タマネギを調味料的に使う「ペスト・ディ・メランザーネ (ナスのペースト)」
プラントベースの始め方16
2022.06.23
text by Michiko Watanabe / photographs by Masahiro Goda
連載:プラントベースの始め方
健康や環境への配慮から、植物性の食材を主体とする“プラントベース(Plant Based)”な食事法が注目されています。肉や魚や乳製品に頼らずとも「おいしい」料理を作る知恵は、世界各地に存在します。身近なレシピからおいしくプラントベースを始めるヒントを紹介します。
教えてくれたシェフ
神奈川・鎌倉「オルトレヴィーノ」古澤一記さん
最初から弱火でゆっくり、じっくり
ニンニクとタマネギはどこの国にもある野菜ですが、国によって使い方はかなり異なります。その使い方の違いが、それぞれの国の味わいを形作っていると言っていいかもしれません。
まずニンニク。イタリアの場合、ご存じない方もあるかもしれませんが、プロの間では、ニンニク臭をさせてはいけないという暗黙の了解があるんです。ニンニクと聞いて日本人が思い浮かべるのは、あの香ばしいガーリック臭ですが、僕たちが使いたいのは、ニンニクの中にある甘味や旨味、そして、そこから派生する甘やかな香りです。イタリア料理のレシピに、よく「ニンニクを炒めて香りが出てきたら」というフレーズがありますが、あの香りは、実はガーリック臭ではないことを、まずは知っておいていただきたいのです。
ニンニクは常温のオリーブ油に入れてから火を付け、弱火でじわじわ、じわじわと甘味を出していきます。熱い油には決して入れません。なぜ、弱火か。これはニンニクが温まり始めて、ガーリック臭が出るまでの間に、僕たちの欲しい「甘いゾーン」があるからです。この甘いゾーンは、強火で性急に火を入れても決して現れません。ゆっくりじっくり温めた後に初めて現れるものです。ちょうど、水に昆布を入れ、昆布本来の旨味をじっくり引き出してから料理するのと同じ。鰹節のように華やかな香りはしないけれど、ないと味が決まらない。そんな、大事な味のベースとなるものです。イタリアのニンニクの使い方は、まさに日本の昆布の使い方と同じだと思います。
火入れの基本はすべて同じ
ソフリットといえば、タマネギ、セロリ、ニンジンと思われていますが、タマネギだけの場合もあります。(ニンジンとセロリだけというのはありませんが)。タマネギもニンニクとまったく同じ火入れをします。違うのは、最初にニンニクを温めているので鍋が熱くなっている点。ニンニクから十分、甘味を引き出したところで、タマネギを加えて熱を鎮め、さらに炒めていきます。タマネギには、これ以上炒めるとガーリック臭が出るという時に温度を下げ、それを阻止する役割もあるのです。国によっては、オニオングラタンのように、飴色になるまで炒めることもありますが、イタリア料理では色は付けずに白いまま、でも甘やかな味わいに炒めます。
「ペスト・ディ・メランザーネ(ナスのペースト)」では先に旨味のベースを香味野菜で作り、そこに別の野菜を合わせて一緒に煮込みます。すると、味に奥行きが生まれます。ニンニクやタマネギの旨味も料理と一体化するよう、両方みじん切りにします。みじん切りの野菜を焦がさないよう、ゆっくり甘味を引き出すのは根気のいる作業ですが、待った甲斐のある味になります。
最初のニンニクとタマネギ(またはニンジン、セロリ)の炒め方で、イタリア料理の味のベースは決まる。後から何を加えても作り出せない、野菜にしか出せない味の領域があるんです。ニンニクとタマネギの使い方に、イタリア料理人の力量が現れる、といっても過言ではないかもしれません。
<植物性食材だけでおいしくなるコツ>
1 ナス、タマネギ、ニンニクはみじん切りにして、旨味を料理に一体化させる
2 ニンニク、タマネギは、焦がさないように、根気よく甘味を引き出す
「ペスト・ディ・メランザーネ(ナスのペースト)」の作り方
[材 料(仕上がりは約700g)]
ナス・・・10本(800g)
ニンニク・・・5g
タマネギ・・・1/2個(80g)
E.V.オリーブ油・・・65g
アンチョビー・・・45g
塩・・・3g
タイム・・・8枝
黒コショウ・・・適量
白ワイン・・・150g
[1]材料をみじん切りにする
ナスは皮を剥き、1cm角に切る。ニンニクとタマネギはみじん切りにする。タイムは枝をしごいて葉を取り、葉をみじん切りにする。
[2]ニンニクを弱火にかける
深鍋にE.V.オリーブ油とニンニクを入れて弱火にかける。
[3]タマネギの甘味を引き出す
ニンニクの旨味を引き出したら、タマネギを加えて弱火でじっくり甘味を引き出す。
POINT:タマネギを茶色に焦がさないようにする。
[4]ナス、調味料を加える
ナスと刻んだアンチョビー、塩、タイム、黒コショウの順に加え、全体をヘラで混ぜる。
[5]白ワインを加える
表面がしんなりしたら白ワインを加えて強火に上げ、アルコールを飛ばす。
[6]蓋をして弱火で煮る
蓋をして弱火でトロトロになるまで煮る。途中20分後に水分量を確認し、水か野菜のブロードをレードルの半量ほど足す。
【展開例】
ナスのペーストはパンにのせるだけでなく、パスタのソースにも。
◎オルトレヴィーノ
神奈川県鎌倉市長谷2-5-40
☎0467-33-4872
12:00~21:30(18:00LO)
水曜、木曜休
江ノ島電鉄長谷駅より徒歩4分
http://oltrevino.com/
※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため要請に合わせて営業時間が変わることがあります。
(雑誌『料理通信』2018年5月号掲載)
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