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PEOPLE / 生産者・伴走者

大地からの声――34

同じあやまちを繰り返してはいけない。

熊本「もじょか堂」澤井健太郎さん

Sep 30, 2021

text by Sawako Kimijima / photographs by Mojocado,KARATACHI,Studio Vegan

折しも映画『MINAMATA-ミナマタ-』が公開され、注目が集まる熊本県水俣市で、「みなまたオーガニックマーケット もじょか堂」を営む澤井健太郎さん。地元の小さな生産者による野菜、調味料、米、茶、海産物などを扱い、自らも日本ではまだ珍しいべーコン種、ピンカートン種のアボカドや、パッションフルーツの栽培を手掛けています。大切にするのは、条件の悪い傾斜や狭小農地で、環境負荷を少なく土地の特性を活かした農業に励む生産者の生き方、そして、人類の記憶と歴史に刻まれる事件が起きた土地だからこそ伝えられることがあるとの信念です。

問1 現在の状況
自然災害に労力や意識を奪われる。

人口の多くない地方に住んでいるせいか、TVや新聞で報道される東京や大阪のコロナ禍がどこか他所の出来事に感じられていた気がします。熊本はここ数年、立て続けに地震や豪雨などの自然災害に見舞われ、特に昨年は7月3~4日の記録的な熊本豪雨があり、今年も8月11日からの大雨による被害が甚大でした。コロナにもまして自然災害に労力や意識を奪われている感があります。

コロナ第一波の緊急事態宣言下では、野菜セットの配送スパンを自由に指定できるように変えるなどユーザーが購入しやすい対応を心掛けた。

2020年の台風10号の被害を危うく逃れた野菜を特価販売。「がんたれ」とは、水俣の方言で、頑固者・不出来・不恰好の意味。

今年の豪雨の影響は、昨年以上に長引きそうな気配です。というのも、降ったのがちょうど秋作に向けた土づくりの時期に当たっていたので、秋作の準備が遅れてしまったのです。
たとえば、県北の菊池市の地理的表示産品に「菊池水田ごぼう」があります。稲刈り後の水田で育てるゴボウで、名水地・菊池水源の水に30分以上さらして出荷される。アクがなくておいしいと評判なのですが、この菊池水田ごぼうは9月10日までに植えないと、気温や日数などの条件的に身太りしなくなってしまう。そのデッドラインに植え付けがあわや間に合わないという事態に陥りました。
豪雨の影響はいろんな形で、先々まで長期間に渡って及びます。


問2 コロナで気付かされたこと、考えたこと
澄み渡った空が続けばいいのに。

昨年の感染拡大初期、世界中でロックダウンが相次いだ後、「空がきれいになった」という報道がありましたよね。中国で大気汚染の原因となる二酸化窒素が大幅に削減したことを示すNASAの衛星写真も発表されました。
それって、僕自身が実感したことです。九州は大陸に近く、黄砂やPM2.5に覆われやすい。いつしか常態化している感覚もあります。ところが、最初の緊急事態宣言時、驚くほど空が澄み渡っていました。「このまま世界の構造が変わってしまえばいいのに」。どれほどそう願ったことでしょう。結局、ほんの数カ月で元に戻ってしまった。あの空の青は忘れ難いですね。

報道写真家のユージン・スミスが水俣病の問題と向き合う姿を描いた映画『MINAMATA-ミナマタ-』(ジョニー・デップ製作・主演)の全国公開に先駆けて、2021年9月18日、水俣市でプレミア上映会が開かれました。地元の商店や飲食店、お寺や銭湯、病院など、僕たち市民も協力しています。水俣の人間は「同じあやまちを繰り返してはいけない」ことを伝えていく使命があると考えている。そのメッセージは当事者だからこそ説得力を持つと信じています。
ここで起こったことを知ってもらえる切り口のひとつとして、多くの人々にこの映画を観てほしい。そして、今現在の水俣の美しい自然やここで生きる温かい人々にも触れてほしいと願っています。

水俣市でのプレミア上映会に関わったメンバーたちが作ったTシャツ。

水俣の生産者には、ケミカルに頼らない、環境に負荷をかけないものづくりをやっていこうという人が多い。僕はそれを「みなまたオーガニック」と呼んでいます。
たとえば、農薬を使わない柑橘類の栽培と販売をする「からたち」さん。水俣病事件で海を捨てざるを得なかった漁師たちの甘夏栽培がルーツです。当時、農協主導による農薬散布が定着していたのに対し、彼らは農薬を拒否した。「被害者が加害者にならない」との決意から「反農連(反農薬水俣袋地区生産者連合)」を結成して、農薬を使わない甘夏の自主販売に取り組んだのでした。彼らの志を継ぐ形で大澤基夫さんが立ち上げたのが「からたち」。無農薬で栽培する生産者の柑橘を全量買い取るという姿勢を貫いています。

「からたち」では柑橘のジュースやジャムも販売する。

うちが今、お付き合いのある生産者さんは年間通して100軒ほど。季節によって顔ぶれは変わります。年配の方も多いので、収穫が近づくと電話したり、訪ねて行って「そろそろどうですか?」、そんなやりとりを重ねてきました。

彼らが農業を続けられるようにすることが、僕の仕事です。先日、ある農家さんが「今、市場では野菜が安いから」と市場と同じ価格をうちに提示してきました。とても農業をやっていけない値段です。僕は伝えました、「いやそれはだめですよ、農業が続けられる価格で買い取らせてください。続けてもらわないと、みんなが困りますから」。一軒の農家が生産をやめれば、耕作放棄地が増える。イノシシや鹿が出没して、隣の畑にまで被害が出る。生産をやめる人が増え、荒地が増えることにもなるでしょう。僕は、市場動向や市場価格に流されまいと決めています。市場も底値を割らないように最低価格を決めたほうがいいのになと思うのです。

茨城県つくば市で久松農園を営む久松達央さんの著書に『小さくて強い農業をつくる』という本がありますが、僕の場合、小さくて強い流通が目指す姿です。生産者ファーストで、小回りが利く流通。
このあたりは小さな農家が多いんです。有機JASの申請など、うちでできることはやろうと思う。もちろん管理と記録は生産者自身が行わなければならず、講習を受けてもらう必要はあるのですが、申請書類を書いたり、費用を負担したり、できることはうちがとりまとめてできたらいい。そうして「みなまたオーガニック」を打ち出していけば、安定した価格で販売していけるのではないか、と構想しています。


問3 これからの食のあり方について望むこと
農業が楽しいと思える地域にしたい。

地方や農業に興味を持つ若い人が増えていますよね。彼らが来たいと思ってくれるような、農業を楽しいと思ってもらえるような地域になりたいと思っています。2カ月に一度、水俣市の西念寺で開かれる「お寺で朝市」に積極的に関わるのも、そんな気持ちが根底にあるからかもしれません。

「お寺で朝市」は、国境や宗教や世代を超えて囲める食卓を目指す「スタジオビーガン」の吉村純さん・智美さん夫妻が主催しています。お寺の数って実はコンビニの数より多いんですね。お寺がもっといろんな人が気軽に足を運ぶ場所になったらいい、地球(terra)や環境について考えるきっかけになったらいい、手仕事の大切さを拡げたい、貨幣経済に代わる経済を模索したいなど、朝市に込める思いはたくさん。農家さん、コーヒー屋さん、お茶屋さん、それぞれに自分の生産物を販売したり、味噌汁や茶粥をふるまったり。種の交換会を行なう中学生もいます。彼は自家採取用の農園を持っているんです。飼っている鶏を連れてきたこともあります。大人も負けていられません。

「お寺で朝市」を主催する「スタジオビーガン」の吉村さんは“terra communication”を提唱する。 

自家採取する風季農園の風季君は、苗や種を販売。丁寧な解説付き。

丁寧に袋詰めされた種。文字通り、未来への種まきだ。

水俣の杉山が今、伐採のタイミングを迎えているのですが、切った後、植林されずにはげ山になり、さらに最近はソーラーパネルを設置するために自然に手をつけています。また、風力発電事業のプランもあって、風車建設が予定されています。
脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの推進は、地球上の人類すべてのミッションです。そのことはよく理解しています。ただ、豪雨災害が多いこの土地で、山にソーラーパネルや風車がそびえ立つ光景を想像すると恐くなる。山間地の農地に何か影響が出るのではないかと心配なのです。

映画『もののけ姫』の中で主人公のアシタカは、「森とタタラ場、双方生きる道はないのか?」と問います。自然と人間が共存する方法はないのかとの問いです。僕の頭の中にはアシタカのこの言葉が、「同じあやまちを繰り返してはいけない」という思いと共に渦巻いています。
大人は下を向かず、子どもに希望を見せたい。先人たちもいろんな局面で同じ思いをし、行動してくれたことで現状がある。同じように、子どもたちに明るい未来を残すために僕らができることは、考えを止めず汗をかき続けることだと思っています。

「スタジオビーガン」の吉村さんたちは、風力発電建設予定地の一つ、大関山の調査に同行した。

澤井健太郎(さわい・けんたろう)
1979年、熊本県水俣市生まれ。大学進学後、ニュージーランドへの語学留学などを経て、海外青年協力隊を希望するも叶わず、水俣へ。4羽の養鶏をきっかけとして、2007年、食のセレクトショップ「みなまたオーガニックマーケット もじょか堂」をスタート。“つくる、つなげる、つみあげる”をモットーに、作り手のもとへ足を運び、彼らの思いと仕事を受け止めて食べ手へつなぐ。

◎みなまたオーガニックマーケット もじょか堂
熊本県水俣市大園町1-3-6
☎0966-83-5004
9:00~17:30(土曜・祝日~17:00)
日曜休


大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。

「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 新型コロナウイルスによって気付かされたこと、考えたこと
問3 これからの私たちの食生活、農林水産業、食材の生産活動に望むことや目指すこと

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