常識外れのカラメルづくり「大人用プリン」
レスキューレシピ【牛乳編】
2022.01.20
photographs by Hideo Sawai
連載:レスキューレシピ
2021年末、乳製品の原料となる生乳の供給過剰で大量廃棄が懸念されました。酪農や農作物は短期的に供給をストップできないからこそ、今後も同じような状況に直面する可能性があります。そこで、普段の食事はもちろん、緊急時にこそ思い出してほしい、レスキューレシピ【牛乳編】をお届けします。食材が余ったときには消費レシピを上手に活用する。 “料理する力”を磨くためのレシピです。
目次
教えてくれたシェフ:東京・東中野「ビスポーク」野々下レイさん
英国スタイルのガストロパブ「ビスポーク」のオーナーシェフ。雑誌『料理通信』の「自家製」特集では、4号連続で表紙の料理を担当。気さくで飾らない人柄と、キレのよいトークに魅せられて通いつめるファンも多数。「コロナ禍でブランチに熱中していたら、お菓子作りが上手になってきました。お菓子にも鮮度がある。作り立てのおいしさが好評です」とシェフ。
※コロナ禍の野々下シェフの取り組みをシリーズ「未来のレストランへ」で取材しました。併せてご覧ください。
お酒を合わせたくなる大人のデザート
バター不足の時に、バターを使わないデザートを考えて思いついたプリンです。プリンって、みんなが懐かしさを感じる料理で、人によっていろんなストーリーがある。そんな子ども時代の思い出を、自分の料理として昇華させるならどうするか。イメージしたのは、当時主流のトロトロ系ではなく、しっかり硬いやつ。しかも、お酒に合わせても楽しんでもらえる、“大人仕様”のプリンです。
求める食感にたどり着くまで、配合、容器、オーブンの温度、焼成時間の組み合わせを変えて、試行錯誤を重ねました。ただ、プリン液を作る時に生クリームと牛乳を温める時には60℃まで、といった素材使いの基本には忠実に。牛乳は72℃以上になると組織が壊れはじめ、せっかくのミルキーな香りや味わいを損なってしまいます。
もうひとつのポイント、苦味のあるカラメルにするには、普通よりかなり黒く色付くまで焦がすのがコツ。常識はずれだろ!と言われるくらい思いきって。店では大きく焼いたプリンをトランプ大に切り出して提供します。切れる包丁でスパッと切って断面を美しく見せましょう。
「大人用プリン」材料と作り方
【材料】(18cm× 18cm、1台分)
卵(Lサイズ)・・・ 6個
グラニュー糖・・・175g
牛乳・・・300ml
生クリーム(乳脂肪分42%)・・・100ml
コアントロー・・・キャップ1杯
バニラパウダー・・・少量
お湯(カラメル用)・・・75ml
※グラニュー糖は卵に80g、牛乳に20g、カラメルに75g使用
※バニラパウダーは、バニラオイルやバニラビーンズなど入手しやすいもので代用可
【1】プリン液を作る。ボウルにグラニュー糖80gと卵を割り入れ、泡立て器で空気を入れないよう切るように溶きほぐす。
POINT:泡立てない。「す」の原因になるので、そっと溶きほぐす。
【2】鍋にグラニュー糖20g、牛乳、生クリームを入れ、中火にかけて泡立て器で軽く混ぜながら60℃まで温める。卵のボウルに温めた牛乳を混ぜながら加える。
POINT:牛乳を高温で熱すると風味と味わいを損ねてしまう。温める時は60℃まで、を厳守する。
【3】シノワで2回漉して、滑らかにする。
POINT:目の細かいシノワで漉し、からざや混ざり切れない卵白、気泡を取り除き、つるんとした口当たりに。
【4】コアントローとバニラパウダーを加え、泡立て器で泡立たないようゆっくり混ぜ合わせる。
【5】カラメルを作る。鍋の内側を水で濡らし、グラニュー糖を75g入れて強めの中火にかける。スプーンは使わず、鍋を傾けたり、揺すって全体に火を入れる。
POINT:スプーンは使わない。
【6】濃い焦げ茶色に色づいたら熱湯75mlを2回に分けて加える。余熱でどんどん火が入り、鍋底に飴状に固まるので、熱を当てて溶かすようさらに火を入れる。
POINT:「常識外れだろ!」と言われるほど黒くなるまで、カラメルを焦がす。お酒にも合う味作りの秘訣。
【7】湯せん用のバットの上に耐熱容器を置き、鍋からカラメルを移す。容器を傾けてカラメルを全体に行き渡らせる。
POINT:卵液の水分でカラメルが緩くなるので、硬めの粘度にして容器の底に広げる。
【8】カラメルが固まるよう、プリン型が半分浸かる程度に、バットに水を張る。カラメルが固まったら水を捨てる。
【9】ヘラでワンクッションおいて、卵液をゆっくり加える。
【10】沸騰したお湯を、プリン型が半分浸かる程度にバットに張る。150℃に予熱しておいたオーブンで25分湯せん焼きする。
【11】オーブンから取り出してしっかり冷ます。パレットナイフをプリンと容器の間に入れて離したら、バットを型の上に被せ、ひっくり返して型から外す。
【12】完成。ビスポークでは、型から取り出したプリンをトランプ大の大きさに切り出して提供。
POINT:野々下さんは、この切り出しに「断面が美しくなるように」と研ぎ込まれた刺身包丁を使う。
【このレシピのポイント】
ふつうのカラメルは左の写真くらいで止めますが、右の写真ぐらいまで焦がすのが「大人用プリン」の味の決め手に。
【シェフがだどり着いた道具×法則】
●「18cm四方の耐熱ガラスの容器」×「150℃で25分」の法則
いろんな型で試し、オーブンの温度や焼き時間も様々な組み合わせを検証した結果、理想の食感になったのが、現在のこの組み合わせ。程よい硬さがありながら、つるんと喉越しのやさしいプリン。焼き型、オーブンの温度、焼き時間の組み合わせで食感は変わる。自分のキッチンで再現できる条件を見つけよう。
「ビスポーク」店舗情報
◎ビスポーク
東京都中野区東中野1-55-5
☎03-5386-0172
火、水、金 17:30~22:00
日曜ブランチ 9:00~15:00
月、木、土曜休み
JR、都営線東中野駅より徒歩1分
Facebookページ:Bespoque(ビスポーク)
Instagram:@bespoque
※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
(雑誌『料理通信』2015年8月号掲載)