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FEATURE / MOVEMENT

DINING OUT ONOMICHI with LEXUS 数日限りの野外レストランバックストーリー | The Cuisine Press WEB料理通信

1970.01.01


photographs by Hide Urabe



日本各地に息づく自然や伝統文化の魅力を“期間限定の野外レストラン”として提示するプロジェクト、「DINING OUT」。
第8回目が2016年3月26~27日、広島県・尾道市で開催されました。 会場となったのは、聖徳太子が開き、足利尊氏が九州平定や湊川の戦の際に戦勝祈願をした浄土寺。鎌倉末期の建立である本堂と多宝塔は国宝に、山門と阿弥陀堂は国の重要文化財に指定され、方丈の間は皇室が尾道訪問の折に立ち寄るという、瀬戸内屈指の古刹です。

浄土寺の方丈の間と客殿がディナー会場になりました。文化遺産に囲まれた中でシェフたちのクリエイションが繰り広げられるダイナミズムはDINING OUTならでは。


DINING OUTの新しい局面が開かれた!




尾道での開催にあたって、DINING OUT総合プロデューサーの大類知樹さんは悩んだそうです。
「2012年の佐渡からスタートし、八重山、再び佐渡、祖谷、竹田、日本平と回を重ねて、前回の有田でひとつの頂点に達したという手応えがありました。世界的な人気シェフであるアンドレ・チャンを起用し、400年の歴史ある有田焼の地で、料理人と窯元が互いに刺激し合いながら新しい器と料理を生み出した。そこに地元の食材が絡み、有田の街の生活道路がダイニング空間へと鮮やかに転換した……。完成形と言っていい出来映えでした」
極めてしまうと、今度はそれがプレッシャーになります。次はどうするのか? どうしたら、有田を超えられるか? 新たな課題が大類さんの肩に圧し掛かりました。そして、考え続けるうちにひとつのワードが浮かんだと言います。それは「創造的破壊」。「築き上げてきた方法論をいったん自分たちで壊してしまおう。その上で、新しい道筋をつくろう、と」。
著名シェフを起用するのではなく、むしろ、これからの可能性を秘めた若者に、託してみてはどうだろうか。彼らがDINING OUTに何か新しい息吹を吹き込んでくれるのではないか。そこに賭けてみようと考えたのでした。

託されたのは、東京・白金のレストラン「TIRPSE(ティルプス)」を営む大橋直誉さんです。
大橋さんはソムリエであり、サービスマンであり、レストランオーナー。昼と夜で店名と業態を変えて営む(昼はパティシエをシェフに立て、「KIRIKO NAKAMURA」の名称で、デザート・テイスティング・レストランとして営業)など、レストランの新しいあり方を模索する、チャレンジングな若手です。

「レストランひらまつ」でスタートを切り、2011年からはボルドーの二ツ星「シャトー・コルディアン・バージュ」でソムリエとして働く。帰国後、「カンテサンス」を経て、2013年に「TIRPSE」開業。

「いや、大類さんこそチャレンジャーだなと思いました、僕に白羽の矢を立てるなんて(笑)。なにせ、僕の店はDINING OUTがスタートした後に誕生しているんですよ。それくらいキャリアがない」
クリスマス直前に依頼を受け、正月休みの間はずっと六本木のTSUTAYAにこもって、コンセプトを考え続けたそうです。
「ボールペンを2本、使い切りましたね(笑)」


“時間”と“文化”の融合を表現する




与えられたテーマは「究極のフュージョン(融合)」。ホスト役の東洋文化研究家アレックス・カーさんや大類さんたちが、尾道という街の特質から導き出したテーマです。
鎌倉時代、室町時代など過去から連なる時代の痕跡と現在とが共存する“時間の融合”。そして、瀬戸内の真ん中というロケーション上、国内外交易の経由地として流入してきた様々な“文化の融合”。尾道とは、時間を縦軸に、文化を横軸に織り上げられたタペストリーのような街なんですね。だから、「フュージョン(融合)」。

大橋さんはまず、多ジャンルの料理人チームを編成することで、横軸の“文化”を表わそうとしました。そして、縦軸の“時間”を表現するために考えたキーワードは「熟成」。 「鮨 心白の石田さんに加わってもらったのは、日本文化を担当してもらうと同時に、彼が熟成の担い手だったからでもあります」

コース全編、歴史や時間が蓄えられた食材と料理が次々と登場して圧巻です。


V.V.
~Vintage Vinegar~

1582年創業の「尾道造酢」に60年前から眠る酢、50年熟成の梅酢、30年熟成の桃酢をブレンド&お湯割りにしてアペタイザーとして提供。古酒のような熟成香があり、練れた味わい。


Japan
「ファームスズキ」の広島牡蠣の原種・縞牡蠣と欧州牡蠣のクレールオイスターを主軸に、2週間寝かせてから炊いた後に1週間寝かせた尾道のアナゴのてんぷら、向島のワケギと広島の山葵の煮練りで構成。広島の酒米のルーツ「八反草」と飯米のルーツ黒米を貝のだしで炊いた粥をクレールオイスターに、醤麹をアナゴに散らし、生の縞牡蠣には因島のフユダイダイで作る塩ポン酢のジュレを添えて。

料理制作:「鮨 心白」石田大樹
銀座「くろ寿」、「青山えさき」、恵比寿「幸せ三昧」、中目黒「酒人あぎ」を経て、2014年、熟成鮨「鮨 心白」をオープン。絶妙な温度管理で熟成をかける技術に加え、産地を訪れて生産者への理解を深めた上で素材を仕入れる姿勢が熱い。


China
麩の焼きの原形的料理と言われる烤素方(カオスーファン:精進北京ダック)をモダンに仕立てた。よもぎクレープの上には、柑橘で炊いたカブや山菜、イノシシの田楽味噌、湯葉のチップス。しまなみ海道が結ぶ島々の産物をくるりと巻いて食べるイメージ。

料理制作:「Chi-Fu(シーフ)」東 浩司
20歳で料理の道へ。赤坂「維新號」グループで5年、実家・新橋「ビーフン東」で6年研鑽を積む。中国料理の新たな可能性を求めて、フレンチと中華を融合させたモダンチャイニーズ「Chi-Fu」を、2011年、大阪にオープン。過去の技術では成し得なかった理論・調理法を駆使して 新しいスタイルの中国料理を世に送り出す。


France
倉橋島「高本農園」の「あくまトマト」をフィユタージュで包んで焼いた後に、生地は外し、トマトだけを皿へ。別途焼いたフィユタージュを添えて。同系色素材のビーツのソースを合わせた。

料理制作:「Clown Bar」渥美創太
辻調フランス校を卒業後、ロアンヌの「トロワグロ」で研修。吉野建氏の料理に感銘を受け、パリの「ステラマリス」で3年働く。ジョエル・ロブション研究所で1年、高田賢三のお抱え料理人を務めていた中山豊光による「TOYO」のセカンドを経て、12年より「ヴィヴァン」シェフ、14年より「クラウンバー」シェフ。


Break in the Kitchen
300年前に設えられた庫裏の竈を使って薪で炊いたごはんの炊き立てを羽釜から直に供する。米は、大和朝廷への献上米の産地と伝わる尾道市御調町の「源五郎米」で、生産者は田んぼや水路、里山の生き物と共生する米作りに取り組む「御調町源五郎研究会」、品種はヒノヒカリ。




参加者はテーブルから庫裏へと移動して、羽釜から直接ふるまわれた炊きたてのごはんを堪能。天井の梁、居並ぶ竈など、庫裏の見所も満載。


Okonomiyaki
尾道の地元食の代表と言えばお好み焼き、というわけで、DINING OUT史上初のお好み焼きが登場。地元の朝採り山菜と「ジビエヨコタ」のイノシシをごく少量の生地で焼いたお好み焼き。シンプルにクレソンマヨネーズと塩で食べる緑尽くしの一品。「ジビエヨコタ」は、ジビエを安心安全な食材として提供すべく、自ら処理施設を作り、食肉処理業・食肉販売業の営業許可を取得して営むジビエ専門業者。

料理制作:「パセミヤ」中川善夫
40年以上続くお好み焼き店店主。ホテルやレストランでの経験も持ち、旬の野菜やジビエを生かす料理とハイセレクトな自然派ワイン、プラスお好み焼きというスタイルが人気を 呼び、食プロの支持が高く、著名なワイン生産者も多数訪れる。


Bouillabaisse
尾道特産“でべら”を使ったブイヤベース。真鯛を潜ませ、牡蠣のムースを上からかけて、ビスクのお好み焼きをあしらった。でべらとはタマガンゾウヒラメの素干し。鱗と内臓を除いて海水で洗い、丸竹や割竹をエラから口へ通したり、荒縄に1尾ずつ通して3~4日寒い潮風にあてて乾燥させる。

料理制作:「Abysse」目黒浩太郎
都内数店で修業後、マルセイユの三ツ星「ル・プティ・ニース」で働く。帰国後、「カンテサンス」で経験を積み、2015年、魚介フレンチ「Abysse」をオープン。


The Five Senses
尾道市瀬戸田産「citrusfarms たてみち屋」の農薬・化学肥料不使用のレモンと1878年創業の「今川玉香園茶輔」製の煎茶。レモンの香り、酸、甘味を感じ取った後に、緑茶と合わせて、香りや味の変化を五感で愉しむ。レモンは1%の塩水に2分間浸けて、表面を焙っている。


Spring
Springとは、今回の舞台となった浄土寺境内の湧き水のこと。その湧き水で広島県神石郡産の帝釈峡軍鶏地鶏をぎりぎりの火入れでふんわり茹で上げ、焼いたネギと共に。鶏の茹で汁でのばしたイカスミのソースをかけて。「湧き水をメインにとは最初から構想していました。最もその土地由来のものをクライマックスに据えたかったので」と大橋さん。

料理制作:「Clown Bar」渥美創太


Pasture
三次市にある「三良坂フロマージュ」の山羊のフレッシュチーズで作るパンナコッタの下に、セロリとパセリのオイルをしいて。因島産のハチミツ「イントハニー」、三原市「梶谷 農園」のハーブと共に。梶谷農園は日本中のトップシェフが絶大なる信頼を寄せるハーブ生産者。父親から受け継いで営む梶谷譲さんは世界のガストロノミーの最前線を常に把握しながら、日々、種蒔きから収穫まで丹念にハーブを育てる。

料理制作:「TIRPSE」中村樹里子
関西の洋菓子店を経て、29歳で渡仏。パリ「ランスタン・ドール」ではシェフ・パティシエを務め、一ツ星獲得に貢献する。帰国後は「TIRPSE」のパティシエを務めつつ、ランチタイムには「KIRIKO NAKAMURA」としてデザート・テイスティングコースを提供。


Blossom
因島のスナップエンドウで作るビスキュイを下に忍ばせ、マスカルポーネのクリームと桜アイス、桜の花びらをかたどった求肥、瀬戸田町のイチゴで、皿に春爛漫を描き出した。

料理制作:「TIRPSE」中村樹里子

ディナー終了後、スタッフみんなで記念撮影。サービススタッフとして、裏方として、地元の人々がたくさん関わっています。そこがまたDINING OUTの醍醐味。


海、そして島また島、山また山が育む食材




「吉備津彦命(きびつひこのみこと)によって治められたとされるこの一帯は、備前・備中・備後と分けられ、尾道周辺の備後は、備前や備中と比べて平地が少ない。山の前がすぐ海、海には島が連なり、起伏が激しいんですよ」と語るのは、現地在住者として食材の発掘や調達に加わった「citrusfarms たてみち屋」菅秀和さんです。自身がレモン農家であり、ディナーでもThe Five Sensesをはじめとする様々なシーンで菅さんのレモンが使われました。
下の写真は、食前酒とアミューズがサーブされたレセプション会場・浄土寺展望台からの眺めです。まるで川のように見えるのが瀬戸内海。山、海、島がこんなにも接近しているんですね。地形が多様だから、食材も豊か。文物の流入がさらにそれらを磨き上げて、優れた食材の宝庫となっていることは、シェフたちの料理にも見事に反映されています。

水墨画のように空の彼方に馴染んでいく山々が美しい。正面が向島、その向こうに因島、生口島と続く。それらの島々を結ぶのがしまなみ海道。



1582年創業の尾道造酢。1582年とは、本能寺の変があった年です。尾道がいかに時間を蓄積させてきた街であるかを物語って余りあります。1951年に独自に開発した特許製法で作る本醸造酢は、尾道の造船技術が活かされたタンクで熟成されています。


日本各地に眠る愉しみの埋蔵量は計り知れず・・・




DINING OUTが回を重ねる中で見えてきたこと。それは、「日本に眠る愉しみをもっと。」というDINING OUTのキャッチフレーズそのものなのかもしれません。
日本の各地にどれほどの愉しみが埋蔵されているか。その埋蔵量の多さと深さが計り知れないことはDINING OUTが証明してきました。
前述の菅さんの話に登場した「吉備津彦命」とは桃太郎のモデルとも言われる人物。そんなところにまで遡れる風土が身の回りにあることを、今一度、新鮮な眼で見つめ直し、掘り起こしてみる。今、そんなタイミングにあるのでしょう。
4月、DINING OUTのプロジェクトは、地域の価値創造を実現させる専門会社、株式会社ONESTORYとなりました。今後ますます、DINING OUTを通して、日本の地域の愉しみが全方位的に掘り起こされ、魅力あるストーリーと共に国内外に提示されていくことになります。

DINING OUT 公式サイト http://www.diningout.jp/







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