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PEOPLE / 生産者・伴走者

大地からの声――10

自然農の尊さを改めて知る。共同組合 人田畑  船久保栄彦さん

2020.05.27

PEOPLE / LIFE INNOVATOR

連載:大地からの声

協同組合 人田畑(ひとたはた)は、新潟市とその近郊で環境に負荷をかけない農業を営む18組の農家の集まりです。それぞれが個人事業主として独自の販路を持ちながら、イベントや情報発信は一緒に行なう、ゆるやかなネットワークを築いています。「いつも通り、農家としての営みを続ける。それが尊いことだとわかった」と代表の船久保栄彦さんは語ります。



問1 現在の仕事の状況

つながりが太くなりました。

18組すべてが小さな農家です。飲食店、小売店、個人のお客様に直販しています。たとえば、南魚沼の「里山十帖」に毎週1回納品したり、新潟市の古民家レストラン「アルモニア」、古町にある「大福寿司」、他にもヴィーガン料理「マウンテングロサリー」などの飲食店や「万代シルバーホテル」、小売店では「ナチュレ片山」などに卸しています。

個々に事情は異なりますが、農家としての規模が小さかったり、飲食店比率がさほど高くないこともあって、農作物が行き場を失って困ったということはありませんでした。むしろ、オーガニックや自然農に興味を持つ人が増え、販売が伸びた印象があります。


東京・自由が丘「自然栽培の仲間たち」にも卸す。また福井の「マルカワ味噌」が仕込み用に人田畑の自然栽培米を使う。



取引き先の飲食店とは、思いが通い合い、互いに理解し合って作物を卸す卸される関係性なので、逆に「自分たちが営業自粛になって大丈夫ですか?」とこちらを心配してくださいました。お店のお客さんに僕たちをご紹介くださったり、テイクアウトやデリバリーという形で従来以上に僕たちの野菜を広く伝えてくださった。

また、通販でお米を購入されてきた東京のお客様からは、「スーパーに人が殺到して棚から商品が消えたりしたけれど、こうして生産者さんから直接買える関係を築いていたことがうれしい」と言われ、お米だけでなく、野菜や卵もご注文くださるようになった。
細いつながりが太くなっていくのを感じています。


問2 今、思うこと、考えていること

農家の営みを続けることの尊さ。

僕たちは自然農が好きでやっています。必要以上の人為を加えない自然農の感性を大事にしつつ、人間的・文化的な営みを大事にしたいから、愛情はしっかり加える、というスタンスです。

土の中にも家の中にも普通に微生物や細菌はいます。ウイルスと細菌は異なるものですが、僕たちにとって人間以外の生き物との共生は当たり前のこととして受け止めなければならない、という気持ちがあります。環境破壊、多様性の喪失といったことが問題になってきて、それらの課題とどう向き合うのかを考えてきた延長に新型コロナウイルスはあるような気がするのです。

正直なところ、今回の事態が起きても、僕たちの仕事は何も変わらない。いつものように田畑を耕しています。いつも通り農家としての営みを続けています。と同時に、それは尊いことなんだと気付かされた。それがみんなにとっても大事なことなんだと気付かされた思いです。

農家同士の間で、これから国際間の流通はどうなるだろう、と話題になります。
たとえば、日本で生産される肥料の原材料はほとんどを輸入に頼っています。種も輸入品が少なくありません。国際間の物流が制限されるようになったら、農業が影響を受けることは間違いないでしょう。
自然栽培の農業は、市販の肥料を使わず、自分たちで種採りもします。メンバーとは、燃料が入ってこなくなったら、薪を燃やせばいいよねと話すのですが、小さな国土でも持続可能な農業のかたちです。これから先も僕たちは生産量も供給量も減らさずにやっていけるよね、と確認し合っています。


問3 シェフや食べ手に伝えたいこと

新しい生き方の力になれたら。

農業はハイリスク・ローリターンです。僕は新規就農者ですが、みなメンバーは楽しいから自然農をやっている。ただ、この営みの価値を広くわかってもらうには、あと20~30年かかるよねとみんなで語り合ってきました。今回の事態によって、そのタイミングが早まったんじゃないか、僕はそう捉えています。

自然農の価値を伝えるために、人田畑として体験イベントを開催してきましたが、今年はそれを中止しなければならないでしょう。むしろ、「今、確かな食べ物を求める人が増えているのに、ちゃんと渡せていないんじゃないか。僕たち、農家なのだから、まずは農業技術を高めよう。そこをちゃんとやらないとだめだよね」って、みんなで確認し合っています。

人田畑としては、農業を文化的活動として認識してほしいとの思いがある。自然農の意義を伝えることももちろんですが、人々に喜びをもたらしてはじめて文化的活動って言えるんじゃないかと思う。
そのためには、コロナが収束したら、この健全な農地、気持ちのいい田畑を使ってもらう活動をしていきたい。田畑を会場として、シェフを招いて食事会を開くといったことも考えたいですね。


モットーは「多様な生態環境を学び、復活させる」「愛情と栄養豊かな健康でおいしい食べ物をつくる」「田畑を人の輝くハレ舞台にする」



近年、高齢化した農家さんがリタイアして農地を手放そうとされるケースが増えました。慣行農法を自然農へ切り替えていく好機と思います。
新型コロナウイルスによって、社会構造は大きく変わる可能性があります。新しい時代の生き方を模索する人々が出てくるでしょう。農業に可能性を感じて、就農を目指す人がいるかもしれない。
僕たちは、小さいけれども協同組合という形態をとっている。そういった人々の力になれるかもしれません。今後の社会の動きに対して、小さいなりにダイナミックに対応できたらと思っています。

協同組合 人田畑メンバー
ふなくぼ農園、Farm Shida、たなか農園、上野農場、おおしま農縁、農園八兵衛、ひかり畑、ほしの農園、宮尾農園、越後とよさか山川農園、越後高橋農園、長谷川忠男、はらの農園、よへいろん、けんちゃん農場、川崎農園、自然農園 森の土、おくやま農園

協同組合 人田畑
https://oishii-niigata.com/





大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。




「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 今、思うこと、考えていること
問3 シェフや食べ手に伝えたいこと
























































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