Birdy グラスタオル開発物語 vol.2
創業時から受け継ぐものづくり精神
2019.04.05
text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe
「創意無限、脱皮成長」
これは、横山興業の創業者 横山俊三郎氏が掲げ、現在も引き継がれている社訓です。横山興業の主力である自動車部品製造とカクテルツールの開発は、一見、何の脈略もないようですが、社訓を読むとBIRDY.シリーズの誕生がはじめから運命づけられていたようにも思えてきます。
突出した技術×アイデアで30年先も生き残る
創業は昭和26年。現在の社長である横山栄介さんの祖父が建材の販売事業を興したのが始まりです。その後、借金のかたにプレス機を譲り受けたことから、建築金具の製造を開始。鉄板を切断する技術の特許を取って全国に販売するなど発明にも情熱を傾け、昭和51年には雨どいの売り上げが全国トップ5を誇るまでに成長しました。
トヨタの初代カローラから受注を始めた自動車部品製造も順調に伸び、栄介さんが会社を継いだ当時、「決められたことを早くやる」という下請けとしての役割は堅実に果たしていました。しかし「うちにしかできない仕事は特になかった」。タイに工場を新設するも状況は変わらず、次第に「ニッチかつトップレベルの技術かサービス、あるいは営業力を持っていなければ、30年後に存続できないのでは」と危機感を募らせていきます。同時に、祖父のように自社で一貫して手掛けるものづくりがしたいという気持ちもふつふつと湧いてきました。
そんな思いから、タイ進出を機に呼び戻していたデザイン畑の弟、哲也さん(現在、BIRDY.のブランドマネージャー)を責任者として、全く新しい製品の開発に乗り出します。
「何を作りたいかではなく、自分たちが持っている技術を生かして何が作れるだろうかと考えました。それは他社がマネできない突出した技術でなければ意味がない。足元を見つめ直した時、プレス加工で使う金型を研磨する技術が思い当りました」
研磨の力で世界が変わる
部品製造の現場では、金型でプレスして厚い金属板を打ち抜く際、金属の流動性を高めるため、金型の表面を職人の手で研磨します。哲也氏は、この「磨く技術」に着目しました。「精巧に磨くことで、それと触れ合う金属の流動性が高まるのであれば、液体にも同じ効果が期待できるのではないか」。
早速、ステンレス製の日本酒グラスを作ってみることにしました。哲也氏は学生時代に日本酒がメインの居酒屋でアルバイトをして馴染みもあり、トライアルとしても取り掛かりやすいアイテムだったからです。内面を磨き上げたグラスに日本酒を注いで飲んでみると……「残念ながらほとんど味は変わりませんでした」。
そこで次は、よく通っていたバーテンダーとの会話の流れでカクテルシェーカーを試作。すると「従来品を使った場合と比べて驚くほどおいしくなったのです。これは世界が変わると思いました」。
シェーカー内部の研磨は、職人の手で1点1点行われます。いつも決まって夕方5時、試作品のシェーカーでギムレットを作っては飲み、最適な研磨を模索する日々。絶妙な力加減で、完璧に磨き上げるのではなく0.1ミクロンのわずかな凹凸をつけると良いこともわかってきました。狙うは世界標準。国際大会で活躍するバーテンダーからも意見を聞き、開発に反映させていったのです。
日本の職人を守るために
ただ、社内の技術だけで作れるわけではありませんでした。横山興業が発揮できる強みはたった一つ、研磨だけ。残りの部分は協力工場の技術を借りなければなりません。その選定において哲也氏がこだわったのは、原材料を除くすべての生産工程を国内の工場で行っていること。その理由は、高品質であるというだけではありません。
「価格競争の中で中国製の製品が市場を占めるようになり、国内の担い手は年々少なくなっています。日本の職人を守っていかなければ、将来のものづくりが立ち行かなくなります」
BIRDY.は従来品にはない突出した価値を提案するため、必然的に価格も高くなります。平均して従来品の2~3倍。「品質を限りなく追求すればさらに良いものはできるかもしれません。でもそれが10倍の価格では、多くの人は買うのをためらいますよね。妥当性があり、かつ現実的な価格で販売することで、安定した量を作り続けていくことも、職人の仕事を守るという意味で使命だと感じています」
横山興業は社内でも職人を守り育てる環境を整えています。以前からブラジル人やタイ人など外国人派遣労働者を積極的に正社員に登用してきました。また、170人いる社員のうち17人が70歳以上(2019年2月現在)。責任を持って仕事を続けたいか、あるいは生きがいとして続けたいかなど一人ひとりの意向に合わせて働き方の選択肢を与えています(SDGsのターゲット8.8に該当)。
それは、人の技術でミクロを極めて革新を生み出す「アナログハイテクノロジー」の実践者として、職人の価値を真に理解し、評価しているからかもしれません。
引き算の美学で世界を狙う
BIRDY.というブランド名の由来は、パー(1ホールの規定打数)より一打少ないという意味のゴルフ用語です。「ゴルフでは打数が少ないほど上。同じように、無駄を削ぎ落としたシンプルなデザイン、本質を追求したものづくりを目指しています」。引き算の美学。それは禅の思想に通じる、日本人が古くから大切にしてきた価値観です。日本人の心と技で世界を狙う――BIRDY.は、陰りを見せる日本のものづくりの未来を照らす、小さくも力強い灯といえるのではないでしょうか。
◎ Birdy グラスタオル/BIRDY. Supply
サイズ:M 40×70cm、L 40×90cm
カラー:クールグレー
素材:ポリエステル85%、ナイロン15%
原産国:日本
価格:M 2052円(税抜価格1900円)L 2592円(税抜価格2400円)
購入はこちら http://www.birdy.shop/
http://birdy-j.com/
◎ 販売元 横山興業株式会社
471-0815 愛知県豊田市大見町1-61
☎ 0565-58-5558
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