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FEATURE / MOVEMENT

イタリアで活躍する日本人シェフに訊く

イタリア料理人として生き抜くための“ 食材選び”vol.2 「Bistrot 64」能田耕太郎シェフ編

2017.10.06

text by Manami Ikeda / photographs by Masakatsu Ikeda

イタリア料理は、「その土地で育まれた食材を、いかにおいしく食べるか」という知恵から生まれた料理といわれます。
イタリア人を相手に、本場で勝負する日本人シェフたちは、イタリア料理の武器である食材を、どのように選び、料理に落とし込んでいるのか。その考え方に迫ります。


良質のチーズは、僕を試してくる存在。




「地中海世界の料理って不思議ですよね。イタリア、スペイン、フランス、素材はほぼ同じなのに、使い方が違う。面白いなぁと思います」と言う能田耕太郎シェフ。
大学卒業後、イタリア料理の道に入ったが、そこで出会うのは料理も素材も初めて見るものばかりだった。イタリアでヌオヴァ・クチーナ・イタリアーナの父と称され、現在イタリアのトップガストロノミー世界の礎を築いたグアルティエロ・マルケージの日本支店で働き始めた能田シェフは、本国から送られてくるレシピをそのまま正確に再現することを厳しく指導された。その時に出会ったのが、ガルバーニのマスカルポーネ。

マスカルポーネはティラミスの材料として不可欠だが、当時はそれが本当に正しいイタリアの味なのかはわからず、とにかく必死で体に覚え込ませた。その後イタリアに渡り、色々なところでティラミスを作り、食べたが、結局その時のティラミスが一番おいしいと結論した。
「僕にとってティラミス=ガルバーニのマスカルポーネとして染み付いているんです」。

店では、アブルッツォ州やウンブリア州といった中部地方のチーズを中心に数種類、食後のチーズとして提供する。ペコリーノ以外にもカプリーノ(山羊乳製)や牛乳製のチーズを用意し、料理におけるチーズの使い方も、「レストランならではの味に出会ってほしい」と細かい工夫をこらす。
例えば、パスタの仕上げに使うペコリーノとパルミジャーノ・レッジャーノの配分は、アマトリチャーナならペコリーノのみ、カルボナーラはペコリーノを多め、カチョ・エ・ペペ(チーズとコショウのパスタ)やグリーチャ(トマトを加えないアマトリチャーナ)なら、ペコリーノとパルミジャーノ・レッジャーノを半々といった具合。
「アマトリチャーナはトマトがあるからペコリーノ100%でも負けない。でも、カチョ・エ・ペペではすべてペコリーノだと塩辛すぎる。自分で食べて良いと思うベストな塩加減を模索した結果です」。

シェフにとってイタリア料理は「シンプルでおいしい」。トマトソースにメントゥッチャ(野生のミント)、チーズをかけただけですこぶるいい味になる。「どんなに味気ないソースでもチーズさえあれば化ける。反則といえば反則ですけどね」と笑う。だからこそ、レストランではチーズをどう使うかが試される、という。
「何もしなくてもおいしいものをよりおいしく。難しいけれど、素材の見極めと使い道を、より突き詰めて考えるのが料理人に課された務め」だと、考えている。

能田耕太郎シェフ
1999 年渡伊。ヴィテルボでシェフを務めている間に2011年版ミシュランで一ツ星獲得。
2014年から現店に移り、2017年版ミシュランで一ツ星獲得。





◎ Bistrot 64
Via Guglielmo Cardelini, 64 Roma
☎ +39-06-3235531
19:30~23:00 (木・金・土は昼も営業 12:30~15:00)
日曜休
www.bistrot64.it


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