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RECIPE

口の中でふわっとほどける。季節を映す「稲荷ずし」

プラントベースの始め方50

2025.05.26

口の中でふわっとほどける。季節を映す「稲荷ずし」

photographs by Masahiro Goda

連載:プラントベースの始め方

健康や環境への配慮から、植物性の食材を主体とする“プラントベース(Plant Based)”な食事法が注目されています。肉や魚や乳製品に頼らずとも「おいしい」料理を作る知恵は、世界各地に存在します。身近なレシピからおいしくプラントベースを始めるヒントを紹介します。

目次






教えてくれた人:東京・青山「てのしま」林亮平さん

東京・青山「てのしま」林亮平さん

香川県丸亀市生まれ、岡山県玉野市育ち。大学卒業と同時に料理の道を志し、京都の料亭「菊乃井」で修業。本店副料理長や渉外料理長の要職を務めた後、独立。2018年3月に東京・青山に「てのしま」をオープン。自身のルーツである瀬戸内海の手島(香川県丸亀市)に店を開くビジョンを見据え、いりこをベースとした本質的な和食文化の伝承にも力を注ぐ。


だしも手間も不要。味のバランスが命!

いつも、コースの最後にすしをお出ししています。棒ずしと稲荷ずしを並べて、故郷の瀬戸内海の島々に見立てて。三角稲荷が、島みたいでしょう。みなさん、稲荷ずしがお好きですよね。馴染のあるものだからこそ、おいしさを捉えやすい。いつものと違うなって、わかるんです。

稲荷ずしに重要なのは、味のバランス。揚げと酢飯と具と、どれも単体だと「物足りないな」と思う味に仕立てる。全てを一緒に口に入れて初めて味が完成するんですね。揚げが甘いから、酢飯は甘さを抑える。具も、例えばトウモロコシのように、甘さがその素材の魅力になっているものは合いません。ショウガなどを酢漬けにして混ぜる時は、甘酢ではなく塩と酢だけで漬けます。それから、香りのあるものをアクセントに選ぶこと。ユズやスダチなどの柑橘類は使いやすいですね。和にこだわらず、クミンや花椒、パルミジャーノチーズなどの香りものを使ってみてもおいしいです。

揚げをきれいに並べて煮るとか、弱火でコトコトとか、気にする必要はありません。油揚げは煮崩れませんから(笑)。強火で一気に炊いてください。細かいことにとらわれて、面倒くさい、難しいと思っているならそれが一番もったいない。具も、家ならレンジでチンして塩するだけでいい。むしろ、だしで煮るよりも素材の味や香りが引き立ちます。気構えずに、まずは挑戦してみてください。


◆てのしまの稲荷ずし暦

<春> わらび、蕗とふきのとう、桜海老と新生姜、木の芽と筍
<夏> しらすと大葉、新蓮根と枝豆とクミン、鱧と胡瓜の雷干し、柴漬け
<秋> 焼き茸とすだち、胡桃とりんご、ピーナッツと花椒、山牛蒡と豚肉と生胡椒
<冬> くわい、柚子とかぶら、すぐきとパルミジャーノ、塩鰤と金柑

◆おいしい稲荷ずしの3か条


1.ご飯は硬く炊く
2.甘い具は避ける。香りのある具を選ぶ
3.揚げも酢飯も具も「物足りない味」に仕上げる

「基本の稲荷ずし」の材料と作り方

[材料](20個分)
<揚げ>
油揚げ・・・10枚
水・・・1000ml
酒・・・100ml
淡口醤油・・・35g
濃口醤油・・・10g
砂糖(粗糖)・・・70g

東京・池袋の「大桃豆腐」の油揚げ

油揚げは東京・池袋の「大桃豆腐」のもので、通常のいなり揚げよりも小さい特注サイズ。市販の長方形の油揚げを使う場合は、長辺を半分に切って俵型に包むと作りやすい。

<酢飯>
米・・・2合
水・・・280ml
A 米酢・・・60ml
  砂糖・・・24g
  塩・・・9g

酢飯の材料

すし酢は揚げが甘い分、甘さを抑えた配合。酢は2種類混ぜるとより複雑な味わいになる。店ではメーカーの異なる2種類の米酢をブレンド。米酢にリンゴ酢や黒酢を混ぜてもよい。

<具材>
ゴボウ・・・80g
金時ニンジン・・・60g
塩・・・適量
ユズの皮・・・1/3個分
ゴマ・・・大さじ1
麻の実・・・少量

[作り方]
[1]揚げを切る

[1]揚げを切る

油揚げを斜め半分に切り、袋状に開く。【POINT】開きにくい場合は断面に切り込みを入れてから。最近の油揚げは簡単に開くものが多い。

[2]油を抜く

[2]油を抜く

強火で沸かしたたっぷりの湯(分量外)に入れ、箸などで沈めて湯通しする。すぐザルにあげる。【POINT】好みで油抜きしなくてもOK。

[3]強火で煮る

[3]強火で煮る

油揚げを鍋に戻し、分量の水と調味料を全て入れて落し蓋をし、12~13分強火で煮る。【POINT】煮汁が揚げの半分程度になればよい。

[4]一晩置く

[4]一晩置く

触れるくらい冷めたら、油揚げを広げてバットに並べる。煮汁をかけてキッチンペーパーを密着させ、一晩置く。

[5]具材を用意する

[5]具材を用意する

ゴボウは細い笹がきに、金時人参は6~7㎜角に切って、それぞれ蒸すか電子レンジで加熱し、塩適量を振る。ユズの皮は白いワタを除き3㎜角に刻む。【POINT】具材は食感を活かすよう大き目の角切りや笹がきに。

[6]米を炊く
研いだ米をザルに上げ、30分~1時間水を切る。分量の水と共に土鍋に入れ、強火で10分、沸いたら弱火で10分、火を止めて10分蒸らす。【POINT】少ない水で炊く。

[7]すし酢を混ぜる

[7]すし酢を混ぜる

飯台に出してすぐに、よく混ぜ合わせたを加え、下から返すようにして全体にダマがなくなるまで混ぜる。飯台がない場合は浅く広いバットなどを使う。

[8]冷めたら具を混ぜる
酢飯が冷めたらの具材と、ゴマ、麻の実を加え、米を潰さないようにさっくりと混ぜる。麻の実は、稲荷ずし1個につき2~3粒が理想。

[9]酢飯を丸める

[9]酢飯を丸める

揚げの煮汁を付けた手で酢飯を20等分(1個約28g)し、手の中でポンポンと弾ませるように軽く丸める。ギュッと握らないこと。

[10]揚げを軽く絞る

[10]揚げを軽く絞る

揚げを両掌で挟み、軽く押さえて水気を切る。ぼたぼた垂れない程度になればよい。

[11]角まで詰める

[11]角まで詰める

揚げを開き、丸めた酢飯を入れて親指で優しく角を押し出す。指で空いた穴を均してから揚げの両角を折り込んで閉じる。

[14]完成!

[14]完成!
「基本の稲荷ずし」の断面

揚げは「甘辛い」印象はなく、控えめな味わい。粒が立った酢飯が口の中でふんわりほどける。


展開例:春の稲荷ずし~えんどう豆とレモン~

春の稲荷ずし~えんどう豆とレモン~

エンドウ豆はさやから出し、2~3%の塩をまぶしておく。温めた昆布だし適量にさやを入れて煮、香りが出たらさやを除いて豆を加え、柔らかくなるまで煮る。豆と煮汁を別々に冷まし、冷めたら豆を煮汁に浸けておく。レモンの皮1/2個分は白いワタを除き細かく刻む。汁気を切った豆80gと共に酢飯に混ぜる。

(雑誌『料理通信』2019年4月号掲載)

東京・青山「てのしま」の店舗情報


てのしま
東京都港区南青山1-3-21 1-55ビル2階
☎03-6316-2150
昼:水~土曜 12:00~
夜:月~土曜 18:00~20:00最終入店
東京メトロ青山一丁目駅より徒歩5分
https://www.tenoshima.com/

※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

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