日本の食 知る・楽しむ
梅ダッチ「アンヂェラス」 since 1946
連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應
2016.05.01
「梅ダッチ」(720円)は水出しのアイスコーヒーに梅酒と青梅が添えられる。青梅も硬さと甘さの塩梅がちょうどよく、店自慢の一品。奥がブッシュ・ド・ノエルをベースに考案された「アンヂェラス」1個330円。
text by Michiko Watanabe / photographs by Toshio Sugiura
連載:世界に伝えたい日本の老舗
日本の喫茶店がアメリカのコーヒーブームに強い影響を与えていること、ご存知でしょうか。水出しの「ダッチコーヒー」で知られる、ここ「アンヂェラス」もその1軒。浅草詣での折には、しみじみおいしいダッチコーヒーと、店名を冠したかわいらしいロールケーキが楽しみで、よく立ち寄らせていだたきます。澤田光義さんにお話を伺いました。
日本発「水出しコーヒー」の名店
初代がすぐ近くで呉服屋をやっていたのですが、ご贔屓くださるお客様と、ゆっくり話をする場所が欲しいということで、1946(昭和21)年に喫茶店を開いた。それがこの店です。ですから、当初より文人墨客に愛していただき、今があります。
初代はアートにも造詣が深く、画家の方々とも篤い親交がありましたから、そこここに架かっている絵も著名な画家のものが多いんです。
また、教会のような、山小屋のような欧風の内装にも力を注いで作ったようです。初代夫人がクリスチャンだったところから、「聖なる鐘の音」っていう意味の「アンヂェラス」っていう店名にしたんですね。
私は高校時代からバイトを始め、結局、この店にのめり込むことになっちゃった。大学を中退して、料理や製菓を勉強するため、海外遊学したり、コーヒーを研究したり。コーヒーにはとくにこだわりましてね。豆のシルバースキンを飛ばすことで、格段に旨くなった。
で、お客様がぐっと増えたんです。戦後すぐのことでしたが、知人が多かったので、いろんな方に助けてもらいました。いい職人さんたちもいたので、当時にしては、ほんとうに上質のものが提供できていたと思います。ともかくコーヒーもケーキも原料第一。いいものを使う。これは今も一番大事にしていることです。
最初は食事もやってましてね。3階がレストラン専門。手塚治虫さん始め、有名人も大勢いらしていただいてたんですよ。デミグラスソースに5日間かけたりしてね。でも、やめてからもう25年になります。
ケーキは、開店して1年後ぐらいから始めたのですが、店名を冠した伝統のケーキ「アンヂェラス」は、クリスマスに子供たちにブッシュ・ド・ノエルを食べさせたくて考案したもの。つまり、小さなノエルなんです。
ダッチコーヒーは、お湯じゃなくて、水で抽出するコーヒーのこと。実は「梅ダッチ」というのもありまして。昔から、梅酒を紅茶に入れて飲んでいたんですが、その伝でコーヒーに入れてみたら、おいしかった。合うんです、ダッチコーヒーと梅酒が。池波正太郎さんが随筆に書かれて、すっかり有名になっちゃいましたけど。
氷の入ったグラスにコーヒーを入れて、半分飲んだところで、梅酒を入れてください。梅酒ももちろん自家製です。最後は、この梅も食べてみてくださいね。いいでしょ。クセになりますよ。
◎アンヂェラス
東京都台東区浅草1-17-6
☎03-3841-9761
10:00~19:00
月曜休
東京メトロ浅草駅より徒歩3分