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FEATURE / MOVEMENT

イタリアで活躍する日本人シェフに訊く

イタリア料理人として生き抜くための“ 食材選び”vol.3 「アダ・エ・アウグスト」岩井武士シェフ編

2018.03.06

text by Manami Ikeda / photographs by Masakatsu Ikeda

イタリア料理は、「その土地で育まれた食材を、いかにおいしく食べるか」という知恵から生まれた料理といわれます。
イタリア人を相手に、本場で勝負する日本人シェフたちは、イタリア料理の武器である食材を、どのように選び、料理に落とし込んでいるのか。その考え方に迫ります。


素材をもつ力をどう生かすか、が一番大事。




ミラノ中心部から南西へ18キロ。ほんの少し郊外に出ただけで長閑な田園風景が広がる。岩井武士さんがシェフを務める「アダ・エ・アウグスト」は、乳牛や肉牛を育て、野菜を栽培する農園「カッシーナ・グッツァファーメ」内にある、夜だけ営業するクリエイティブ料理のリストランテだ。

岩井さんは大学を卒業後、3年ほど飲食店などのアルバイトをしながら、「自分のやりたいことは何か」を模索していた。食べることも作ることも好き、特にパスタが好きだと結論して、東京・九段下「トルッキオ」の林亨氏の下についた。一般に比べて遅いスタートだったが、その後4年半、必死でイタリア料理を学び、イタリアに渡った。実はその前に1カ月ほどイタリアを旅したのだが、現地で食べた料理に衝撃を受けたのだ。素材の力強さ、味わいの深さ。もっと知りたいという思いが渡伊を決意させた。 

ローマで最初に入った厨房では、カチョ・エ・ペペの作り方に驚いた。ペコリーノ・ロマーノと黒コショウを茹でたてのパスタにたっぷりかけ、ひたすら混ぜる。それだけで見事な一皿になるのだ。「チーズはすでに完成している食材。それを最大限に生かした料理」だと思い知ったという。
以来、チーズの使い方はとても難しいと感じている。そのまま食べることを目的に作られている食材をあえて料理に使う場合、その旨味やコクをどのように、どの程度生かすのか、微妙なさじ加減を見極めるのに細心の注意を払っている。

実は、もともとチーズは苦手だったという。日本で食べたチーズはあまりおいしいと思えなかったのだ。
「でも、ある時、ガルバーニのゴルゴンゾーラを食べたら、え? おいしい! となって」。そこからチーズとの〝付き合い〞は深まっていった。「カッシーナ・グッツァファーメ」では、リコッタやモッツァレッラ、ストラッチャテッラなどのフレッシュタイプのチーズを作っている。その他セミハードタイプのチーズも外部に委託製造してもらっている。
岩井さんが特によく使うのは、「ムッキーノ」と呼んでいる牛乳製のクリーミーなチーズだ。山羊乳のカプリーノに似ているがクセが少なく、酸味が優しい。ラヴィオリやリゾット、緩めてソースに使う。料理にコクと奥行きを与えるのにぴったりなのだという。

「チーズにしろ、肉や野菜にしろ、自然のものが持つ力をどう生かすのか。それが一番大事だと思いますね」。手を伸ばせばそこに食材がある。しかし、日々その味は微妙に変化し、料理人はそれに真摯に向かい合わねばならない。岩井さんの試行錯誤は続く。

岩井武士シェフ
2007年渡伊。イタリア各地を回り、2015年に「カッシーナ・グッツァファーメ」へ。翌3月よaり同店のシェフ。自然回帰を柱にクリエイティブな料理を追究している。





◎ Ada e Augusto
Cascina Guzzafame, Gaggiano(MI)
☎ +39-389-4543109
20:00~22:00
日曜、月曜、火曜休
www.cascinaguzzafame.it


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