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JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】漬け替えて深まる色と味「奈良漬」

埼玉・浦和「酒井甚四郎商店」

2024.10.24

text by Yoko Koike / photographs by Oya Sohei

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。明治初期創業以来の製法を貫く「酒井甚四郎商店」の奈良漬けの特徴は、4回もの漬け替え工程を経た深い旨味と熟成香です。

漬け上がりの深いべっ甲色は奈良漬ならでは。香りだけでも炊きたてごはんや日本酒が恋しくなる。
左から反時計回りに1年物、2年物、3年物の酒粕。状態を見極めてブレンドし漬け床を調える。
3度目の漬け上がり。
漬け込みは手作業で行う。
発酵中の漬け床。常温熟成のため、気候の影響も受けやすい。

漬け替えて深まる色と味

平城京跡地で発掘された木簡にはすでに存在が記され、江戸時代、奈良の平漢方医によってその名と共に広く普及したとされる奈良漬。要は酒粕漬けなのだが、これが実に手間暇かけて造られる。

埼玉県浦和にある「酒井甚四郎商店」は、明治初期創業以来の製法を貫く奈良漬専門店。原料は塩、酒粕、砂糖のみ。まず、ウリやナス、ショウガなど収穫したての野菜を、生産者が半割りにし、種を取り除くなどして9カ月以上塩漬けにする。同店はこの状態で仕入れ、熟成させ砂糖を加えた酒粕の漬け床に半年程漬けるのだが、完成までには4回も漬け替えるという。

「最初は塩抜きが目的、次は色をつけ、3番目は味わいをのせ、最後で吟醸の風味に仕上げます」と5代目の酒井甚治さん。

「漬け床の配合もそれぞれ違います」。酒粕は首都圏の酒蔵5社から買い取り、風味、色、硬さの異なる1年物から3年物までをブレンドし、砂糖の配合も微調整しながら漬け床を仕込む。「レシピはありません。先代から目と舌で盗めと言われて覚えた感覚が頼りです」 。

伝統を継承する一方、クリームチーズと刻み奈良漬を組み合わせた「チーな」など現代の食卓に受け入れられやすい商品の開発にも力を注ぐ。「まず食べてもらいたいですね」。この深い旨味と熟成香は、若い世代の呑兵衛も魅了するはずだ。

定番の「きざみ奈良漬」、もろみ醤油味噌入りで柔らかい風味の「浦和漬」他、キムチ風味の「野菜香辛曲」(全て475円/190g ※2024年11月1日より¥540/180gに改定)、「酒井のチーな」880円も人気。一枚一枚手切りし、全工程を手作業で。


◎酒井甚四郎商店
埼玉県さいたま市浦和区仲町2-4-23
☎048-822-2110
https://sakaijinshiro.com

(雑誌『料理通信』2019年10月号掲載)

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