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FEATURE / MOVEMENT

第15回A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクールより 今、ソムリエに求められていること

1970.01.01

text and photographs by Tadayuki Yanagi





食の世界がグローバルな広がりをみせる中、ソムリエの仕事にも変化が生じています。ワインの多様化、ワイン以外の飲料全般に関する需要の高まりから広範な知識と提案力が求められるようになりました。4月16日から4日間、アルゼンチンのメンドーサで開催された決勝大会の取材を通じて、今、ソムリエに求められることについて考えます。
トップの画像は、緊張感漂う決勝でマグナムボトルのデカンタージュを行うシーン。客に扮した審査員の鋭い視線を受けながら、母国語以外の言語でコメントし、サービスをやり遂げる。どこかに仕掛けられているかもしれないトラップにも注意。

日本から出場した石田博氏(左)と森覚氏(右)。善戦したものの及ばず、準決勝で敗退した。結果は石田氏13位、森氏8位。今後、石田氏は後進の育成にあたり、森氏はまた次回を狙う。


“まるでオリンピックの十種競技”と評される難易度。


ソムリエに求められるのは優れた試飲能力か、それとも華麗なるサービス技術か、はたまた、醸造学者にもなれるほどの深い知識なのだろうか? 答えはそのすべてである。アンデス山脈の麓、アルゼンチンのメンドーサで繰り広げられた第15回A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール。その審査内容は多岐にわたり、「まるでオリンピックの十種競技」と観客席から声が漏れるほどの難しさ。それを制したのは31歳の新鋭、スウェーデン代表のジョン・アルヴィッド・ローゼングレンであった。

第6回大会が開催された1989年よりコンクールをオフィシャルパートナーとしてサポートしてきた「モエ・エ・シャンドン」の醸造最高責任者、ブノワ・ゴエズ氏から、優勝したジョン・アルヴィッド・ローゼングレン氏に歴代優勝者の名が刻まれたモエ・エ・シャンドンのシルバートロフィーが授与された。

コンクールには世界57カ国、60名のソムリエが出場。日本からは森覚氏(日本代表)と石田博氏(アジア・オセアニア代表)のふたりが挑んだ。森氏は3大会連続、石田氏は2000年のカナダ以来16年ぶり3度目の挑戦。両氏とも15名の準決勝進出選手には残ったものの、奮闘もここまで。3名により繰り広げる公開決勝には進めず、舞台を下りた。今大会に出場した女性ソムリエは、地元アルゼンチンのパス・レヴィンソンを含め、4名全員が準決勝進出を果たし、アイルランド代表のジュリー・デュプイが決勝へと駒を進め3位入賞。女性ソムリエのレベルの高さを印象付けた。決勝に残ったもうひとりはフランス代表のベテラン、ダヴィッド・ビロー。今回こそ優勝と期待されたが、前々回のチリ大会からひとつ上がっての2位だった。

これまでブラインド試飲では香りや味などフルコメントが求められたが、今回はワインの特定を重視。香りや味から品種や産地を当てるには、鋭い感性が必要だ。

コンクールの内容は回を追うごとに高度化している。ワイン産地が世界各地に広がり、出場選手は中国やオランダの産地名まで覚えなくてはならなくなった。そもそもソムリエが扱うのはワインに限らず、飲料全般におよぶ。決勝ではブラックチョコレートに合わせてグラン・クリュ・コーヒーを選ぶ課題まで出た。
サービス実技でのトラップはもはや当たり前。決勝では、客の持ち込みワインに合わせて即興でメニューを組み立てる課題にトラップが仕込まれていた。ワインの中にドメーヌ・ポンソのクロ・サン・ドニ45年という、実在しないフェイクワインが含まれていたのである。これに気づくだけでもすごいことだが、客の機嫌を損ねず、フェイクであることを説明するのはさらに難儀であろう。一方、直近のコンクールでは制限時間にこだわるあまりサービスが多少雑になる傾向が見られたが、今回は制限時間に余裕をもたせたようで、選手が時間を持て余す場面も少なくなかった。何かトラップが仕掛けられているのではないかと、かえって疑心暗鬼に襲われた選手もいたに違いない。

3位入賞のジュリー・デュプイ。モエ・エ・シャンドンにはない”エクストラ・ブリュット”を注文される課題。スポンサーの商品については徹底した調査が必要。客への説明では語学力のあるなしが評価を分ける。

決勝では赤白各4種類のワインがブラインドで試飲されたが、フルコメントを求められたのはそれぞれ1種類で、ほかの3種は特定のみ。さすがに決勝に残る選手ともなれば、香りや味の表現、サービスの方法や合わせる料理など、コメントでミスをすることはあり得ず、点差が付きづらい。ならば、品種、産地、ヴィンテージをずばり当てていただこうということだろう。
マネージングやマーケティングに関する設問も今大会の特徴で、決勝では、「このワインの購入を躊躇している顧客を説得せよ」という出題があった。ワインを売り込むのも、ソムリエにとって大切な仕事のひとつなのである。

決勝ではクイズ形式の課題も多い。これはワインリストの間違い探し。ほかにはスクリーンに投影された人やワイナリー、害虫の名前を紙に書いて答える課題も。旺盛な好奇心をもち、知識を深めることが求められる。


必要なのは、ネイティブ並みの語学力と、対応力。


大会を振り返ってみると、世界一のソムリエになるには、まず語学力が重要である。それも話せるというレベルではなく、ネイティブ並みに話せなくては勝負にならない。優勝したアルヴィッドも3位のジュリーも母国を離れ、外国に職場をもつ。そしてテーブル上の小さな変化にも敏感に反応する鋭い注意力と、咄嗟に行動に移せる対応力。出題範囲が大きく広がった今、貪欲なまでに知識を増やし、それを蓄える記憶力も求められる。最近は専門誌を読まないソムリエが増えているのは気にかかる。
もちろん、コンクールの優勝がソムリエにとってすべてではない。しかし、コンクールの課題には、日常のサービスにおいて要求されるあらゆる要素が、きわめて高い次元で盛り込まれていることもまた事実なのである。

6年前のチリに続き、2位に終わったダヴィッド・ビロー。これはモエ・エ・シャンドン ロゼ アンペリアルのマグナムを15脚均等に注ぎ切る審査。普段どれだけ正確なサービスをしているかが問われる。



今大会の傾向 -田崎真也氏総評コメントより-

■飲み物全般への知識、提案力が問われた。
・ワイン“以外”の、各国の地酒(日本酒、ウイスキー、クラフトビールなど)。
・世界的なアルコール離れ傾向を踏まえたノンアルコール飲料(水、コーヒー)。
・料理との組み合わせ提案、購買アドバイス。
■高度なコミュニケーション能力が要求された。
・情報収集力、暗記力、語学力。
■台頭する新勢力
・女性の台頭。3、4、5位が女性。近い将来優勝者が出るのでは!?
・北欧勢の台頭。(日本同様、ワイン教育機関の充実が理由)













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