際派です。
同じポリシーを持つ同士のコラボレーションとなった今回は、これまでにもまして日本ワインの可能性を描き出したと言えるでしょう。
料理と合わせることで見えてくるもの
日本のトップホテルとサントリー日本ワインのコラボレーションは、2014年からスタートして、5回目を数えます。
日頃はぶどうの樹と語り合う渡辺ワイナリー長が、この時ばかりは、お客様に直接語りかけました。登美の丘は標高約600mの小高い丘であること、ワインづくりを手掛けて100年以上の歴史があること、約150haある敷地の中でも条件的に恵まれた約25haで栽培していること、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドなど赤が8品種、白はシャルドネ、甲州など4品種を、日照や土壌など畑のキャラクターに合わせて植え分けていること……。
と同時に、お客様と一緒に、シェフのクリエイションを受け止めるわけです。「お、こう来たか、という驚きや高揚の連続ですね」。
登美の丘のワインとシェフたちによる料理のマリアージュを体験してきて、渡辺ワイナリー長には大きく2つの法則が見えてきたそうです。
「ひとつは、料理がワインを甘やかにしてくれる組み合わせ。そして、もうひとつは、ワインの味の要素が料理の中に取り込まれている組み合わせ」。
いずれにしても、ワインだけでは見えてこなかった側面が、料理と合わせることで照らし出されてきて、「あぁ、このワインにこんな部分があったんだなと気付かされる」と言います。
甲州のキャラクターを際立たせる
今回のマリアージュで、ひとつポイントになったのが、サーブされるワインの順番でした。
白ワインが、「登美の丘 甲州スパークリング 2012」→「登美 白 2012」→「登美の丘 甲州 2012」の順に出されたのです。
「登美 白 2012」は登美の丘ワイナリーの白のフラッグシップです。芳醇で濃密、余韻が長く、「日本でもこんなシャルドネができるんですね」としばしば言われる逸品。通常、白の最後を飾るケースが多いのですが、ゲハードシェフは、なんと甲州の前に持ってきました。しかも、「登美 白 2012」×ロブスター&ブッラータ、甲州×フォワグラ、という通常と逆転の組み合わせ。当然のごとくに、会場から「なぜですか?」との質問が飛びます。
すると、ゲハードシェフいわく、「スパークリングで弾けるようにスタートしたディナーの流れを、エレガントな登美 白でいったん落ち着かせる意味合いがひとつ。それによって、みずみずしさと独特のキャラクターのある登美の丘 甲州の良さも浮かび上がると考えたからです」。
国際品種として常に圧倒的なポジションを誇るシャルドネのふくよかさや懐の深さを理解しつつ、あえて、日本の固有品種である甲州を際立たせる流れの組み立ては、世界を舞台に腕をふるってきたゲハードシェフならではの計らいと言えるかもしれません。
そんなワインと料理のマッチングをどうぞご覧ください。
ディナーのスタートは、モノトーンのシックなプレートから。
カルパッチョ仕立てのホタテ貝の甘い口当たりに、クリーム状にしたキクイモの草のような風味とバタリーな味わいが絡み合います。
黒トリュフが土の香りをほのかに加え、甲州スパークリングの二次発酵に由来する持ち味とうまく結びついて、最後には素晴らしい酸味が残ります。
「登美 白 2012はブルゴーニュの典型的なシャルドネのような王道感と同時に、生き生きとした躍動感や軽やかさも備えていてすばらしい。多層構造から成り、力強い」とゲハードシェフ。「加えて、最後にフレッシュできれいな酸が広がりますね」と浅田さん。王道的な厚みのある味わいに合わせて、上質な旨味と甘味を持つロブスターとリッチでクリーミーなブッラータをぶつけ、軽やかさにはマーシュやフィンガーライムを共鳴させました。イチジクやメープルの甘味をプラスし、トータルでのハーモニーを奏でています。
「とても興味深いワインです」とゲハードさんは甲州のキャラクターを珍重します。「軽さの中にアルコール感があって、適度に脂肪を抱え込んだ食材、タンパク質系の食材がいいですね。そこで、フォワグラをクラシックスタイルではなく、できるだけraw(生)に近い火入れで出したいと考えました。ウィスキーとメープルでマリネして、軽くトーストしたブリオッシュと共にお出しします」。
みかんと柿の風味と山羊乳製チーズの野生的な酸味を組み合わせて。
ゲハードシェフは、この料理のために、どんな肉を使うのが最も効果的か、試作を重ねたそうです。結論は豚肉。「登美の丘 赤の軽めの熟成感とナチュラルなタンニンと同調させるため、赤身肉のニュアンスがありながらも白肉系の豚に」。ただし、狩猟肉のスタイルで料理することにしました。豚肉を一晩、ジュニパー(ネズ)、タイム、赤ワイン、濃縮トマトに漬け込んでいます。加熱後すぐに、新鮮なシャントレルマッシュルームが入ったソースで煮込むことで、トマトのフルーティーさ、赤ワインの深みと香ばしさがもたらされます。
ソムリエの浅田さん、「アメリカンチェリーやブルーベリーの香りがあり、余韻も非常に長いけれど、強さや華やかさより、やわらかさや繊細さを感じますね」とコメント。ゲハードシェフは、「エレガントなこのワインには、樹木と松葉を使った料理方法を合わせたい」と考えたそうです。ローズマリーの香りをほのかに付けた杉板で巻いてラムローインをローストし、松葉からの抽出液を染み込ませたジュを添えます。「登美 赤に残るフルーティーさも生かしたかったので、ローストしたビーツも加えて」。スモークしたインカポテトとゴボウが上手くボリューム感を足しています。
「ノーブルドールとの共鳴を求めて、ほどよい酸味とたくさんのアロマを持つ熟した黄色いフルーツ、その強く甘いコクを求めた結果、このデザートが完成しました」とゲハードシェフは語ります。新鮮で酸味のあるアプリコットと、滑らかで濃縮されたドライピーチのコンビネーションが見事にワインとマッチ。
「アーモンドスフレケーキの軽い食感とコクのあるクリーミーなハニーアイスクリームと一緒にどうぞ。」
心を尽くし、手を尽くす
ワインだけでは見えてこなかった側面が、料理と合わせることで照らし出されてくるように、ソムリエのナビゲートによって開かれる扉もあります。ワインが注がれる度に、ソムリエの浅田資継さんから繰り出される丁寧なテイスティングコメントが気付かせてくれたアロマや味わいは少なくありません。お客様一人ひとりに寄り添うように語りかける姿も印象的でした。「これがアンダーズスタイルなんですよ」と浅田さん。
向き合う相手にどこまで心を尽くして手を尽くせるのか――今回のコラボレーションは、相手に寄り添うことで開かれる地平の広がりを見せてくれたように思います。
|
ストップ!未成年飲酒・飲酒運転
「日本発ガストロノミー×サントリー日本ワイン」イベントレポート ───────────────────
シェフ&ソムリエが訪ねる登美の丘ワイナリー ────────────────────────────