77歳。「畑もあるし、野菜作ってるなら『お好み焼き屋』でもやろかなって」
生涯現役|広島・安芸太田町「星の郷 あまんど」増田初美
2025.01.16
text by Kasumi Matsuoka / photographs by Hiroshi Kikui
連載:生涯現役シリーズ
世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。
増田初美(ますだ・はつみ)
御歳77歳 1948年(昭和23年)2月20日生まれ
広島県安芸太田町生まれ。学校を出た後、広島市内の電気屋に就職。その後、同市内で34歳から19年間、喫茶店兼カラオケスナックを切り盛りする。両親が他界したのを機に、安芸太田町に戻り、築150年を超える実家を改装して「星の郷 あまんど」を開業。カラオケの十八番は、美空ひばり、天童よしみなどの演歌。趣味は畑仕事。店の隣にある2アール(200平方メートル)の畑も一人で管理している。
(写真)お好み焼きを作る増田さん。注文が入ると、目の前の鉄板で焼いてくれる。見事なコテさばきについて触れると「何事も“慣れ”やねえ〜」とにっこり。明るく人情溢れる人柄を慕って店を訪れる客も多い。店にはカラオケスナック時代の名残で、カラオケ設備も完備している。
愛想笑いじゃなしに
相手が心から笑ってくれるような言い方を努力する
うちのお好み焼きは、キャベツがたっぷり。店の隣にある畑で、種から育てた自家製キャベツがたくさん入っとるから、具沢山じゃけど、あまり重くないんよ。お好み焼きは全部で5種類ある中で、9割以上のお客さんが頼むのが、そば入りの広島焼きだね。薄い生地の下に、野菜と焼きそばを重ねた食べ応えのあるお好み焼きで、年代問わずよく出るよ。ソースはもちろん、広島の「オタフクソース」で決まり。
お好み焼きと並んでよく出るのが「漬物焼きそば」じゃけど、焼きそばにはソースにケチャップなんかも混ぜて、べったりしない軽めの口当たりになるように仕上げとる。焼きそばに使う漬物も全部自家製で、畑でとれる季節の野菜の浅漬けを使うとるの。冬場は白菜、大根、夏場はきゅうりの浅漬けが多いかな。
この辺りは昔から雪がよう降る土地で、特に冬場は生鮮食品が手に入りづらかったみたいでね。じゃけえ、野菜を保存するために漬物を作るんやけど、冬場は漬物も寒さで凍ってしまうけん、焼いて食べるようになったみたい。漬物焼きそばは、そんなところがルーツでできたご当地グルメやね。
この店は、私が生まれ育った実家を改装して25年前に作ったんよ。それまでは広島市内でカラオケスナックをやりよったんやけど、両親が他界したのをきっかけに戻ってきてね。最初は喫茶店でもやろうかなと思うとったんやけど、そのころちょうど、水道設備をやりかえないといけなくなったりして、「それやったらいっそ、お好み焼き屋でもやろうかな」と。畑もあるし、せっかく野菜も作ってるなら、ちょうど良いかなって、そんな成り行きで始めたわけよ。気づいたら25年も経っとるけん、あっという間やね。
普段は朝5時半に起きてコーヒーを飲んで、10時まで畑仕事。その後下準備しよったら、あっという間に開店時間。昼は夕方4時ぐらいに、味見を兼ねてお好み焼きとか焼きそばを食べたり。夜寝るのは9〜10時ぐらいかな。今は週に2回休みがあるけど、半日は買い出しに使って、他は大体畑におる。土いじりが好きなんよ。キャベツに始まって、白菜、大根、人参、ねぎ、レタス、水菜、ジャガイモ、里芋・・・、季節によってたくさん作っとるよ。畑にいる時間は無心になれるけん、あっという間に時間が経つ。
やってて良かったなと思う時? そりゃお客さんから「おいしい」って言われた時やね。遠くから来た人が、「また来るね〜」と帰って行って、本当にまた来てくれたりすると、すごく嬉しい。遠方やと、青森や栃木、九州から来てくれる人もおるよ。最近はスマホを見て、海外の人も結構来てくれるからびっくりよ。こんなところに、世界の人が来てくれるなんて本当にありがたいと思うわ。店をやりよったら、どっか行きたいなと思ってもなかなか行けんけど、いろんなところから人が来てくれるのは店をやってるおかげやね。
私のモットーは、相手が心から笑ってくれるような言い方を努力すること。誰かが私の
一言で気分壊したりしたら台無しになるから、そういうことがないように努力しよる。
愛想笑いじゃなしに、本当に笑ってくれたら嬉しいよね。毎朝起きたら「今日も一度は
畑に行って、土と野菜と草とお話ししよう」って思うとるけど、そうやって人に気を遣
うこともありながら、畑で過ごす時間も両方あることで、バランスが取れとるんかもし
れんね。
安芸太田町はね、人情の町。誰に対しても優しい人が多い。景色も良いし、ええところよ。「星の郷」って名前は、空気が澄んで、星が綺麗に見える場所やから付けた名前やけんね。星空を見たら、「ああ、こんなとこおって良かったな」って思うよ。
はい、そば入りのお好み焼き。火傷せんように気をつけて、たくさん食べてね。
毎日続けているもの「お好み焼」
◎星の郷 あまんど
広島県山県郡安芸太田町上筒賀878
☎0826-32-2280、☎090-5700-1999
11:00~14:00、17:00~19:00
※12月〜2月は11:00〜19:00
月曜、火曜休
石見交通バス「筒賀PA」停留所より徒歩20分
■ご意見・情報はメールで(info@r-tsushin.com)
(料理通信)
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