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FEATURE / MOVEMENT

ガストロノミー界の新勢力~ラテンアメリカ現地ルポ(全4回) Vol4 リマで開催された前衛的な食イベント「Gelinaz(ヘリナス)」 | 料理通信

1970.01.01



「ヘリナス」でのテーブルの様子


ハイクラスな料理と芸術が融合した8時間


9月の肌寒い夜、リマの中心地にあるワカ・プクヤーナ遺跡への道をたくさんのキャンドルが照らした。7層からなる日干しレンガ製ピラミッドなど、黄土色の遺跡で構成されたこの史跡は、高級料理に前衛芸術を融合し、8時間ものあいだ、五感をフル稼働させる食のイベント「Gelinaz(以下、ヘリナス)」にふさわしい超現実的な舞台装置となった。前衛的なイベント「クック・イット・ロウ」の共同製作者でもある主催者のアンドレア・ペトリーニは、ヘリナス・プロジェクトを、旅する食の劇場と呼び「これはディナーではない。演劇だ」と語った。 リマでは、「ショーとしての食」というコンセプトが重要なテーマとなっている。会場では、ダイニング・エリアをとりまくスクリーンにビデオが映写され、開くと即席のキッチン・ステージが現れる仕切りカーテンの前には70人が座れる2卓のテーブルが並べられた。コースの合間には音楽の生演奏とダンス、食にまつわるマジックが披露された。


「チケッツ」のアルベール・アドリア(右)



「世界のベストレストラン50」上位シェフが集結


このプログラムには「世界のベストレストラン50」の上位にランクインするトップ・シェフなど22人が参加。シェフのリストには、「ノーマ」のレネ・レゼッピ(2位)、「オステリア・フランチェスカーナ」のマッシモ・ボットゥーラ(3位)、「ムガリッツ」のアンドニ・アドゥリス(4位)、「イレブン・マジソン・パーク」のダニエル・ヒュム(5位)、「D.O.M」.のアレックス・アタラ(6位)をはじめとし、さらにメキシコシティにある「プジョル」のエンリケ・オリベラ、リマにある「マイド」のミツハル・ツムラなど、ラテン・アメリカのスターたちも名を連ねた。シェフたちはそれぞれのやり方で、タコ、ペルー産ポテト、オリーブを使ったガストン・アクリオのスペシャリテ「プルポ・アル・チリンドロ」の別バージョンを完成させた。

「ムガリッツ」のアンドニ・アドゥリス(左から2人目)



おいしさと美しさが同居した創作


料理はどれもウィットと創作力をこめて作りあげられた。アルベール・アドリア(「チケッツ」「41ディグリーズ」「パクタ」)はコリッとしたタピオカとライス・クラッカーをタコの濃縮液で紫に着色し、触手のような形に成形した料理をサーブ。「セントラル」のビルヒリオ・マルティネスは、さまざまな海藻の乾物を使ってタコの居住環境を表現。「クワ」のダニエル・パターソンは、モダニズムの絵画にも似た、おいしさと美しさが同居した冷製スープを料理した。

「セントラル」のビルヒリオ・マルティネスによる仕上げ



クリエイティビティを目撃するチャンス


一方で、このイベントには批判もあった。8時間もタコと格闘し続けるスタミナのあるシェフは多くなかったのである。イタリア人シェフ、ダビデ・スキャビン(「コンバル・ゼロ」)による、ピスコサワー・スープにタコのパテを浮かべた料理のような失敗作もいくつかあった。しかし、先日タイム誌による「食の神13人」にも選ばれたペトリーニによると、完璧であることがこのイベントの核心ではない。ヘリナスは、洗練された高級料理を味わう機会というよりは、世界でも最高にクリエイティブな料理マインドが目前で発揮される瞬間を目撃するチャンスなのだ。高額な参加料を支払う価値があるかどうかについて議論の余地はあるものの(チケットは約750ドルで販売)、ひとつ確かなのは、ペトリーニが素晴らしいパーティーを創造する方法を知っているということだ。

次のヘリナスは2014年にニューヨークで開催の予定。主催者は、同イベントを将来、東京で開きたいと考えている。


text by Melinda Joe / photographs by Santiago Barco / Japanese translation by Yuko Wada





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