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RECIPE

時間が生み出すもっちり食感「こねないバゲット」

【DIYレシピ35】「ビーバーブレッド」割田健一さん

2024.10.03

photographs by Hide Urabe

連載:DIYレシピ

塩蔵、乾燥、発酵・・・調理メソッド&テクニックを身に着けて、普段買っている食べ物を一から作ってみると、自分で味を作る喜びや安心感を得られます。シンプルな材料と道具で作れる自家製アイテムをシェフに教わります。今回は、長時間寝かせて作る「こねないバゲット」。皮はパリッと、中はしっとりもっちりした食感に仕上げるポイントが満載です。

目次






教えてくれた人:東京・東日本橋「ビーバーブレッド」割田健一さん

教えてくれた人:東京・東日本橋「ビーバーブレッド」割田健一さん
「ビゴの店」「ブーランジェリー レカン」を経て、2017年、東日本橋に現店をオープン。22年に同エリアにカフェ・ビストロ「bouquet」を、23年には虎ノ門ヒルズに「BEAVER BREAD BROTHERS」をオープン。昼はベーカリーとして、夜はパンと一品料理をお酒と共に楽しめるバースタイルで営業。各地でパン教室、講習会講師も務める。

力はかけず、時間をかけて、生地をつなげる

バゲットに限らず、パン生地のこね具合や状態を見極めるのは難しいですよね。パン教室で教える時も、同じレシピで作っても作る人によって出来上がりが違う。パン作りの面白さでもありますが、いっそ、「こねない」という選択肢もありますよ。

「こねないバゲット」は、塩水に粉を加えてよく混ぜるだけ。基本的に、パンは粉と水を合わせてこねることでグルテンを形成し、伸びやかで、弾力のある生地になります。こねないパンの場合は、14〜16時間という長時間をかけてゆっくりグルテンを形成し、生地をつなげます。一次発酵後、ゆるゆるの軟らかい生地ができます。

大切なのは、粉と水の合わせ方。粉の一粒一粒にしっかり水を吸わせるイメージで、やさしく混ぜ合わせます。こうして粉粒と水が出合うことで、こねずともグルテンが形成され、パン生地になるのです。

同じ配合でこねて作ったバゲットと比べてみると、生地の伸び方はもちろん、火の入り方も、味も変わる。こねないパンは、もっちりして、歯切れのよい食感。長時間発酵によって特徴のある甘味、旨味が増し、食べ応えのあるパンになりますよ。

バゲットは小麦粉、塩、イースト、水で作るシンプルなパン。粉の特徴がストレートに出るので、数種類の粉をブレンドし、風味や食感の変化を楽しんでもいいですね。

こねる生地、こねない生地はどう違う?

同じ粉、配合で、(左)こねた生地と(右)こねない生地を作り、同じ分量で成形し、同じ温度でバゲットを焼いた。こねた方は、棒状に成形する時に生地が伸び、こねない生地より長くなった。

(左)こねた生地は、クープが開いてエッジが立っている(34cm/210g)。(右)こねない生地は、こねた生地に比べると外側がゴツゴツしている。(28cm/217g)。
(左)こねた生地は上に膨らみ香ばしく焼けている。(右)こねない生地はべったり横に広がっている。
(左)こねた生地は大きな気泡が全体に入っている。(右)こねない生地は黄色っぽく、しっとり、もっちりしている。

こねないバゲットの極意


1 “時間”でグルテンを形成させる
2 粉の一粒一粒に水を吸わせる
3 ゴールの形を考えて分割、成形

「こねないバゲット」材料と作り方

[材料](約6本分)
はるきらり・・・300g
10P09・・・330g
T85・・・70g
湘南小麦・・・100g
キタノカオリ100・・・200g
セミドライイースト・・・1g
藻塩(海人の藻塩)・・・10g
塩(石垣の塩)・・・10g
水・・・830g
打ち粉・・・適量

<材料のポイント1>
粉の風味を楽しむ

バゲットは材料がシンプルなだけに、粉の特徴が味に出るという。割田シェフは全粒粉を加えて香ばしさを出すなど、数種類の粉をブレンドして使い、配合の妙による複雑な味わいを表現する。国産小麦を中心に使用。

<材料のポイント2>
藻塩で硬水に近づける

バゲット作りには硬水が理想的と言われるが、日本の水は軟水。割田シェフは、藻塩がマグネシウムなどミネラル豊富であることに着眼し、それを使って、硬水の成分に近づけている。水と違い、開封しても劣化しないことも利点。

[作り方]
[1]混ぜる前に混ぜておく

ボウルに粉とイーストを入れてよく混ぜる。別の大きなボウルに水、塩を入れて塩水を作る。【POINT】材料が均等に混ざるように、あらかじめホイッパーを使ってそれぞれをよく混ぜておく。

[2]混ぜる:一粒一粒に水を吸わせる

塩水のボウルに粉類を一気に入れる。真ん中に手を入れてゆっくり、やさしく混ぜ合わせる。粉気がなくなったら別のボウルに移す(こね上げ温度23℃)。【POINT】粉に水分を加えるより、ダマになりづらい。ゆっくり混ぜ、小麦粉の一粒一粒にしっかり水を吸わせる(水和させる)。移しかえて、混ぜ残しがないか確認する。

[3]一次発酵(15℃/14~16時間):時間でグルテンを形成させる

ラップをかけ、15℃の環境に14~16 時間おいてゆっくり発酵させる。【POINT】小麦に含まれるタンパク質と水が合わさり、こねずとも、時間をかけることでグルテンが形成される。

[4]一次発酵:表面の変化を見極める

生地の表面が山なりになり、表面にプクッと気泡が出たら、一次発酵完了の目安。過発酵にならないよう温度、時間に注意する。【POINT】グルテンが薄い膜を形成し、イーストが発生させた炭酸ガスの気泡を取り囲んで広がり、生地が膨らんでいる。長時間発酵で生地が熟成し、旨味、風味も増している。

[5]分割:多めの打ち粉で扱いやすくする

表面に打ち粉をし、カードでボウルから生地を剥がし、ボウルを傾けて台に取りだす。表面にも打ち粉をする。【POINT】高加水、たゆたゆの生地は、こねてできるのとは違う、軟らかなグルテンでつながっている。生地をつぶさないよう打ち粉を多めにして、そっと扱う。

[6]分割:引っ張らず、寄せて整える

生地を270gずつに分割する。両手で生地を縦方向に寄せて四角形を作り、手前から奥へ丸める。滑らかな面を上、とじ目を下にして俵形に整える。【POINT】分割した生地を四角形に整えようと引っ張ると生地がダレる。両手で生地を寄せて形を整えるとよい。

[7]ベンチタイム(25℃/45分):休ませて扱いやすい生地に


打ち粉をした容器に間隔をあけて生地を並べ、蓋をして25℃の環境で45分程度休ませる。【POINT】分割後の生地はグルテンが出て締まっている。休ませると生地が緩み、成形しやすくなる。乾燥すると生地が伸びにくくなるので、ボウル、布などで覆う。

[8]成形:“折り”で生地に力を入れる

打ち粉をした台に生地を取り出し、両手で生地を縦長に寄せ、手前から奥へ折りたたむ。向きを変えて繰り返す。

とじ目を上にして、奥から手前に折りたたむ。

とじ目部分を指で軽く押さえてガスを抜く。

奥から手前へ折りたたんで俵形にし、手の腹の部分で端から押さえてガスを抜く。

両手で転がして22~23cmの棒状に伸ばす。

両端を指でつまんでとじる。【POINT】折り込むことで生地を刺激し、弾力&コシのある生地にする。大きな気泡をつぶして小さくし、生地に分散させ、きめ細かいパンに。

[9]二次発酵(27℃/45分):クープのためにとじ目を上に

バゲット形に折ったキャンバスシートにとじ目を上におき、27℃の環境で45分発酵させる。【POINT】窯入れの時に上下を返して焼くので、ク̶プを入れる滑らかな面が下になるようにおいて発酵させる。キャンバス布はディッシュタオルなどで代用できる。

[10]二次発酵:表面の変化を見極める

生地が膨らみ、表面が適度に乾いてハリが出たら発酵完了。天板に上下を返して、間隔をあけて並べ、真ん中に粉をふる。【POINT】とじ目の割れ目から、うるっと艶やかな生地が見えるのが目安。発酵後の生地は軟らかいので、薄い板などにとってから天板に並べるとよい。

[11]クープ:ためらわず一気に刃を入れる

クープ用のナイフ(カミソリでも可)で、生地の端から一直線にクープを入れる。【POINT】表面が乾いてできた皮一枚を切るイメージで、ためらわず一気に刃を入れる。途中で止めるとひっかかり、きれいに切りこみを入れられない。

[12]焼成(上250℃・下210℃/26分):位置を変えて焼きムラを調整

上火250℃、下火210℃のオーブンで26分焼く。【POINT】オーブンの庫内に温度差があるので、途中で向き、場所を入れ替えて、焼きムラを防ぐ。下火の力で一気に生地を立ち上げて焼くため、熱伝導のよい鉄板を天板に重ねて使うとよい。

こねない生地で作ったバゲットは、皮はバリッと焼け、歯切れもよい。丸く成形すればサンドイッチにも。写真はクリームチーズ、ツナ、パクチーを混ぜたペーストとレタス、トマトをサンド。上から斜めに切れ込みを入れると具材がおいしそうに見える。


東京・東日本橋「ビーバーブレッド」の店舗情報


◎BEAVER BREAD
東京都中央区東日本橋3-4-3
☎ 03-6661-7145
8:00~19:00(土、日曜、祝日~18:00)
月、火曜休
都営線東日本橋駅より徒歩2分
Instagram:@beaver.bread

※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2020年3月号掲載)

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