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JOURNAL / イタリア20州旨いもの案内

<番外編> パオロ・マッソブリオの日本滞在記

vol.4 山梨「ボーペイサージュ」

2017.02.20

山梨県北杜市。紅葉に色づく山道を抜けてたどり着いたのは、日本ワインを牽引する造り手の一人、「ボーペイサージュ(Beau Paysage)」岡本英史さんのブドウ畑です。

岡本:今年はこれまでで一番厳しい年でした。9月の日照時間が平年の6割しかなかった。9月の半ばまでブドウの状態がよかったので僕はいけると思ってしまったんですが、9月末からブドウの傷みがひどくなって。



マッソブリオ:ブドウの垣根と垣根の間隔が広いですね。

岡本:日本は日照時間が短いので、東から太陽が昇って西に落ちるまで、なるべく影にならないよう2~3メートル離して垣根を作っています。



マッソブリオ:畑が美しい。あのペットボトルは何ですか?

岡本:ああ、あれはスズメバチ対策です。以前は放っておいたのですが、シャルドネの実に傷をつけてそこから腐っていってしまうので。



マッソブリオ:畑の広さはどれくらい? 年間何本生産されていますか?

岡本:もう一つの畑と合わせて3.5haです。天候がいい年は1万5千本ほど仕込みますが、今年は1万本でした。

マッソブリオ:ブドウは何を植えていますか?

岡本:白はシャルドネ、シュナン・ブラン、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン、ピノ・グリ。赤はピノ・ノワール、カベルネ・フラン、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、あと実験的にネッビオーロです。

マッソブリオ:ネッビオーロはもともと“ネッビア=霧”の出る11月に収穫するブドウという意味なんですが、イタリアでは地球温暖化の影響で今は収穫が1カ月も早まっている。



岡本:1カ月もですか! 日本はそこまで影響は出ていないです。

マッソブリオ:30~40年後にはヨーロッパからワインづくりが消えるんじゃないかという人もいます。岡本さんのネッビオーロはいかがですか?

岡本:もともとネッビオーロは標高の高いところで育つブドウ。うちの畑も標高800mにあるので試しに植えてみたのですが、今のところうまく育ちそうにありません(苦笑)。



――収穫できなかったブドウが痛々しく残る畑を後にし、ワイナリーへ。

岡本:2014年収穫のシャルドネです。亜硫酸は加えていません。



マッソブリオ:(しばらくテイスティングして)揮発酸が少し高い気がしますが、それはどうしてですか?

岡本:僕はある程度、揮発酸を利用しようと思っていて。

マッソブリオ:それは亜硫酸の代用という意味ですか?

岡本:そう考える人がいるということですか?

マッソブリオ:はい。

岡本:それは考えたことはないですが、僕は揮発酸を少しもったワインの味が好きなんです。
続いて2012年収穫のピノ・ビアンコです。



マッソブリオ:(じっくりテイスティングし、ノートにコメントをぎっしり書いてから)偉大なワインだ。

岡本:以前シャルドネの苗木を植えていた畑にヴォドピーヴェッツさん(フリウリのワイン生産者)がいらして、ワインをテイスティングしてから「君の畑にはピノ・ビアンコが合っていると思う」と言われたんです。

マッソブリオ:正しい助言だと思います。

岡本:次はピノ・グリージョです。2013年です。





マッソブリオ:岡本さんは常に自分が求めるワインを造っていると思いますが、これが一番完璧に近いかたちではないでしょうか?

岡本:自分の中では「何かを目指す」という考えはないんです。2013年はすごく特殊な年で、8、9月の降雨量がとても少なかった。2014年のピノ・グリージョはもっと軽やかです。これはおいしいと思うし、よく出来たと思いますが、年による違いをそのまま出したい、というのが自分の考えです。

岡本:赤に移る前にちょっと遊んでいいですか?(と赤ワインを注ぐ)。品種は後で言います。





マッソブリオ:(しばらく考えて)初収穫のピノ・ノワールですか?

岡本:2006年のサンジョヴェーゼです。

マッソブリオ:こんなにおいしいのに、どうして造らないのですか!?

岡本:サンジョヴェーゼは面白いのですが、難しい。なかなか実をつけないのです。こちらが、ピノ・ノワールです。





マッソブリオ:今まで数々のピノ・ノワールをテイスティングしてきましたが、香りのすばらしさはずば抜けています! ただ香りから想像する味と、口に含んだときの印象がちょっと違いますね。

岡本:2014年のメルロです。

マッソブリオ:僕はメルロはあまり好きな品種ではないのだけど……これは、もっと飲みたくなる。

岡本:続いて2014年のカベルネ・フランです。

マッソブリオ:(じっくりテイスティングしてから)どうしてカベルネ・フラン100%にしたのですか?

岡本:なんででしょう……。あまり混ぜたくないんですよね。(と、ここでマッソブリオさんが握手)。その年その年の個性を伝えようとする時、造り手がブレンドの割合を変えると伝わりにくくなると思う。





――岡本さんがワインの仕込み中の様子を動画で見せてくれると、マッソブリオさんの目にはさらに驚きの色が。そこにはブドウの房から一粒ずつ実を外してマストにする、気の遠くなるような手作業の連続がありました。





テイスティングが終わると、地元の農家さんが自然農で育てた野菜、岡山「吉田牧場」のチーズ、日本で唯一のパルマハム職人・多田昌豊さんが作るペルシュウと、仲間の生産者の作る味でもてなしてくれた岡本さん。テイスティングに開けたワインを皆でテーブルを囲んで味わう、そこには新たに芽生えた友情と自然への感謝の気持ちが満ちていました。







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