【食のプロの台所】職住近接、楽しからずや。
「だいどこ道具ツチキリ」土切敬子
2025.08.12

text by Noriko Horikoshi / photographs by Tsunenori Yamashita
連載:食のプロの台所
台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。自宅であり、店でもある、土切敬子さんのキッチンを訪ねました。
土切敬子
東京・井の頭公園「だいどこ道具ツチキリ」店主。テキスタイルデザイナーとして活躍後、2017年5月に、自宅一部を改装して台所用品のセレクトショップをオープン。不定期でイベントも開催する。
(TOP写真)
商品の試用スペースを兼ねるキッチンは15年前に改装。今は商品となっている長年の愛用道具も、使い込まれた状態で並ぶ。経年を感じさせず、古びることのない美しさ。センスとメンテナンスの賜物にほかならない。
使い勝手に徹した目線を保つ
急行の止まらない私鉄駅から徒歩10分ほど。台所用品を探しにやって来るには、微妙な立地なのかもしれない。
「遠かったわよ、あなたッ!」
遠来の客から“泣き”が入ること、しきり。しかし、帰る頃には不満もすっかり消えている。炊事に覚えのある人ならば、唸らずにはおられない目利きの道具がずらり。しかも、間続きのキッチンで、商品の使い心地を試すこともできるというのだから。
「リビングだった部分を店に改装したので、ここが我が家の台所です。使い勝手本位の道具を紹介する以上、試していただける場所があるほうがいい。丸見えになってしまうけれど、割り切ればいいかな、と思って」
もっとも、家族はそう簡単に割り切れなかったらしい。土切さんも、居職(いじょく)のご主人も揃って料理好きだが、営業時間中、とりわけ来客中は自慢の腕も封印しがちに。「そのぶん、休みの日は思いっきり。あ、でも匂いがこもるから、魚はあまり焼かなくなっちゃいましたね(笑)」
話している間にも1人、また1人と客足が途切れない。「子どもがすくいやすいスープ皿を探していて・・・」「高齢の親でも使いやすい、うっすい下敷きみたいなまな板、あります?」
暮らしぶりに踏み込んだ相談の多いこと。縁側で交わす会話にも聞こえる。側に台所が控える安心感のせいだ、きっと。
(編集部注:コロナ以降、自宅キッチンの開放はしておりません)


(雑誌『料理通信』2019年3月号掲載)
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