日本の食 知る・楽しむ
深川めし「深川宿」 since 1987
連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應
2016.05.01
味噌汁仕立ての深川めしが食べられる店は珍しい。具はアサリとネギ、味噌は関東味噌の赤と白をブレンドし、少し甘めの味わいに。海水の温度が上がり始める春からアサリは餌をよく食べ始め、ふっくらとする。1890円。
text by Michiko Watanabe / photographs by Toshio Sugiura
連載:世界に伝えたい日本の老舗
江戸情緒がそこかしこに残る、江東区の深川界隈。安藤広重や葛飾北斎が描いた深川万年橋、それから、清澄庭園、深川稲荷……と歴史散歩をする人が多いそう。中でも、必ず訪れるスポットのひとつが、深川江戸資料館です。その真ん前にあるのが、深川めしで知られる「深川宿」。資料館とともに誕生した、この店の主、日東寺隆美さんにお話を聞きました。
東京・下町の郷土料理
埼玉の忠七めし、大阪のかやくめしなどと並んで、深川めしは「日本五大銘飯」のひとつだそうです。何でも、昭和14年(1939年)に、当時の宮内省が全国の郷土料理を調査して5つ決めたものだとか。江戸の郷土料理なんですね。
深川のこのあたりは、江戸末期、海に面していて、隅田川河岸には漁師町があったそうです。江戸前の魚介をその漁師たちが、漁の合間に早飯するために食べたのが、深川めしでした。深川めしっていうと、炊き込みご飯だと思っている方が多いのですが、本来はアサリの味噌汁をご飯にかけた「ぶっかけめし」だったようです。
深川めし専門でいこうと決めて店を開いたのは、昭和62年(1987年)のこと。開店に際し、かつて、このあたりで漁師だった方に「本物」を教わったのですが、アサリを濃い味噌味で煮た汁をご飯にかける。お茶漬けみたいにさらっと食べられますからね。でも、中に入っているネギは太いままのブツ切り、味も塩辛い。いかにも漁師料理という感じでした。また、いろんな店の深川めしもチェック。味噌のブレンドの割合や味つけなど、試行錯誤を繰り返し、現代人の口にも合う味に作り上げました。赤味噌と白味噌をブレンドし、アサリ、ネギの細切りを加え、ご飯にかけます。そして、仕上げに刻み海苔を。言ってみれば、深川風のリゾットですよね。
アサリは江戸前を使っていたのですが、だんだん身が小さくなってきたので、現在は伊勢や松阪のものを使っています。昔はアサリのことを「ワク」って呼ぶくらい、湧くように採れていたようです。アサリだけじゃなくて、青柳やハマグリでも作ってたらしいですよ。やはり、生でないと、ぷっくりとおいしくは仕上がりません。なので、冷凍ものは一切使わないことにしています。
炊き込みご飯のほうは、明治時代になって生まれたもの。ぶっかけが漁師めしなら、炊き込みは大工さんたちが、おむすび弁当にして持って行ったものらしいです。このあたりは、大工や船大工、指物師が多く住んでる大工町だったらしいですから。そんな昔に思いを馳せながら、ぶっかけと炊き込みの両方が食べられるセット「辰巳好み」はいかがでしょう。ぶっかけ、素朴だけど、おいしいでしょ。味噌とアサリ、なかなか相性がいい。これぞ、江戸の味です。
◎深川宿
東京都江東区三好1-6-7
☎03-3642-7878
11:30~17:00 月曜休
東京メトロ、都営線清澄白河駅より徒歩4分