「栽培」と「醸造」から紐解く日本ワイン Vol.3
オンリストの手引き編
2015.12.25
日本ワインがラインナップに入っていると、とてもユースフルです。
日本語のラベルだからワイン初心者にも親しみやすい。ワイン通には産地やつくり手の説明を添えれば、より興味を持ってもらえます。外国からのお客様であれば、日本を知ってもらう格好のアイテムとなるでしょう。
とはいえ、何を選べばよいかわからない――という悩みを持つケースも多いのでは?
そこで、日本ワインを上手にリストに加えるには、何をポイントに選べばよいか、「コンラッド 東京」森覚ヘッドソムリエにお話しいただきました。
text by Kei Sasaki / photographs by Tsunenori Yamashita
4つのWを考える――いつ(when)、どこで(where)、誰に(who)、何を(what)売るのか。
「ワインリストの作成についてお話しする時、私は日本人なら誰もが知っている昔話『桃太郎』の話をします。『昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました……』。この短い冒頭の文章では、いつ(when)、どこで(where)、誰が(who)、何を(what)という4つのWが端的に語られています。リスト作成時にもこの4つのWについて考えることはとても重要です。
確かに日本ワインへの注目は高まっていますが、『人気だから』『おいしいから』使うのでは、店側の提案としては説得力に欠けます。リストに並べて、お客様にお薦めする以上は、そこにきちんとした理由が必要です。
その時、頭に置いていただきたいのが、いつ(when)、どこで(where)、誰に(who)、何を(what)売るのか、4つのWなのです」。
When――季節を意識すると、オンリストすべき日本ワインが見えてきます。
「まず、ワインを仕入れる時に大事なのは、“いつ売るか”をイメージすることです。
■POINT1 気温とワインの適温
時節の気候にふさわしいラインナップを
ジャパンプレミアム リースリング・フォルテのように、フレッシュで冷やしておいしいワインは、やはり春から夏に飲むのがいい。同じ白でも、登美の丘 甲州のような厚みや複雑さを持つワインは、少し涼しくなる秋にじっくり味わうと、その魅力をより深く感じられます。基本的に季節を選ばないものではあるけれど、よりおいしく感じさせてくれる気温や湿度といった気候条件があるのも事実で、そのような薦め方はより人の心をプッシュしてくれると言えるでしょう。日本にはせっかく四季があるのですから、気候を意識して選ぶとよいですね。
■POINT2 食材の旬とワインの相性
旬の食材とのマッチングを考えて揃える
食材の旬からその時期に売るべきワインを探るのも手です。春なら菜の花やホタルイカ、秋なら脂ののった秋刀魚に合うワインは何かを考える。甲州やマスカット・ベーリーAといった日本の固有品種が自然とイメージされてくることでしょうし、シャルドネでもより旬の食材に合うつくりのワインが見えてきます。
■POINT3 歳時記とワインの価格
贅沢したいシーズンには高価なワインも
味わい以外にもポイントはあります。たとえば登美のようなやや値の張るワインも、ボーナス後の財布の紐がゆるむ時期ならば、『飲んでみよう』と思う人は増えるかもしれません。 “いつだったら、開けてもらえるか”“いつ飲んでもらったらより印象づけられるか”、等々、“いつ”はワインリスト作成時の大事なキーワードです」
Where――店の性格によって、揃えるべき日本ワインは変わってきます。
「“どこで売るか”というのは、すなわち自分がどんな店で働いているのかを理解することです。
■POINT1 店とワインの相性・その1
料理ジャンルとのバランスを考える
海外のワインで考えるとわかりやすいかと思いますが、たとえば、シチリア料理店やカンパーニャ料理店なのに、ワインはピエモンテのネッビオーロ種が中心だとしたら、ちぐはぐですよね。そう考えれば、和食店であれば、当然、日本ワインが置かれていることが望ましい。より細かく対応させるのであれば、山菜やキノコなど山の食材がウリの店なら山梨や長野のワインが合うでしょうし、海鮮自慢の店ならば、海に近いワイナリーのワインが合わせやすいはずです。
■POINT2 店とワインの相性・その2
ワインの売り方&出方に合う選定を
また、リストの回転が早い店ならば、生産量や価格を考慮して、安定供給可能な銘柄を多めにオンリストするべきでしょう。品切れの度にリストを作り直していては作業が追い付きません。安定供給可能なボトルを優先的にリストに載せて、生産量が少なかったり、試験的に出してみようというワインはバイ・ザ・グラスで提供するといった取り入れ方も大切です。どんなタイプの店かで揃えるべきワインは変わってきます」
Who――お客様のタイプに合わせてワインを選びましょう。
「自分の店に来てくださるお客様の層を把握するのも、ソムリエやサービスマンの重要な仕事です。
■POINT1 客層とワインの相性・その1
客が何を喜ぶのかをイメージする
私が働いているコンラッド 東京には外国人のお客様も多く、彼らは日本ワインというだけで興味を抱きます。『日本でワインがつくられているのか!』という驚きに始まり、飲んで『予想以上においしい!』となれば、もう黙っていてもオーダーしてくださる(笑)。エチケットが和紙で、ワイン名が漢字で書かれていて、さらに富士山のイラストがあるなど、“和”や“日本”を連想させるボトルデザインならなお喜ばれます。
自分の店の客が求めるものは何かを考えると、どんなワインを置くべきかが見えてくるでしょう。
■POINT2 客層とワインの相性・その2
ビギナー向けワイン、マニア向けワイン
お客様の層に応じたワイン選びが功を奏するのは、外国人ゲストの場合に限ったことではありません。日本ワインビギナーのお客様が多い店ならば、スタンダードな甲州を薦めるところから始めたいし、コアな日本ワインファンが多い店ならば、コート・ド・ボーヌの高級ワインを思わせるようなシャルドネで驚かせるのも手です」
What――自分で選び、自分の言葉で薦めましょう。
「先の3つのWを踏まえてワインを選んだ上で“何を売るか”となった時に、初めて“自分が飲んでどう思うか”が必要になってきます。
■POINT1 選ぶのは自分・その1
自分の言葉で説明する
お客様にお薦めする際、『評論家や雑誌での評価が高かったから』というのでは説得力はありません。自分が飲んで『おいしいと思った』『この料理に合った』『今の時期にお薦めだと思った』となれば説得力が増します。情報を参考にしながらも自分で選び、実感をもとに自分の言葉で語ることが大切です。
■POINT2 選ぶのは自分・その2
味以外の要素も大切
日本にはフランスのようなワイン法がないので、エチケットが自由です。様々なデザインのラベルがありますから、お薦めする際の話題のひとつにもなるでしょう。つくり手のエピソードやストーリーも然りです。自分が惚れ込んだワインを、『だから飲んでいただきたい』と言えることが大事です。
■POINT3 日本ワインを置いて損なことはありません
日本に住んでいて日本で飲食業に携わっているのですから、日本ワインを知って損はありません。特に今は、リストに載せておけば黙っていても興味を示してくれます。この状況が続くように努力することが、私たちソムリエの務めだと思うのです」
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