おいしいパルマハムの極意
スペシャリストに弟子入り
「ミオバール」宮西智士さん
2020.12.24
text by Reiko Kakimoto / photographs by Hiyori Ikai
連載:おいしいパルマハムの極意
適切な目利きとトリミング、そしてスライスの技術でレストランクオリティの「一皿」に昇格するパルマハム。「パルマハム スペシャリスト」を目指す、広島「ミオバール」の宮西智士さんが、日本人唯一の元パルマハム職人・多田昌豊さんにパルマハムの扱い方を学びました。
「パルマハム スペシャリスト」とは、良質なパルマハムを見極め、ベストな状態で提供し、かつパルマハムの魅力を語り伝えられるプロフェッショナルのこと。世界11カ国で316名のスペシャリストがいて(2020年11月10日現在)、うち日本には5名のスペシャリストがいます。多田さんは日本でのスペシャリストの育成に貢献している一人です。
バール文化からパルマハムの美味しさを知ってもらいたい
宮西:ようこそ広島へ。「ミオバール」がある幟町(のぼりちょう)というエリアは、様々な飲食店も近くにある、昔から栄えた城下町です。僕は「良いバールが街を作る」と思っています。例えばイタリアでも、人気のあるレストランの近くには気の利いたバールがあるんですよ。アペリティフや、食後のコーヒーを飲みながら「あの店が美味しかった」など、バリスタや居合わせた人と情報交換をする場所なんです。2012年にお店を開いた時、そうした街のハブになるような存在を目指そうと思いました。
多田:いいね。エスプレッソもすごくおいしい。
宮西:ありがとうございます。手切りパルマハムは開店当初から置いていたのですが、多田さんとの出会いで「自分はパルマハムのことを全然わかっていなかった。今まで出していたものは何かが違う」と衝撃を受けました。ちょうどコロナで厳しい時期でしたが、むしろ絶好の勉強の機会だと思い、先行投資をしてスライサーを買いました。スライスを極めるべく勉強の毎日です。そして多田さんに教えていただける機会を得たので、人生初の「骨抜き」に挑戦したいと思います。
多田:では早速始めようか。真空パックを開ける前にぐっと押さえてみて、「ブワブワ感」がないかを調べる。ブワブワしているということは、水分が多すぎて状態が悪いということ。まずは右脚か左脚かを見て、どういう形で骨が入っているかをイメージします。これは右脚。すね側とお尻側の肉を見れば、どちらか分かる。次に熟成の期間を確認します。このメタルシールに仕込んだ年月が書いてあります。
宮西:2018年2月とあります。これが仕込み年月ですね。
多田:そう。香りとか、触感とか、熟成期間とか、こうした情報を意識しながら成形やスライスをしていきます。30カ月ならこのくらいの香りがあると理想だな、などをね。
脂と肉のバランスを見ながら、スライスを調整する
宮西:トリミングの時に気にするべきポイントはありますか?
多田:取り残しをしないことと、美しく、だね。あとは力が入る作業が続くので、怪我しないように。基本的に刃先は自分に向けない、刃先に自分の手を置かない、ということが重要です。
宮西:肉が黒ずんでいる部分も取り除きますか?
多田:酸化した黄色っぽい脂や黒ずんだ肉は、トリミングの際に丁寧に取り除くといいと思います。道具は、使用前に必ず消毒しましょう。パルマハムを扱う際には、衛生管理が大事です。消毒液を吹きかけたペーパーでナイフを綺麗にします。直接ナイフに消毒液を吹きかけてペーパーで拭ってしまっては消毒した意味がなくなります。
宮西:…成型、終わりました…!
多田:2時間で出来たね。初めての骨抜き2時間は上々です。でも骨抜きよりも肝心なのはスライスなので、まずはスライスを極めて欲しいと思います。まずはスライサーの消毒です。スライスしたハムをのせる皿も用意して、準備万端で始めましょう。
宮西:はい。今日は大きな断面で提供したいので、パルマハムの中央部分で2つに切ります。
多田:通常は端(脚の付け根部分)からスライスしますが、こうして2分割してスライスするのもありだと思います。中央の断面の大きなところと、端の部分をそれぞれスライスし、合わせ盛りして提供してもいいですね。
宮西:確かに。
多田:分割したら、使用しないブロックをすぐにラップで包み、できれば真空包装して酸化・乾燥を防ぎます。そしてスライスするブロックをトリミング。脂を少し食べてみて、酸化していないか確認。スライスしたハム1枚に対して、脂身をどのくらい残すかバランスを考えてトリミングします。トリミングするときは無駄に包丁を入れないように気を付けて、ぐるりと一気に皮を取り除きます。
宮西:「トリミングでをする際に、何度も肉に刃を入れて劣化させない」ということですね。わかりました。
宮西:ではいよいよ、スライスします。スライスの厚さを示すダイヤルが付いていますが、僕はそのダイヤルではなくて切り上がりの様子を見て調整していきます。
多田:それはとてもいいポイントだね。スライサーはそこまで安定している訳ではないので、僕も自分のマシンの「くせ」を覚えて、結果的にスライスされたハムを見て、刃の隙間や力の具合で調整しています。
宮西:(何枚かスライスして)う〜ん、どうでしょう。
多田:脂が付いている面を下にすると、パルマハムが安定するかな。ハムの状態やスライサーの癖によって、ハムの皮側を下にするか、肉側を下にするか、また、ハンドルを持つか、肉を直接手で押さえるか、自分のやりやすい方法を見つけましょう。
宮西:(再度スライスして)…あっ、少し掴めたように思います。
多田:さっきと全然スライスの薄さが違う。いいね。スライスをするときは、パルマハムに余計な力やストレスをかけず、優しくスライスすることが大事です。そのためには、刃をしっかり研ぐことが重要です。
「これがパルマハムの味だ!」と知ってもらうスライスを
宮西:このスライサーは今年6月に導入しました。「ミオバール」をオープンしてから手切りのパルマハムは提供していたのですが、多田さんに出会って、スライサーで切ってくれた薄切りのパルマハムを食べて衝撃を受けました。そこからスライサーも購入したんです。僕が多田さんから受けた「これがパルマハムの味だ!」という感激を、多くの方に知ってもらいたくて。
多田:宮西君の向上心は素晴らしいね。スライスの技術もどんどん上がってる。宮西君だけでなく、お店のスタッフも皆とても勉強熱心なのも素晴らしいと感じました。
宮西:ありがとうございます。今回、学んだことで頭も体もいっぱいいっぱいです。バリスタの道もそうですが、スペシャリストになってからが本当のスタート。早くスペシャリストとなって、スタート地点に立てるよう、日々精進します。多田さん、今日はありがとうございました。
◎ミオバール
広島県広島市中区幟町5-14-1F
☎ 082-222-9160
日曜休
http://miobar.info/
お問い合わせ先
パルマハム・インフォメーションセンター (旭エージェンシー内)
☎ 03-5574-7834
info@parmaham.org